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運命かもしれないバカップルの日常
西谷と付き合って早三ヶ月。 未だまともなデートってものをしたことがない。
けど、暇を見つけては私の家に遊びに来る西谷は、土曜日の今日は練習が午後からだからそれまで遊びましょってバレーボールを持参してきた。
「ナマエさん……オーバー上手いっスね!?」
パス練なんてまともにやるのはもう2年ぶりだった。 でも、意外と身体は忘れていないもので、
「んー?まーあねー?」
現役プレイヤーの西谷に褒められて、私は得意げになる。
「くぅあーっナマエさんの幼馴染羨ましいぜーっ」
と、突然西谷が奇声をあげるから、ビックリした。
「はあ?なんで?」
でも、そんな声をあげながらもボールは綺麗に私の手元に返ってくる辺り、やっぱすげーなって思っちゃう。
バレーしてるときの西谷は、やっぱり一片の曇りもなくキラキラだ。
「俺も美人の幼馴染にバレーの練習付き合ってもらいたかったーッ!!」
と、叫ばれる先程の奇声の理由。
「はあー?なーに言ってんのー?今彼女としてっ……と、パス練出来てんじゃん!」
なんとくだらない理由なんだ。 笑ってしまう私はちょっと手元が乱れてしまった。
「そ、それはそうなんスけど!」
でも、多少のパスの乱れなんて西谷にはどうってことない。だから、
「私の過去まで欲しがるなんてーっ欲張りだねーえ!」
ちょっとはミスらないかなーって、ちょっと意地悪を言う。 心理的に揺さぶる作戦だ。
実はボールを落とした方がお菓子を奢る約束をしてる。
「なっナマエさ」
よしよし、ボールじゃなくて私を見てるなー?てニヤリとするけど、完全にボール見てなくても視界には収まっているらしく、西谷はミスらない。
くそう。こうなったら、
「まあいいじゃない。私の未来は少しも残らずあんたのもんなんだから」
私はさらに揺さぶりをかけることにした。
「……っ!」
案の定、西谷はかなり驚いた顔で私を見てた。
「それにさーっ!っと、ファーストキスも処女も貰っといて、」
勝利を確信した私の一言に、
「……っ、なぁあっ」
西谷は動転。遂にボールは道路へと落ちた。
「貪欲だねー?にしのやーっ」
ニヤニヤ。なーに買ってもらおうかなー?って笑う私に、
「あ、ちょっ心理作戦は卑怯ですよー?!ナマエさーんっ?」
西谷は途中から明らかに相手の動揺を狙いに行ったことに気付いて咎めるけど、そんなの今更だ。
ボールを落とした方が負け。
「あはははは、作戦勝ちだから〜」
もちろん反則じゃない。 会話で揺さぶっちゃいけないなんてルールは初めから無いのだ。
再三私を抱いといて、こんなことで動揺する方が悪い!
