Etoile Filante | ナノ
Commence [1/13]
「おれの手を、取れ。いと。」

  欲しい。譲らない。もう、決めてしまった。
  射抜く様な眼差しは底なんて見えない、それ程までに深い想いでその心は埋め尽くされていた。『少年』が見せるには不似合いだと彼を知らない者はのたまうのだろうが…その名前を呼ばれた彼女は固唾を飲み見つめ返す事しか叶わなかったのだ、それ程までこの赤髪の少年とおもいを交わし合わせていたから尚更。正面から見据えられ、頬を『片手』で包まれればその熱さに心が愛おしいと途方もなくわなないてしまう。

「この世界よりも、おれを選べ。」

  こちらが笑ってしまう程度量が大きくて、赤い髪は彼の性格を表すかの様であった。明るくて、隣にいるだけで此方まで微笑んでしまう…そんな赤い華やかな色。誰よりも惹かれてしまういとが一番好きな、色だった。
  いとが知る限り、この少年は朗らかで陽気、お祭り騒ぎが好き。あっけらかんとした性格だったがそれに不安など微塵も感じさせ無い頼もしい雰囲気を生来持ち合わせていた。彼女がほろりとみせた涙でさえも『綺麗だ』と純真に笑み崩れ眦を綻ばせて拭ってくれた、やさしい『少年』であった。はずだった。

「おまえの幸せを願って身を引くなんて出来ねェ。御免蒙る。」

  しかしそれがどうだ、今その色は燃え揺れる焔と寸分違わない。我が身をも焦がす苛烈な一途はいっそ美しささえ孕んでいた。何がなんでもこればかりは譲るものか、ぎらぎらとした『おとこ』の眼差しでいとの呼吸さえ縫い付けてしまう。苛烈な男、それが今の姿であった。
  その赤い焔は、たった一人のおんなへと注がれている。

「…まァ嫌っつっても攫うが。…な?」
「シャンクス…」
「いとが欲しい。全部欲しい。…海賊は欲張りだからな、いとを独り占めしたいンだよ。」
「私、」

  初めは、数奇な出逢いであった。
  ある日の出来事である、突然このシャンクスと名乗る少年が空から降って来たのだ。比喩云々では無く文字通りポトンと空から切り取られた様に落っこちた…いとの住む家の庭に。そしてお人好しにもその面倒を見始めたのが彼女だった。
  後はもう、惹き合うだけ。彼女の零す涙は透き通る花びらそのものに見えて、儚さを知った瞬間にはシャンクスの心中に愛おしさが生まれ、込み上げてしまった。涙の後の微笑みは雲間を抜けた空の輝きにも勝り、恋しさが募った。

「いとは…こんな欲塗れの男は嫌いか?」
「…っ、」

  切ない、じりじりとした渇望の眼差し。その裏側にいとが見たもの…おもうものは両親であり、友人であり、この世界そのものであった。生きてきて築き上げたもの全てとこの少年が今、心の中にある天秤の上に乗っていた。

「どうしたらいいか、わからないの…。」
「いと…、」
「シャンクスが、好きで好きで…どうしようもないの、」
「っ、」
「今まで大切に育ててくれた人達も、この世界も考えられなくなっちゃって…理屈じゃどうしようも出来無い、くらい…すき…」
「おれも好きだ、いとが大好きだ…。」
「シャンクスと居られるなら、みんなどうでもいいって思っちゃうの…薄情なの、わかってるのにそれしか頭になくて…。」
「いとは悪くなんてねェさ。」

  ほとり、ほとりと雫は降り出してシャンクスの片手を濡らしていった。天秤を動かす事に怯え、彼女は儚げな佇まいと共に涙を目尻に湛えていく。少年は静かにそれを見つめ、そして微かに震えるいとの唇に己のそれを重ね合わせたのだった。ぴたりと自然に揃う、まるで元は一つであった様な錯覚をもたらす程自然な口付けに自然と瞼は落ちていく。
  この体温が二人を繋ぐ証だと、声なくともお互いが示し合っていた。

「全部捨ててくれ。…かわりといっちゃあ…なンだが、」

  おれの全部をいとにやる。
  耳元で掠れた声で、静かに激情を叫ばれてしまえばいとの心は彼の色に染まってしまう。いやもうシャンクスと出逢った瞬間に染まっていたかもしれないけれども。

「私を、さらって…」
「あァ。」
「薄情者だって言われても、それでもいい。」
「言わせねェよ。…おれが誰にもそんな事口にさせねェ。大丈夫だ、いと。」
「ありがとう…シャンクス…。私、シャンクスといきたい。」
「…愛してるいと…。愛してるんだ…。おれの隣に、いてくれ。」

  一心の想いは二人をかたく結びつけた。解く事を彼は許さず、彼女も受け入れた。そうして彼方の世界に戻る少年に連れられて、いとは光の道を通るのだ。
- 1 -

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -