響いて、届け



どうして。
「ああ…」
どうして。
「好きだ。」
どうして。
「花宮…。」
どうして、古橋は花宮しか見てないんだ。

どうして。
「ねーねー」
どうして。
「馬鹿なの?」
どうして。
「やっぱザキはこんなもんか〜」
どうして、原は山崎しか見ていないんだ。

もっと俺を見て欲しい、なんて、わがままを言える訳がなくて。
その代わり、いつも口をついて出てくるのは、『古橋って、本当に花宮が好きだよね〜』なんていう、半分本音の、半分嫉妬。
俺がこんな純情なのはおかしいって?うん、ザキには、そう言われたかな。
でも、俺は変態じゃないんだよ?そりゃ、オンナノコとの経験くらいはあるけど(17歳だしね)、でも、真剣に好きになったのは、本当に本当に古橋が初めてなんだよ?
それにしても、古橋はいつになったら諦めるんだろうね。花宮はとっくの昔に別の人のモンになってるのに。
もうそれに気付いちゃってるクセに。はやく俺に乗り換えちゃいなよ。
…って、俺が言っても説得力無いか。だって、古橋の気持ちはずっとずっと前から花宮にあるのに、俺は未だに古橋が諦めらんないんだもん。
もう、いっそのこと玉砕覚悟で突撃しちゃう?あーあー…なんで、俺、こんな報われない奴に恋しちゃったんだろう。
どうせ伝えた所で成功しないなら、いっその事コクらない方がいいよねー。でも、でも。伝えたい、って思ってる俺もいる訳で。
昔、イタズラ仲間に言っちゃったっけな、俺。『好きな奴いるならコクれよ!コクらないでいたって、コクったって、結果は一緒だぜ?なら、伝えた方がいいじゃん?』なんて。
それなのに、今俺は全く同じ状況に立たされてるっていうのに伝えられてないし。けっこー、難しい問題だったね、ごめん。あの時のイタズラ仲間よ。
っていうかー…まだ付き合えても無いのに、どっちが、ネコ、だとか。男同士で付き合うって言う事はつまり、そういうことなんだよなって。
でも、プラトニックな関係のままでも進めたいよね。でも、きっと付き合いはじめたらやっぱりシたくなっちゃうんだろうな。
だって原ちゃん17歳だよ?そーゆー事にも、興味ある、お年頃だしね?
…まだ、付き合えても無いっていうか、期待も持てないのに俺はなに言ってんだろ…。
でも、どうか、どうか期待が持てるなら、誰かが期待を持たせてくれるなら。
ほんの少しは、勇気が持てるかな。


山崎なんかじゃなく、もっと俺を見て欲しいというのは、俺のわがままなんだろうか。
俺は霧崎のスタメンの中でも無口な方だ。だが、一番話す機会が多いのは花宮だと思う。
俺は嘘を吐けないし、ましてや頭のいい花宮や瀬戸の前ではすぐ嘘を見抜かれてしまうから嘘を吐く事は滅多に無い。
だから、花宮の『好きな奴、いないの?』という問いかけにも、正直に答えてしまった。

「原が…好きだ。」
「…ふぅん。原、ねぇ…。」

あの時の花宮の含みのある言い方に、ほんのちょっと期待して、残りの大部分は絶望した。
きっと原は女の子が好きだから。
そうでなくても、きっと山崎や花宮に、あの心はあるから。
原に伝えたとしたら、なんて言われるだろうか。
きっと『え〜古橋、なに言ってるの〜?俺、そっちの気とかないし…。つーか、冗談?あはは、古橋って無表情だから冗談って分かりづらいよーもー』なんて、言われるのだろう。
そう想像するだけで、胸の奥に重しが乗った様な、そんな感じがした。同時に、喉の奥に、なにかがちりっと掠って、熱くなる様な、そんな感じもした。

