「猫と衣装と」後
特別
「猫のお姉ちゃま、とてもお似合いよ!」
「ありがとうございます、日の宮さま」
手を叩いて微笑む日の宮に、宮子も微笑んだ。
挿頭の君を追っての騒動の直後、宮子は蛍の宮に連れられて桐壺を訪れた。そこで蛍の宮から衣装を渡され、日の宮にせがまれるまま着替えた。
もともと着替えるつもりだったのだが。破いてしまったところは、あとで繕っておこう。
日の宮に似合う似合うと誉めそやされながら、宮子は自分のまとう袿を眺めた。
言い出したのは日の宮だったそうだが、これを実際に選んでくれたのは蛍の宮なのだ。そう思うと、胸があたたかくなる。
ふふふ、と宮子は笑う。
あの怒りんぼの宮さまが、衣装をくださった。香は度々もらっていたけれど、衣装は初めてで。−−嬉しい。
「猫のお姉ちゃま、さっきから一人で笑ってらして、どうなさったの?」
「ふふふ、宮さまから素敵な贈り物をいただいたことが嬉しいんです」
「きっと、兄さまもお姉ちゃまの笑顔が見れて嬉しいはずよ。だって、お姉ちゃまは兄さまの『特別』だものね」
「ひ、日の宮さま……」
宮子が顔を赤くすると、日の宮はきゃっきゃっと笑う。
そこへ蛍の宮が戻ってきた。
「楽しそうだな」
「あ、兄さま!」
宮子は先ほどの言葉が残っていて、蛍の宮を直視できない。だが、蛍の宮は宮子の様子には頓着せず、妹宮に笑いかける。
「なんの話をしていたんだ?」
「猫のお姉ちゃまは、兄さまの『特別』ねってお話よ。お姉ちゃまが、日の宮のほんとうのお姉ちゃまになってくださったらよろしいのに」
「は?」
「日の宮さま!」
日の宮の笑顔に蛍の宮は目を丸くし、ぼふん、と宮子は顔をさらに赤くしたのだった。
2010.6.11