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初体験2



そっと寝かされたベッドは、いつも私が寝ているそれなのに。
まるで知らない場所みたいに思えた。

「……綺麗だ」

そう言って私の上で笑う西谷は、緊張の所為なのか声が震えてて、一瞬、泣いてるのかと思ってしまった。

「……あんま見ないで。恥ずかしいからっ」

そう言って胸を隠そうとすれば、遮るようにシーツに縫い止められる私の手首。

「何言ってんスか。ナマエさんが見られて恥ずかしがるようなとこなんて、一つも無いですよ」

西谷はそんな歯の浮くような台詞を吐いて、笑いながら私にキスをした。


今度は優しく、でも、ゆっくりと押し開くように、口付けは深くなる。

「ん……は、……ぁんっ」

必死に息継ぎしようとすれば、漏れる甘い声。

こんないやらしい声が、自分の口から出ているなんて。
信じられない心持ちはしたけれど、不思議と抑えなきゃ、とは思わなかった。

きっと、正面から私を見つめてくれるこの視線に、応えたいと思ってしまったからだ。

「……ん、ふぅ」

ちゅっと唇を吸って、離れていく彼の口は、そのまま首筋に付けられる。と、その濡れた感覚にゾクリと背筋が震える。

「かわいいっス……」

西谷が吐いたそんな言葉に羞恥を煽られながら、既に湿り始めている自身の下半身を意識した。

うわ、私、もしかして淫乱かもわからん。なんて思ってしまうことさえ、今は媚薬のようだ。

そして、首筋、鎖骨をなぞるように降りてきた西谷の唇が、胸の中央をぬるりと舐め上げる。と、

「……っは、ぁあっ」

一瞬、西谷も驚いて私を覗き込む。
そんな悩ましい声が出てしまう。

うわ、嘘、なんて声っ!
なんて恥じらう余裕もなく、私の両手を押さえ付けていた彼の手は離され、片手は空いている胸の中央を摘むように、そしてもう片方は私の耳に伸ばされた。

