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 何体かの魔物と戦っていき、気が付くとわたしたちは出口付近まで来ていた。

 結論を言うと、やはりルークはその剣で魔物を倒した。倒さざるを得なかった。しかし、どうにか大きな傷は負わずに済んでいるようだ。これも、ヴァンさまと積み重ねた稽古の賜物だろう。
 彼がただ守られているような性分でもないのも、理解している。けれどもやはり自分がもっと強く、しっかりしていればと思ってしまうのは仕方ないだろう。わたしがもっと強ければ、ルークは手を汚さずに済んだのになんて、馬鹿らしいとは分かってはいるけれど。



「……ルーク、ごめんなさいね」

「あ?何でリアが謝んだよ。意味わかんね」

「……うん、」



 そう、よね。
 ルークの軽い返事に、肩の力が一気に落ちる。確かに、昔からルークは、そういう子だ。わたしなんかが自分を責めるのは、少しおこがましかったかもしれない。
 ならば、わたしはわたしなりに、彼を傷つけさせないようにするだけだ。



「今はガイもいねーんだし、少しくらい俺にまかせろっつの」

「うん、……ふふ、ルークなら安心ね」

「……そっかよ」



 相変わらずのぶっきらぼうな返事が、なおさらわたしにいつも通りを取り戻させてくれる。



「誰かくるわ」



 だから、ティアのその気の張った声を聞いても、冷静でいられたのだ。
 彼女の視線の先には、水の入った桶を持った男がいた。



「あ、あんたたちまさか、漆黒の翼か!?」

「……漆黒の翼?」

「盗賊団だよ。この辺を荒らしてる男女三人組で……ま、まさか、やっぱりあんたら!」



 わたしたちが三人組だということに気がついた男が、大袈裟に体をのけぞらせる。わたしは慌てるティアの前に立ち、男の誤解をとく。



「漆黒の翼は、男二人に女一人。わたしたちは逆でしょう?」

「た、確かに……」

「ね?」



 男も徐々に頭が冷えてきたようで、わたしの言葉に案外素直に頷いた。……後ろで二人が軽い口論をしてるけど、気にしないことにする。男が落ち着いたことに気がついたティアは、男に今のわたしたちの状況を説明する。
 話を聞くと、男はどうやら御者らしい。また首都にもいくというので、わたしたちからすれば願ったり叶ったりだ。
 ただ、問題は一つ。



「一人12000ガルド、か……」



 三人だと、36000ガルド。
 わたしの手持ちもたかがしれていて、とてもじゃないが、払える額ではない。しかもファブレ家の力に頼ろうにも、前払い式らしく不可能。
 しかしやはり土地勘もなく正確な時刻も分からない以上、ここで馬車を逃すのも命取りになりかねない。

 どうしよう、と頭を捻るわたしの横から、すっとティアが前に出る。そして、御者に自らがかけていた首飾りを手渡した。赤い宝石があしらわれた美しいそれに満足した御者は、わたしたちを馬車に促す。



「……ティア、」

「……なに?」

「あれ、大切なものなんじゃないの?」



 男にあの首飾りを渡す時にどこか迷いが見えた気がして、わたしはティアに声をかける。しかしあくまでも何でもないように、そして有無を言わさぬ口振りの彼女に、わたしは押し黙ることしか出来なかった。情けない自分に、ため息しか出ない。気丈に振る舞う彼女に、少しくらい自分を顧みてほしいと願った。



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ようやくタタル渓谷脱出。

20130205 加筆
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