僕が癒してあげるよ
「はッ!やぁ!!」
「シュエー、脇ががら空きだぞ?ほれ」
「ぎゃ!お、お父さんセコい…!」
「なーに言ってんだ。脚ばっか使ってっからそうなるんじゃねぇか」
「うぐ…言い返せない…」
ただいまお父さんに稽古をつけてもらっている最中でございます。悟飯はお昼寝しててしばらく起きないし、お母さんも夕飯の支度で忙しいからバレないように稽古をするにはこの時間帯しかないのだ。
「ふんッ!」
めきょり、と脚に力を入れるといとも簡単に地面を踏み抜いた。
最近気付いたことなんだけど、どうやら私は脚力がバカみたいに発達してるらしい。それをお父さんが見抜いたのは2ヶ月前。森でちょっとした解せないことがございまして、さっきみたいに地面を踏み抜いたところをたまたまお父さんに見られたんだよね。まぁ、それを期にきちんと稽古してもらえることになったんだけど。
「うっひゃぁ…おめぇの脚はどーなってんだ?」
「知らない。さぁお父さん!もう一回お願いします!」
「よっしゃ、どっからでもかかってこい!」
「とりゃ!」
腕でお父さんの拳をいなしつつ脚で攻撃をけしかける。さすがお父さん。掠りもしないや。
「ぜ…ぜぇ…ぐ、」
「でーじょうぶか、シュエ?休憩するか?」
「ッ…しない、!」
「よし、それでこそオラの子だ!」
再びお父さんの猛攻が襲い来る。今度は攻撃から目を逸らさず、避けることに意識を集中させる。
「避けてばっかじゃ意味ねぇぞ!」
「、…」
まだ…まだだ…十分に引き付けて…
「でやぁ!!」
今だ!
「せいッ!!」
「おわぁ!」
チッと微かに私の蹴りがお父さんの腕を掠めた。やった!と喜びを噛み締めたのも束の間。私の体は宙を舞って、背中から地面に激突した。
「げほッごほッ…い、一本背負…だと…」
「わ、悪ぃシュエ!つい思いっきりやっちまった…」
「い、いいよ別に…本気でやらなきゃ稽古にならないよ」
女である私の体に傷でもと思ったのか、お父さんはずっと申し訳なさそうに眉を下げている。もー!!私が気にしてないって言ったら気にしてないの!!
男はどうしてこうも女々しいのかしら!!
「お父さん女々しい!私は強くなりたいから怪我も承知なの!生傷なんてなんてことないの!わかった?」
「で、でもよチチが…」
「怪我が見えない服着たらいいじゃない。ね?」
さ、帰ろ!お母さんのお手伝いしなくちゃ!
ぐいぐいとお父さんの手を掴んで引っ張る。ぐ…お、重い…やっぱ子供が大の大人を引っ張るには無理があったか…
背後でお父さんが苦笑した気配がした。そしてひょいっと私を肩車して、そのままのそのそと歩き出す。
「うお、高い!絶景!すげぇ!」
「はしゃぎ過ぎて落っこちんなよ?」
「安定感抜群だから任せて」
ぐ、と親指を立てて見せると、なっはっは!とお父さんは豪快に笑った。
家に着くと悟飯が大変ぐずっていて、案の定私とお父さんは大慌てだった。
「あぁあよしよし悟飯泣かないでー!おねぇだよほら!ほらぁ!」
「うぅ〜…おねーしゃ、だっこぉ…!」
「はいはいしてあげるから!」
「…泣きやんだ、悟飯ってどんだけシュエのこと好きなんだ…」
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