乳首を優しく舐められて、かと思えば反対では指で軽く弾かれて、耳なんて普段はただの音を拾うための器官さえ、弱く愛撫される。

「あっ……やっ、夕ぅっ」

そんな、同時に触られたらおかしくなってしまいそう。そう思って西谷の髪を掴む。

けれど、

「本当に嫌スか?」

私の胸から顔を上げた西谷は、意地悪で言ってるのか、私の嫌がる声にそれとも不安になったのか、なんとも言えない声色で問う。

「へ、」

その問いに驚いて目を見開けば、

「でも、気持ち良さそうですよ」

私が答える前に、彼はそう言って私の口を塞いだ。

「んっ……はぁっ」

西谷に一瞬で口内を荒らされれば、どうしてだかそこはさっきより敏感になってる気がした。

うわ、なんだろ。
もうキスだけでなんか、子宮疼いてる、かも。

その間もするすると下りていっていた西谷の指は、私の茂みへと滑り込む。

と、

「すげぇ……濡れてる」
「……っ」

私のソコは、軽く触れただけでもわかるほどに溢れ返っていた。

「そんなこと言わなくていいからぁっ」

ただでさえ処女のくせにこんなに濡れるとか、淫乱みたいでもう逃げたいのに。
西谷の呟きで耐えきれなくなって、私は両手で顔を覆った。

「あ、すみませんっ……ナマエさんが感じてくれんの、嬉しくて。つい」

その声が照れてるのが分かって、ますます恥ずかしくなる。
あーもーっ穴があったら入りたいよっなんて唇を噛み締めてる私に、

「……触り、ますね」

ごくんって生唾を飲み込む音がして、そろそろと西谷の指が奥へ伸びていく。

そして、自分でも触れたことの無い深みへと、彼の指が埋まっていった。

「ナマエさん……痛くないスか?」

酷くゆっくりも膣内に指を進めてゆく西谷は、なんだか苦しそうな顔をして訊いてきた。

私に痛みが無いのか、心配してくれてるのだろう。

確かに、指一本しか入っていないというのに、苦しかった。
少し、痛いような気もした。

でも、

「うぅん……多分、平気」

死ぬほど恥ずかしいことにさえ目を瞑れば、ちょっと気持ちいいとすら感じる。

もしかしたら私、本当に淫乱なのかも。なんて、まるで違う不安を抱く私をよそに、

「ゆっくり……するんで、痛かったらすぐ言ってください」

西谷はこれでもかってくらい優しく、その指を動かした。

奥を解すようにナカで指を曲げられると、不思議な感じだった。

私の中に、確かに西谷が入り込んでいるのだという異物感。
その間に響く、耳を塞ぎたくなるような水音。その正体は考えるまでも無い。

西谷の指に掻き出されて、さっきからより溢れさせていることくらい自分でもわかっていた。

そして、

「……あっ!」

その感覚は唐突に訪れる。

西谷がとある場所を擦りあげた瞬間、明らかに高い声が漏れた。

「……っ!……ココ、スか?」

その声に一瞬眉を上げた西谷が、次の瞬間にはまた同じ場所で指を曲げた。

と、

「……やぁっ!」

私の腰が跳ねる。

にやり、と西谷が笑うのがわかった。

「初めては痛いだけって言うんで、ナマエさんにはキツイ思いさせるだけかもなって思ってたんスけど、」

なんだか感慨深げにそんなことを話す西谷は、私の反応が明らかに感じてしまっていたそこ、を内側から擦りつつ、今まで触れなかった入り口の突起にまで指を這わせた。

「あぁ……ぁんっ」

途端、体に走る段違いの快感に、私は無意識に腰を浮かせていて。

「ちゃんと気持ちよくしてやれそうで良かった」

安心したように呟かれた直後、一際敏感なソコに触れていた指が圧し潰すように力を加えながら、痛くないギリギリで擦られる。

と、

「あ……っなぁっんっ」

何かが迫っている気配がした。
思考が鈍っていって、胸が酷く切なくて、西谷が指を抜き差しする膣内が収縮するのが、わかった。

その感覚が怖くて、咄嗟に掴んだ西谷の腕に爪を立てる。そして、

「やぁ、……夕っだめ……っ」

下腹部に溜まってきていた熱が、一気に弾けるように全身を波打つ。

「あぁあ……あぁんっ」

瞬間、何も考えられなくなって身体がビクッと震えた。

何、今の。なんて、濁った思考で考えながら、はあはあと荒い息を繰り返す私に、

「ちゃんとイけました?」

なんて問い掛けながら、頭を撫でてくれる西谷。

けど、

「……っ」