*
「でももし、宮城に引っ越してこれてなかったらさー?私達出会えなかったかもしれないんだよね」
コンビニ帰り、私は西谷に買ってもらった肉まんを頬張りながらそう口にした。
お菓子って約束だったけど見たら肉まんが美味しそうだったから、西谷とふたり、頬張りながらうちへ帰る。
「あ、そっか。そうですね!そう考えたら運命っスね!」
運命、なんて大それた言葉を口にした西谷に、
「あっははは確かに!あ、でも、私もし予定通りの高校入ってたら、バレー部のマネージャーやるつもりだったから!もしかしたら全国大会で出会えたかもねー!」
私はゲラゲラ笑ってから、運命なら、もし今が違っていても西谷に巡り会えたんじゃ無いかなー?なんて、乙女なこと考えてみちゃう。
もし私が音駒に進学してしまってたら、私達はこうして結ばれていない。
けど、ふたりの赤い糸はそれでも尚惹かれ合うんじゃ無いか……なんて。 子どもじみてて、馬鹿げた妄想。
「うわ、なんスかそれ!だとしたらそれこそ運命の出会いを果たしてたかもしんねぇッスね!」
でも、西谷も笑いながら同意してくれた。
他校のマネージャーとどう出会うつもりなんだろう。出会い頭で告白してくれるのだろうか。
あの日私に名前を訊いてきたみたいに。
「まあ、烏野が全国行けたらだけど」
まあまず、前提がそこ。全国行かなきゃ東京の高校と宮城の高校で出会いっこ無い。 実際は出会ったところでどうするの?ナンパでもするの?って話なんだけど、今ifの話で盛り上がってる私達には、そんなこと心底どうでもいい。
接点など殆ど無くても今もこうして結ばれたのだ。
「ん?つーことは、ナマエさんが行く予定だった学校ってバレーの強豪校なんスか!?」
「あ、どーかな?前は全国とか行ってたみたいだからてっきり行くかと思ってたけど」
あ、そうか。西谷だけ全国行けても、クロたちが頑張ってくれなきゃ私は全国行けないのか。そりゃそうなんだけど、なんか失念しちゃってた。
問題は烏野って口調になっちゃったけど、冷静に考えたら東京のが激戦区か。
「東京っスよね?なんてとこスか?」
そう西谷は問うけど、
「んー?都立音駒高校」
まあ、わからないと思うんだよね。 他県の強豪校って、時点でよくわからないだろうし、最近は音駒も全国行ってないし。
「え……っ!?」
「偏差値考えたらもっと違うとこでもいいんだけどさー、やっぱ近いってのが」
なんて考えながらペラペラ話していたから、隣で西谷が肉まん握りつぶすか勢いで動揺してるのなんか気付かなかった。
「音駒行く予定だったんですか!?」
だから西谷が声を張り上げたときはビックリして、私は肉まん落としそうになった。
「えっ?う、うん。そうだけど……え、何?音駒ってそんなバレー強いの?知ってんの?」
クロが高校では全国制覇するって言ってたから弱くは無いと思っていたし、私もそのときは私を甲子園に連れてって的なノリでマネージャーやるって言ったんだけど、まさか音駒高校の名を西谷が知ってるなんて予想外だった。
けど、
「いや、俺も昔話的な感じで聞いたことあるだけなんスけど、烏野とその音駒って、昔の監督同士が仲良くてよく練習試合してたらしくて」
「はぁっ!?東京と宮城で!?」
話の転がる方向は、私の思ってた感じとは違ってた。
「みたいっスね」
「なにそれ因縁の仲なの?出来過ぎじゃない!?ていうか、」
「もしかしたら本当に、俺たちは何処ででも出会えたかもしれないっスね」
運命、なんて言葉が、大それていないように思えてきてしまう。
「うん……うんっうんっ凄いっそれって凄くない?!凄いよっ!」
なんだかよくわからない興奮が胸に込み上げて、思わず西谷に飛び付けば、
「わ、な、ナマエさんっ!」
彼は私の腕の中で硬直。
「……?」 「こ、ここ、道端っス!」
私に抱きつかれるのなんて今更じゃ無い?って思うけど、白昼堂々、昼間っから彼に抱き着いてしまってた所為で、 背後からママ〜あのお姉ちゃん達恋人同士なの?なんて子どもの声が聞こえてきて、
「あ、わぁ、ごめんっ」
慌てて飛び退く。
「……ッス」
西谷を見たら、耳まで真っ赤。 私も頬が熱いから、多分、同じ顔してる。
「か、帰ろうか」
「はい……」
私達は大人の階段を上って尚、ていうかむしろ上ってしまってからの方が酷くなってるんじゃないかってくらい。
デートなんかしなくてもお互いが好きすぎて、毎日がドキドキ。
恋の病とはよく言ったもの。 症状は日に日に悪化の一途を辿ってる。
けど、
「ママー!」 「見ちゃいけません!」
「「……!!」」
バカップルも大概にしないとなあ。とは、思ってます。
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