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「ブン太だけ、置いて行けない。」


高等部の卒業式の日、あきらはそう言って泣いていた。








5.








あの頃、丸井を俺たちの中で簡単に『過去』にすることは出来なくて、何をするにも丸井の影を探していたと思う。


俺たちはいつも3人だった。


立海を旅立つあの日、丸井も一緒に立海の門をくぐるはずで、向かって行くその先の明日に丸井がいないことを、俺たちはまだ受け止めきれずにいた。










「あきら、結婚しよう。」


「………え、」


あきらの瞳は沢山の色で揺れていた。


驚き、戸惑い、喜び、……そして、丸井への想い。


「10年経った。俺たち、ちゃんと幸せになるべきじゃ。」


「…………。」


柳の言葉を借りながらゆっくり喋る。


「丸井を置いていくんじゃない。……丸井の願いを、叶えに行こう。」


あきらの目からはとっくに涙が溢れている。


俺が握っていたあきらの手に力がこもる。あきらは泣きながら微かに笑って、「うん。」とだけ、呟いた。


















研究室の外で桜の花が舞っている。


ちょうど目の前に桜の木が植わっていて、この季節窓を開けると2Fにある研究室は桜の花びらまみれになる。毎年初めてここで春を迎えるゼミ生が、感激してつい窓を開けたままにして先輩に怒られる光景はもはや風物詩だ。


今日はそんな学生たちも大学の裏の広場へと新歓を兼ねた花見に行っていた。平沼もそっちへ混じっていて、俺は一人コーヒーを片手にぼんやり留守番だ。春のこの輪郭のぼけるようなゆるやかな空気は何なんだろうと毎年思う。どこの世界でもこの季節は同じようにゆったり時間が流れている気がする。


「眠てえな…。」


まあ、春だからなだけじゃない。仁王とあきらに会ってしまった文化祭の日から、俺はこんな風にぼんやりする日が増えた。そして眠たい。ぼんやりしているだけで考え込んでるつもりはないのだが、体は正直だ。


あの日仁王に問い詰められたこと自体は正直そこまで気にしてなかった。柳もそうだが、俺が夜久として振る舞えてさえいれば誰がどう思おうと関係性は案外それ以上にもそれ以下にもならないからだ。何より俺自身が俺をもう夜久として割り切っている以上、それは揺らぐことはないと思う。


(…多分、3人が揃ったのがまずかった。 )


あの日、この研究室で、顔を合わせたあの瞬間がまずかった。


丸井ブン太の知り合いに会ってしまったとか仁王に見抜かれたかもしれないとかそういうこと以上に、あの瞬間だけがずっと思い出されては頭の中に居座っている。


この世界にいる仁王も、あきらも、俺が一緒に過ごした二人じゃない。違う二人のはずなのに。




「初めまして。詩芽あきらといいます。」


「……仁王雅治です。」


「うん。初めまして。」




他人として交わした挨拶。


だけど俺は




俺は


あの瞬間に生まれた時間を、知っている。




「こんにちは。」


「!」


不意に鳴った扉。控えめなノックの後、俺しかいないこの静かな研究室に顔を覗かせた人物がいた。


「……………こんにちは。」


ぼんやりし過ぎていて一瞬誰が来たのか分からなかった。振り返ってその姿を目に留めて、ゆっくり飲み込んでから数秒遅れて挨拶を返す。


「ごめんなさい、お邪魔してもいいですか?」


「ああ、いいよ。……えーと、」


記憶を手繰り寄せるふりをする。何せ『俺』が会うのはたった2度目だ。会話に気を付けなければならない。


「詩芽です。以前文化祭の時にもお邪魔した、」


「ああ、いや、ごめん顔は覚えてたんだけど。柳と約束か?」


「そうです。柳くんに研究室で待ってて良いって言われたんですけど、大丈夫ですか?」


「いいよ。今学生たちも出払ってるし。」


……困ったな。学生たちが出払ってる今、つまり研究室に部外者のあきら一人を残すわけにはいかない。前回は仁王もいたから二人で喋らせておけばよかったが、今日は奥へ逃げるのも諦めることにした。