西谷が頭を撫でるその刺激すら、今の私には快楽を伴うもので。

声を押し殺して震える私に、西谷がまた息を飲む音がした。

「ナマエさん、俺……もう、すみません」

ぐったりと力を抜いた私に本当に申し訳なさそうに言う彼は、その目を細めて切なそうな顔。その顔のまま言われた、

「挿れたい」

なんとも直球な一言に、イッたばかりの私の膣はキュッと反応する。

それが私の返事のようだ。だから、

「うん。いいよ」

微笑めば、西谷は泣きそうな顔で笑い返してくれる。





ズボンを脱いだ西谷が私の股の間に入り込んで、

「好きです、ナマエさん」

なんだかとんでもないところから告白してきて。
正常位って一番オーソドックスな体位の筈なのに、こんな恥ずかしい格好って……と私の熱はより高まってしまった。

暗がりでは、彼のモノがどれくらいの大きさなのか、どうやってゴムをつけたのか、経験のない私にはまるでわからなかった。

っていうかもう恥ずかしくて死にそうなのに、そんなの見る余裕がなかった。

私はもう、あれだ。男の下でじっとしてる、マグロ女ってやつだった。

でも、どうにかしようにも今はもう心臓が致命的に音をあげてて、情けないけどそれどころじゃなかった。

「もし、痛くて無理そうなら、ちゃんと我慢しないで言ってくださいよ」

そう言って私の頭を撫でながら、濡れそぼった入り口に当てがわれたソレは、思わず震えるほどに熱くて。
怯んでしまいそうになる。

怖かった。
大好きな西谷がこんなにゆっくり私の体を解きほぐしてくれて、ようやく待ち望んだ瞬間なのに。

目の前にいるのは私がいつも好きだなぁって思って、日々惚れ直してゆく愛しい彼氏なのに。

私をいつもゾクゾクさせる西谷の鋭く射抜く瞳にさえ、恐怖を感じた。

「うん。ありがと。でも、」

けど、

「私だって西谷とひとつになりたいよ」

そう言った気持ちも、心からの想いだった。

だから、私はちょっと腹筋に力を入れて、西谷の唇に触れるだけのキスを落とす。と、

「……これ以上煽んないでください」

西谷は真っ赤な顔で、

「優しく出来なくなったら、どうすんスか」

奥歯を噛み締めて呟く。

それからぐっと押し進められた腰に、

「……っ!」

私はシーツを握りしめて唇を噛んだ。

「は……ぁっ!」

息がうまくできない。
あれほど慣らしてもらっても、流石は処女。まだ半分も入っていないのに、痛みで生理的な涙が頬を伝う。

「きっつ……いっ」

恐らく、ぎゅうぎゅうと締め付けるばかりで何も具合は宜しくないであろう私の中で、西谷は努めてゆっくりと私の中に入り込んでくる。

息のうまくできない私を気遣ってか、愛おしそうに落とされるキスは、あまりに優しくて。

「……っ」

なんだか膣内まで震えたのが、多分、中に入っていってる西谷にもわかったと思う。

ゆっくり、ゆっくり、私の中に入ってくる西谷は、全部収まると、余裕なく笑った。

「分かります?ナマエさん」

彼の指が私の髪を梳いて、

「すげー、あったけーっ」

それから西谷は私をぎゅっと抱き締めた。

そうするとふたりの心臓が体の左右で忙しなく鳴っているから。

そういや私たち、心臓交換しあったけど、こうしてるとどっちが自分ので相手のかわかんないなあ。なんて、ちょっと笑えた。

「ごめんね、西谷」

西谷の背を私も抱き締め返して言えば、

「何がスか?」

彼は不思議そうに呟いて、私の顔を見ようと抱き締めた腕を解こうとする。

けど、私は腕の力を緩めてあげない。
西谷には悪いけど、もう少し心の臓器を重ね合わせていたかった。

「私、初めてだから、西谷のこと気持ちよくしてあげられないかも。ごめん」

瞼を閉じて、不甲斐ない気持ちに唇を噛み締める。と、

「……っナマエさん、あんま煽んなって言ってんじゃないスか。マジで、今俺余裕が、」

私の上で西谷が動揺している、みたいだった。だから、

「いいよ」

私は彼の黒髪を撫でる。

けれど指に絡みつく、ワックスのついたべたついたその感触に、苦笑いが漏れた。

「え、」

その動揺に漬け込むように、

「西谷の好きに動いていいよ」

悪魔の囁き。

私の為に、優しくするってあんなに言ってくれた人を、そそのかす。

「……っ!」

案の定、顔を見なくても背中がピクリと震えるから、西谷が狼狽えてるのくらいわかる。