「原が、好きだ。」

そうやって、声に出すと、胸の奥の重しが取れる様な気がした。
けれども、喉の奥が熱いのは、いっこうによくならなかった。

「原は、俺が、好き、なのだろうか…。」

こんな苦しい思いをするんだったら、最初から好きにならなければよかった、という考えが、一瞬だけ脳裏をよぎる。
しかし、そんな事俺が言える訳がない。心のそこから思える訳が無い。
俺は少なくとも、原を好きになって後悔なんてしていないし、苦しい思い以上に、原と友達としている毎日がとても美しく、楽しくなった。
それでいい、と前は思っていたのに、最近欲が出て来て、付き合いたい、恋人になりたいなんて思う様になった。
ごめん、原。引くよな。
ごめん、原。これから気まずいよな。
ごめん、原。俺のせいで、お前に苦しい思いをさせるよ。
でも、それが俺の願いだから。高校3年間で、お前に伝える最後のわがままだから。
どうか、許してくれ。


人生が変わる様な経験をした、その日の練習終わり。
人生が変わる様な練習ではなかった、その日の練習終わり。
ロッカーが隣の古橋は、普通に着替えてて、ちらり、と見えた肩甲骨が堪らなくエロくて、ほんの少し、興奮した。

人生はこれで終わりだなと覚悟した、その日の練習終わり。
人生が終わるとは思えない練習をした、その日の練習終わり。
ロッカーが隣の原は、普通に着替えてて、ちらり、と見えた目元が堪らなく扇情的で、すごく、興奮した。

「なあ、原。」
「ん?なに、古橋。」

学校を出て、駅に向かう道すがら。たった二人きりの帰宅は、なんだかちょっとだけ、期待しちゃう。

「ずっと、お前に言いたかったことがあるんだ。」

待って。本当に、期待する。こんな少女漫画みたいな展開、俺には似合わないって。
「…へぇ?なによ、古橋。」
「…その。」

好きだ。お前が。響いたその三文字を受け止める事は中々出来なかったけど。
なんだか、世界に色がついたような感じがした。

「なあ、原。」
「ん?なに、古橋。」

学校を出て、駅に向かう道すがら。ああ、これで俺の人生もおしまいだと決心して、原に話しかける。

「ずっと、お前に言いたかったことがあるんだ。」
「…へぇ?なによ、古橋。」
「…その。」
好きだ。お前が。響かせた三文字が原に届くまでは数瞬かかったけど、期待が持てそうな、前向きな反応に、ゴクリと喉が鳴った。

「古…橋…?」
「?なんだ、原。」
「あの、その、好き、って…?」
「ん…その、ままの意味。すまん。お前にコッチの気はないっていうのに。」

なに、言ってるの、この人。っていうか、好き?なんで。両思い?訳分かんない。ホモの両思い?本当に、訳が分からない。

「え、いや、コッチの気って…。いや、原ちゃんも、古橋が、好き、だよ?」

なんだかなにも分からなくなって、ちょっとおどけた言い方になった。
だけど、さっきから顔が火照って熱いから、きっと古橋にも届いたんだと思う。その証拠に、古橋は俺の手を静かに取っていた。

「古…橋…?」
「?なんだ、原。」
「あの、その、好き、って…?」

ん…?もの凄く、好感触。これは、もしかしたら、期待、しても、いいのか?

「ん…その、ままの意味。すまん。お前にこっちの気はないっていうのに。」
「え、いや、コッチの気って。いや、原ちゃんも、古橋が、好き、だよ?」

もの凄くどもって、キョドって、なにがなんだか分からなくなってる原。
ちょっとおどけた言い方が、もの凄く、可愛いと思った。だから、伝わっているよ、という意を込めて、俺は原の手を取った。
真っ赤に色づいた頬は夕日を照り返して。前髪の間からちらりと見える瞳は、まっすぐと俺達の未来を見据えていた。




これも友人に頼まれて書いたものでした。少女漫画みたいな、綺麗な古原をテーマに。






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