「何か飲む?」


「あ、いえお構いなく」


「いいよ、コーヒー飲める人?」


「あ…じゃあコーヒー頂きます……。」


定型文で聞いたが、内心少し驚いていた。……コーヒー飲めるようになったんだ。いや、それともこっちの世界のあきらは最初から飲めるのか。正解は分からないが、俺が知っているあきらは昔はコーヒーが苦手だった。


「今日は何だ?」


「え?」


「友達と会うのにわざわざ職場で待ち合わせる奴も珍しいだろ。」


「ああ、」


コーヒーを渡しながら適当に話をふる。


「私の用が早く済んじゃって時間持て余してたら、こっちに来ててもいいぞって柳くんが。」


「あいつホイホイ人招くな。」


「ごめんなさいやっぱりあまり良くないことなんですかね…?」


「本当はな。でもここは学生も多く出入りするしそんな厳しくしてないんだよ。関係者が同席してる分には平気だから気にしなくていい。」


「そうですか…。」


文化祭の時にもじっくり見たはずだが、あきらは物珍しそうに研究室を見渡した。


(………多分、わざとだろうな。)


あきらが今日一人でここに来たこと。……そして恐らく、文化祭の日に仁王と二人でやって来たのも、きっと柳が企んだことだろうと俺は踏んでいる。


仁王やあきらの生活には関わらないとずっと決めていた。仁王やあきらだけじゃない、丸井ブン太だった頃の友人や知人、家族でさえだ。柳がこの研究室へやってきてしまい、そして恐らく真相がバレたあの日から、上手くいかないかもしれないとは思っていたがこうもダイレクトに事を運ばれると流石に柳が若干恨めしい。


「今日は学生さんたちはどこへ?」


「花見。裏に広場があるんだよ。新歓してる。」


「ああ、なるほど。良かったですねお花見日和で。すっかり暖かくなりましたよね。」


「今年は春が早かったかもな。雪も大して降らなかったし。」


「……雪……そういえばそうですね。」


はっとした。何も考えてなかった。間を埋めるために下手な天気の話を繋げたつもりだったが、雪という言葉に色々詰まったあきらの声に、軽はずみなことをしたと瞬時に後悔した。あきらがぽつりとその先を続ける。


「私、雪が……苦手なんですけど…」


俺も今でも雪の日は嫌いだ。


「まあ、雪が嬉しいのなんて大人になるまでだよな。」


「…………。」


当たり障りのない返しをするが、あきらは一度開きかけた口を閉じた。嬉しくない流れになったかもしれない。あきらが躊躇うように俺の顔を見上げる。


「昔……雪の日に、大事な友達が亡くなって。…あの、柳くんに、もしかして言われたことありませんか?夜久さん、その人にそっくりなんです。」


「……聞いたな。俺も見たよ、写真。本当に似てるよな。」


仁王、あきらに言わなかったんだ。


どうやらあきらは俺が仁王に問い詰められたことは知らないようだった。単に本当に似ていると思っているだけだ。


「私も凄くびっくりしました。本当に……大事な人で……ブン太って言うんですけど。ブン太が、大人になって私たちの前に現れたのかと思いました。」


「…………。」


久しぶりに聞いた。あきらが呼ぶ『ブン太』という名前。


柳に呼ばれた時も仁王に呼ばれた時も平気だった。手離したこの『丸井ブン太』という名前を、あきらから呼ばれても同じように何ともないと思ってたのに。


(………結構、くる。)


俺はさり気なくあきらから目線を外した。


「柳くんから聞いたかもしれないですけど、事故だったんです。高2の時で……ずっと忘れられませんでした。もう10年も経ったけど未だにどうしようもない喪失感に襲われます。文化祭の時に私と一緒にいた人……雅治って言うんですけど、雅治とブン太が、あの頃の私の世界でした。」


