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残酷な世界で見る夢



「夢幻層、神殿にあった。でも、先代の神様がいなくなったとたん、消えてなくなった。多分、もともとそう言う風に先代の神様が仕掛けていたんだと思う」


そうポポさんは言った。以前お姉ちゃんの話しを聞いた時は、この神殿から地獄と繋がっている夢幻層に入ったって言っていた。けれど、ピッコロさんと合体した神様がいなくなったことによって消えてしまったその部屋に行くには、地獄に行く必要があるみたいで。


「僕が行きます」


そう言うとお父さんたちは驚いたように僕を振り返った。小さい頃からお姉ちゃんは僕を見つけるのが上手だった。僕がどこにいようと、どこかで迷子になって泣いていた時も、必ずお姉ちゃんが見つけてくれていた。だから、今度は僕がお姉ちゃんを見つける番なんだ。
超サイヤ人化を解きながらお父さんに向き直ると、存外穏やかな顔をしていて今度は僕が少し驚いた。


「お願いしますお父さん。僕に行かせてください。必ずお姉ちゃんを連れて帰ってきます」

「………」

「………」

「……そう言うと思った。おめぇはシュエが絡むといつも必死だもんな」

「…たった1人の大切な姉ですから」

「別に隠すことはねぇさ。なんとなく、わかっちまうんだよな。おめぇたちを見てっと」

「!」


困ったように笑うお父さんを凝視する。だって僕とお姉ちゃんはどこまでも自然を装っていたし、見た感じは今までの関係を維持してきたつもりだ。それに、こういうことには限りなく疎そうなお父さんが気付いたんだもの。
…あぁでも、お父さんは変なところで鋭いから、逆に僕たちが自然すぎて感づいたのかもしれない。お父さんやお母さんに対する激しい罪悪感や背徳感が渦巻き、思わず顔を伏せる。けれどお父さんはいつも通りのからり、とした笑顔を浮かべながら僕の頭に手を乗せた。


「おめぇたちについてオラはどうこう言うつもりはねぇ。誰にも何も言わねぇ。だから、こっちはオラたちに任せて悟飯はちゃんとシュエを見つけてくるんだぞ」

「…ごめんなさい」

「謝んなって。おーいピッコロー!後は任せたぞ!」

「…いいだろう。引き受けてやる」

「サンキュー!ほれ、閻魔のおっちゃんのとこまで連れてってやるから掴まれ」

「は、はい…!」


お父さんの胴着の裾を握りしめる。瞬間移動する直前、ふと目が合ったクリリンさんが苦笑いしていた気がした。





「着いたぞ」


一瞬にして風景が変わった先は、赤いカーペットが敷いてあるとても広い部屋の真ん中だった。周りにいる頭にツノの生えた鬼たちが驚いたように僕らを凝視している。そんな彼らに物怖じせずに「よッ」とまるで街中で友達と出会った時のように片手を上げるお父さんを猛者か何かなのかと一瞬思ってしまった僕であった。


「誰かと思いきや悟空ではないか。それとそっちは…」

「息子の悟飯だ。なぁ閻魔のおっちゃん、ちょっと聞きてぇことがあんだけど、今いいか?」

「ちょうど落ち着いたところだから構わんぞ」

「そうか!あのさ、ここにセルってやつが来ただろ?」

「セル?おぉ、来たぞ来たぞ。あいつのせいでワシは大忙しだ。しかも来た瞬間にここで暴れ回ったからな、即行地獄行きにしてやったわい」


がっはっは!と豪快に笑う閻魔大王様に背筋が凍えた気がした。あ、あのセルを地獄に落としただなんてすごい…。でもそんな閻魔大王様とタメで話しているお父さんもほぼほぼすごいと思う。
ひえぇー…と驚くお父さん。だが、ハッ、と本来の目的を思い出したのか途端に真面目な顔になった。


「そのセルが来る前にさ、シュエって名前の女の子来なかったか?」

「シュエ?ちょっと待ってろ」


変に胸が騒ぐ。うるさく脈打つ心臓を抑えるようにそこの服を握りしめると、閻魔帳をパラパラとめくっていた閻魔様の手があるページで止まった。


「あったぞ。お前の娘じゃないのか?」

「うん、そう。だからさ、シュエがいる夢幻層に連れてってくんねぇか?」

「…悟空よ、なぜお前が夢幻層のことを知っている」

「神龍に聞いた。シュエの魂がそこにある限りナメック星のドラゴンボールでも生き返らせることはできねぇみたいでさ。どうにかしてぇんだ」

「夢幻層がどういう場所かわかってて言っておるのか?」

「詳しくは知んねぇけどよ…。神龍が”魂の未練がひしめく場所”って言ってた」

「…夢幻層とは、何かしらの理由で天国にも地獄にも行くのを拒んだ者たちの魂が集う場所。無法地帯と言ってもいい。それだけならまだいい。だが、魂たちの深い未練や負の感情が怨念となって渦巻く場所でもあり、そこに一歩でも足を踏み入れようものなら逆に自分の魂を持って行かれてしまうのだ。地獄のどこよりも危険で残酷で安心できる場所。それが夢幻層だ」