「西谷が気持ちいいなら、私も嬉しいから」

よし、もう一押し。そう思った瞬間には、

「ナマエ……っ」
「っ……、……くっ」

西谷の腰は限界までひかれて、また突き上げられる。

途端、走る痛みは私を内側から引き裂いてしまうようだった。

必死に息をしながら西谷の首にしがみつく私に、西谷は腰の動きを緩めないまま、

「わりぃっもう少し、我慢してくれっ」

苦しいのか、気持ちいいのか、私には預かり知れぬところで耐えるように眉を寄せた。

「あ……へーきっ……っだよ?」

律動を繰り返す西谷の耳に唇を当てれば、

「……っ、ナマエん中キツくて、俺っ」

彼の背がブルっと震えて。

え、キツい?痛いの、かな。なんて困れば、

「も、出る」

一段と強く打ち付けてから、西谷の荒くなった息が、ハアハアと耳元に響く。

「……っ!?」

と、私のナカで西谷の熱も、脈打って。

あ、出たって私にもわかって、なんか背筋がゾクゾクした。

「……すみません、ナマエさん。大切にするって言ったのに」

私の背を掻き抱いてそう言った西谷は、後悔してるみたいだった。

「ん……?何言ってんの?大切にしてくれたじゃない」

でも、何言ってんのこいつって思った私は、西谷の後頭部辺りをポンポンした。

「でも、最後……痛かったっスよね」

けど、彼はまだ黙らない。
相当我を忘れたことを悔やんでいるらしい。

「んー……まあ、それは仕方ないでしょ」

バカだなぁって思った。
あれ、私が煽ったっていうか仕向けたようなものだし、大体初めてが痛いのなんか西谷の所為じゃないのに。

「すみません、今、」

退きます、そう言って腰をうかせようとする西谷。その腰に、

「西谷ぁ、私、今すっごい幸せだよ」

私は恥じらいもなく脚を絡めて。
彼を私のナカから逃げられないようにした。

そして、

「だからすみませんじゃない言葉がいいな」

「え……?」

誰かさんみたいなこと言えば、間抜けな声が聞こえてくる。

「えっちしてありがとうはなんか違うけどさ、謝られるのもやだなぁ。だから、」

ぎゅっと強く抱き締められた。

「はい。好きです」

え?なんて私が反応する前に、

「ナマエさんエロすぎて、俺はもう……っ」

繋がった下半身に感じる、絶対的違和感。

「え、ちょ……っ」

私のナカに未だ収まっている、確かに欲を吐き出して治まったと思われた息子が、明らかに元気を取り戻しつつある。

「初めてじゃなかったら、もっとめちゃくちゃしちまってたかもしれねぇ」

そう言って息を吐いた彼の顔を覗き込めば、まだまだいけるぜって目が言ってて。

私は苦く笑ってから、腰に回した脚を解いた。

流石に、今日これから二回戦的な何かをする力はない。

でも、

「いつか私が、西谷の腰を立たなくしてあげる」

ちょっとだけ威勢を取り戻した。
その後、後始末をしていたら私の股から流血してることに気付いた西谷が慌てちゃって、私達のし初体験は締まらない感じで終わった。

それからふたりで笑いながら服を着て、私は化粧落として(めちゃくちゃ眠かったけどこれだけは忘れてはならない)、西谷は興奮してて寝付けないから外走ってきていいスかとか言い出して、それを必死に引き止めて一緒にベッドに入った頃には深夜2時を回ってた。

憧れの腕枕はなんか顔近いし照れくさ過ぎたけど、西谷に抱き締められて体温に包まれて眠るのは中々胸がいっぱいになる幸せだったと思う。

強いて言うなら、ぎゅっと抱き締めながらも西谷が腰引けてる理由に、早く追求できる私になれたらいいな。

まあ、今の私にはちょっと、男の子の生理現象に突っ込んでいく余裕は無いから。

脱マグロする頃には、西谷の性欲をイジれるようになろう!なんて考えながら、私は落ちるように眠りに着いた。


それから10分後、私が寝付いたのを確認してから起き出した西谷が、用意してたサプライズを私の左手薬指に仕掛けてくれてるなんて。

その時の私は、まだ知らない。


ただ、寝付く直前、

「ああ、強引な西谷も好きだ……はあ」

先に寝たと思って私が呟いたひとりごとは、つまりは聞かれてたってことかぁって、後で気づいて恥ずかしかった。




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