あきらが死んだ時、俺と仁王の世界も確かに一度終わっていた。


俺の世界で起きたことは、この世界でもきっと同じだ。


「ごめんなさい、急にこんな話して。」


あきらが申し訳なさそうに眉を下げて笑った。


「いや……辛かっただろうな。」


「とても。」


俺が元いた世界では、あきらが死んだことで俺も仁王も柳も、もちろん他の友達も。色んなものを抱えて、消化出来ず、うろうろとあきらのいなくなった未来を歩いていた。あきらの家族が長い裁判を心を痛めながら戦ったように、この世界では俺の家族が辛い裁判を戦ったはずだ。かかるのもかけるのもお金だけじゃない。時間、体、心、人生全て。


俺が過去を変えたことで生まれたのは明るい未来だけじゃなくて、同じだけ人の心の傷も生まれた。『元の世界へ帰れなくなった』ことが俺への報いであると同時に、俺自身がまわりの大切な人に与えた痛みもまた、俺がしたことの代償なんだ。


俺はこの世界で、一生それを背負っていかなければならない。


「わたくし事なんですけど。」


「?」


外の桜に目を向けていたあきらが再び口を開く。


「雅治……さっきの話にも出た、文化祭の時に一緒にいた彼と、今度結婚するんです。」


「!」


思わず声が出そうになった。コーヒーのカップを口に付けたまま何とか堪える。どうにか平静を装ってから言葉を返した。


「……それは、おめでとう。」


「ありがとうございます。」


にこりと笑ったあきらの顔。曇りなく幸せそうな顔。


「実は今までも結婚出来るようなタイミングは沢山あったんですけど、ずっと出来ませんでした。」


「…何で?」


「…………。」


あきらは一瞬だけ言葉を切った。


「ブン太がいないまま二人で未来を進んでいくことに……私も雅治も勇気が出なかったんです。」


「…………。」


「ブン太がいたお陰で私と雅治が今こうして二人でいるから……ブン太がいないこの世界で、ブン太を置いて、二人だけで幸せになる勇気がずっとなかったんです。でもここで夜久さんに会って」


「俺?」


あきらがちらりと俺の顔を伺ってから、ふふっと笑った。


「ブン太が大人になったみたいな夜久さんに会って、ああ、こうやってブン太が生きてる別の世界も本当にあるかもしれないなと思って。」


「………パラレルワールド。」


「そうです。柳くんの専門分野ですよね。」


あきらが持っていた自身の鞄を開ける。何かを探すようにしながら先を続けた。


「ブン太が死んだ当時から柳くんは私と雅治に言い続けてくれてました。丸井が生きてる世界もきっとある。…もちろん信じようと思ってましたけど、信じてるつもりでしたけど、それでも失ったものとしてしかブン太のこと考えられなかった、ずっと。でも文化祭の日……この研究室で初めて夜久さんに会って3人で顔を合わせた時、まるでタイムトリップした気になりました。過去に戻ったような……あるいは、あの頃の私たちが未来にやってきたような。」


俺と同じだ。


あきらも、俺も……多分、仁王も。あの瞬間を、俺たちはきっと、知っていた。


あきらが鞄の中から一枚の封筒を取り出した。


「今日は、柳くんに渡したいものがあって来たんです。でも夜久さんに渡しておきます。」


「……?柳、もう戻ってくると思うけど。」


「そしたら、夜久さんから柳くんに渡してください。夜久さんに手に取ってもらえたら、私も雅治も嬉しいです。……これはただの自己満足なんですけど。」


差し出された封筒を受け取る。真っ白な洋封筒だった。金の縁取りに金の箔押しの文字。……『to Marui Bunta』。




結婚式の招待状だった。




「『丸井の願いを叶えに行こう。』 …雅治のプロポーズです。10年以上前……私と雅治が付き合い出したまだただの中学生だった時、結婚式には呼べよって、ブン太に言われたんです。この招待状を、パラレルワールドできっと生きてるブン太に送ってくれないかって、今回柳くんに無理言ってお願いしました。」


