無言のやつ | ナノ
何度となく見かける男。
多分同い年だと思う。
でも俺やクラスのやつらとは違って、なんともいえない、近寄り難い雰囲気を纏っていた。

あいつは何時も一人だ。
友達と笑っているところも、家族らしき人といることもない。

全身黒ずくめで、目の色も髪の色も黒だった。
俺はどうしても時折見かける男のことが気になってしまい、勇気を振り絞って話しかけてみた。

「よう、こんにちは」
なるべく親しみを込めて声をかける。

男は無感情に無表情のまま無言で手を上げて返してきた。

「たまに見かけるから、気になっちゃって。
俺は赤井紅蓮。おまえは?」

「……。」

男は眉をひそめてどうしたものかと考えあぐねているようだった。

やがて素早い動作で携帯電話を取り出し、文字を打ち込んでいく。

『今日は。俺は滝澤。声が出ないのでこれで失礼する。』

「出ないって、風邪とか?」

滝澤は緩く首を横に振り、辛そうに治りにくい病気だと画面に打ち込む。

病気……声が出ない、のか。
だから無言で躊躇っていたのか。

声を出す、話すというコミュニケーションは最も日常的に使われているものだ。

一々紙やケータイに書くのは手間もかかるし、伝わりにくい。

……だから、一人なのだろうか。

俺は気まずくなり、当たり障りの無いことを言う。

「いつもこの辺で見かけるけど、この辺住んでるのか?」

『・・・赤井紅蓮、君は何年何組だ。』

そんなこと聞いてどうすんだ?

「三年二組だけど?」

『君と同じクラスだ。』

「え、ええええッ!?」

え!?……そうだ、そういえば一つ席が空いていた。
俺の隣。
いつも荷物置き場として活用しているところだ。
確かに、滝澤という名前だけは聞いたことがある。

「そういえば俺の隣の席いつも空いてて……まさか、同じクラスだったとはなあ!
世界ってえのは狭いもんだな!」

思わず声に出して笑ってしまう。
でも、顔すら知らなかったのは、滝澤が一度も登校してきていないということだ。

同じクラスとはいえ知らなかった。
直接的答えにはなっていない。
答えたく無いのか?

「……なんで、来ないんだ? 学校」

突っ込み過ぎかとも思ったが、気になって聞いてしまう。

『一年の時虐めに遭ってな。』

……声が出ないからって馬鹿にされたのか?

声が出ないなんて、本人が簡単に治せることでもないのに……。

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