安心、とはきっと夢幻層にいる魂がそう感じているんだと思う。外界から遮断された世界はどこよりも危険だけど、その代わり安全を保障された場所でもあるのだ。魂同士はお互いを干渉することなく自らの未練を募らせる。そして踏み込んだ者を容赦なく食らうそれはまさしく”闇”だ。

そんなところに、お姉ちゃんはいる。あの人が何を思ってそんな場所に引きこもったのかはわからないけれど、僕は約束を破られるのが一番嫌いなんだ。お姉ちゃんは僕との約束を片手で数えれる程度も守ったことはない。だから言いたいことはいっぱいあるし、セルゲームの前に交わした約束を無理矢理にでも守らせるつもりだ。言い逃げなんて絶対に許さない。だって僕はお姉ちゃんが好きだから。


「それを承知でもう一度お願いします。…僕は夢幻層に行きたい、いえ…行かなければいけません。なので、行く許可をください」

「…生身の人間が入れば末路は見えているんだぞ」

「それでも!…それでも僕はお姉ちゃんを迎えに行く」


沈黙する閻魔様を見つめる。
正直、もし仮定でお姉ちゃんを見つけられたとして、僕らが揃って夢幻層から出れるとは限らない。もし2人揃って出られなかったとしたら僕はそれでもいいと思ってる。なぜなら僕はお姉ちゃんがいればそれでいいから。未練だろうが怨念だろうがが渦巻いていても、そこにお姉ちゃんがいたのならそこが僕の世界なのだ。
恐らく僕の心情を見透かしたのであろう閻魔様は呆れながら深く溜め息をつくと、徐に机に筆を走らせた。


「…通行許可書だ。これを夢幻層の見張りに渡せば入ることができるし、誰にもとがめられることはない」

「…!!!あ、ありがとうございますッ!!」


閻魔様から渡された紙を受け取る。通行許可書、と書かれたその周りを不思議なミミズが這ったような文字で囲まれていて、見たことのないそれは僕にも読むことができなかった。


「父親が父親なら、息子も息子だ。全く、揃いも揃って無茶ばかりしおってからに」

「ははッ、悟飯もシュエも変なところでオラに似ちまったみてぇでよ。…とにかく、サンキューな、閻魔のおっちゃん」

「行くのは息子1人か?」

「はい」

「…そうか。夢幻層はこっちの引き出しから行くことができる。1本道をずっと真っ直ぐに進め。そうすれば出口が見えてくる。そこにいる見張りに、渡した通行許可書を見せるんだぞ」

「わかりました」


まさか夢幻層が閻魔様のデスクから行けるとは思ってもみなかったけれど、でもまぁ危険な区域を閻魔様の近くに置くのは妥当な判断だと思う。
お父さんに振り返って、深く頭を下げた。


「お父さん、こんな我が儘を言ってごめんなさい…。でもお姉ちゃんは僕にとっての全てなんだ。絶対にこの世に戻って来れると言う保証も約束もできません。だから…」

「バカ言ってんじゃねぇぞ」


ごちんッ!と頭に激痛が走り、文字通り目の前を星が散る。打たれた箇所を押さえながら呆然とお父さんを見上げると、セルを目の前にした時のようなとても怖い顔をしていた。思わず一歩後ずさる。


「何が何でも、それこそ手足の骨折ってでもシュエを引っ張って戻ってこい。あいつが駄々こねようが屁理屈言おうがぜってぇだ。悟飯がシュエを全てと言うなら、責任を果たせ。わかったか」

「…は、い…」

「まぁつまり…子供がいなくなって喜ぶ親はいねぇってことだ」

「ッ!」

「男同士の約束、ってな」


約束とは、相手に対し、または互いに取り決めを行うこと。そしてそれは誓いをたてるものと同時に自分自身を縛る呪縛でもあると僕は思う。けれど、お姉ちゃんを含め全員が揃って笑いあえる未来があるのなら僕はその呪いでさえ受け入れようと思う。
こくん、と頷き突き出されたお父さんの小指に自分の小指を引っ掛ける。


「オラたちはナメック星に行ってドラゴンボールを集める。ポルンガなら一度生き返ったやつも生き返らせることができるからな。こっちの心配はおめぇはしなくていい。悟飯は自分のやるべきことをやるんだぞ」

「はい」


行ってきます。そう言って僕とおとうさんはお互い背を向けて、自分のなすべきことをするために駆けだしたのだった






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