「……本当に無理なお願いだな……。」


「『やってみる価値はあるな。』、だそうです。」


あきらはいたずらっ子のようにくしゃりと笑った。そして窓の外の桜へ視線を向ける。


「ブン太がいない未来に私たちが生きていて、そして歩いていくこと……今やっと、始まりな気がします。」


「…………。」


あきらが鞄を持って立ちあがる。


「じゃ、帰りますね。」


「え?」


「本当にそれを渡すだけだったので。中身も良かったら見てください。私たちが進んで行く気になったのは、ブン太のお陰であり夜久さんのお陰ですから。押しつけがましくてごめんなさい。」


「いや…。」


俺は招待状を手に持ったまま、立ち上がることも出来ずにあきらを見上げていた。頭が上手く回っていない。


「今日夜久さんに会えて良かったです。お話聞いてくれてありがとうございました。」


「……どういたしまして。」


「失礼します。」


「!」


ついあきらと呼びそうになった。そう言えば今の俺じゃ苗字でさえ呼んだことなかったと思い出して、呼びかける名前に迷って言葉が詰まる。一瞬考えてから、扉へ向かうその後ろ姿へ口を開いた。


「詩芽さん」


「!」


あきらが立ち止まる。名前を呼ばれたことにあきらもびっくりしたのだろう、目を見開いた表情で振り返った。


俺も息の仕方を忘れた。しっかりしろ。夜久になれ。伝えたいことは決まっている。




「結婚、おめでとう。」




「…!」


「……末永く、お幸せに。」


「…………。」


あきらの目にじんわりと涙が溜まっていく。


馬鹿野郎。俺と丸井ブン太を重ねるんじゃねえよ。……頼むから、泣くな。




抱きしめたくなる。




「必ず。」


涙は零れなかった。


そう一言だけ呟いて、頭を下げて研究室から去って行く。


「必ず。」と言ったあきらの、涙目のままもう一度くしゃりと相好を崩した顔が頭から離れなかった。


あの顔を見るために、俺はこの日までこの世界を歩いたのかもしれないと思った。















どこかの世界のブン太へ。


あなたはどこかで今笑っていますか。


ちゃんと幸せな毎日を歩いていますか。


私と雅治はこちらの世界で笑っています。


ブン太が引っ張ってくれた私たちの手を、これからも繋いで二人で歩いていきます。


ブン太が描いてくれた明日を、私たちは二人で歩いていきます。


どうか私たちを見守っててください。(時には叱咤もしてください。)


どこかの世界で生きるブン太も、どうか明日を笑って歩いてください。


私たちと一緒に明日を歩いてください。


誰よりもあなたの幸せを願っています。









お前が笑う明日を、願ってる。
















「預かりモンしたぞ。」


研究室へと戻ってきた柳へ、あきらから預かった招待状を差し出す。


柳はその真っ白い封筒を目に留めて、ふっと笑った。


「私はもうその封筒を預かる必要はなさそうです。」


「…パラレルワールドとやらに送るんだろ。」


「そうですね。ただ私の役目は既に果たしたので。」


「…………。」


柳はそれ以上は何も言わなかった。


俺も素直に差し出した封筒を引っ込めた。もうすっかり日が落ちて薄暗くなった窓の外で、桜が淡く風に揺れている。ああ、眠たい。


「おや、柳くんまだ残ってたんですね。」


「ああ平沼先生。新歓はどうでしたか。」


俺がソファでぼんやりしている背後で平沼が戻ってきたようだった。柳とひとしきり新入生の話で盛り上がる。


「それでは私はお先に失礼します。」


「お疲れ様でした。」


そして暫くたわいもない話を続けた後、柳が挨拶をして研究室を去って行く。俺は二人のやり取りを全部スルーして、相変わらず桜を眺めていた。


「君も今日は疲れていそうですね。もう上がったらどうですか?」


「……平沼、頼みがあるんだけど。」


平沼を遮って口を開く。平沼が作業していた手を止める気配を感じた。


「何でしょう。」


「送って欲しいものがあるんだ。俺が元いた世界に。」


「…いいですよ。成功するかどうかは約束出来ませんが。」


平沼がゆっくり歩いてきて、テーブルに置いてある招待状を静かに手に取った。俺が開封したまま出しっぱなしの招待状の二つ折りのカードが一枚と、手書きで書かれた手紙が二枚。平沼はそれらを持ったまま、昼間のあきらと同じようにゆっくりと視線を窓の外の桜へ向ける。


「夜久くん、結局花見しそびれちゃいましたね。……今日は久しぶりに二人で飲みにでも行きましょうか。」


「…………。」


(……眠てえな……。)


何も返事をしてないのに平沼はイエスと取ったらしい。立ちあがりながら俺の肩をひとつ叩く。


「すぐに残りの仕事片付けるので待っててください。眠っててもいいですよ。」


「……そうする…。」




あきらが死んだこと。


俺が死んだこと。


この世界にやってきたこと。


帰れなくなったこと。


……今まで何度あっただろう。


眠って朝目が覚めたら、全てが夢だったなんて拙い小説みたいなことが起きるんじゃないかと願った夜が。


後悔したことは一度もない。


あきらと仁王がこの世界にいるということ。そして二人の未来がその先にあるということ。それが全てでそれだけでいい。


俺はこれからも夜久としてこの世界で生きていく。


(ただ……夢でいいから………。)


意識が研究室から遠のいていく。いつの間にか部屋に紛れ込んでいた桜の花びらが、視界の端でふわりと舞い上がった。


俺の記憶の中のあきらと仁王が、そして俺が。アルバムの1ページのように穏やかな顔で一緒に笑っている。まさに青臭くて面白味のない、拙い小説のひと場面みたいだ。あきらが消えていく。後を追うように俺が消えていく。


……仁王、お前、笑ってんのかよ。


夢でいいから、あいつと酒が飲みてえなと思いながら、俺の意識は途切れていった。



























―――カタン…


「……?」


玄関で物音が鳴る。……郵便?


普段郵便はアパート1Fの据え付けのポストに届く。部屋に直接郵便が届くことは滅多にない。


「…何じゃ、悪戯か?」


不審に思いながら扉の内側からポストを覗いた。切手の貼ってない真っ白い封筒。宗教の勧誘かと思いながら封筒を引っ張り出す。表面をひっくり返して―――


「……to Marui Bunta?」


俺はその場に固まった。――その宛名はいつの日か姿を消した友人の名前。すぐに封を開けた。


「―――……。」


中身は招待状だった。


二つ折りにされた1枚のカード。結婚式の招待状だ。金の縁取りに淡い色使いのシンプルな文面。


新郎新婦の名前は、




「『仁王雅治』、『詩芽あきら』…………。」




(やっぱり、悪戯か…?)


悪戯どころじゃない。寧ろ嫌がらせだ、悪質な。


場所は俺も知っている実在する教会。日時、場所……何時までにはお集まりください……随分手の込んだその悪戯に、胸糞悪くなってきて破り捨てようと思った。カードに手をかけて、引き裂こうとして―――


「……?」


カードの片隅に見つけた手書きの文字。走り書きだ。何となく見覚えのある気がする、男の字。……『明日』…


「……!」


俺は玄関を飛び出した。


靴を突っかけたまま1Fまで駆け降りる。見渡した通りには人っ子一人いない。






「……丸井…?」






息を切らしたまま俺は暫く茫然とそこに立っていた。


握り締めた手の中で真っ白なカードが風に煽られる。


季節外れの桜の花びらが一枚、封筒の中からふわりと舞い上がって飛んでいった。





















俺は明日を歩く。お前も明日を歩け。


先に行ってる。



















END







畑野智美さんの『タイムマシンでは、行けない明日』が原作でした。
平沼先生と夜久くんは原作のキャラクターをお借りしています。( memo内あとがきと補足 ※another side storyを読んだ後に読むことをおすすめします。)