log | ナノ

ドンキホーテさんちの争い

「…おれのなまえとミーティア、本当に可愛いな、」

そう呟いたのは建物の屋上にてゆったりとしゃがみ込んでいた少年であった。その何ともいえない視線の先には女性と少女。手を繋いでキョロキョロと周りを見ながら何か…いや『誰か』を探している。

「フッフ!当たり前だ…なまえが可愛いのはてめェが生まれる前からよく知ってるさ。」
「…見つけたのはおれの方が早かったな、ドフラミンゴ。」

後ろから音も無く現れた巨躯の男に少年はさして驚くわけでも無く、かといってその声に反論するでも無くただ勝ち誇った声を漏らす。

「さァどうだろうなァ…!」

余裕綽々、男はのたりと少年の隣まで歩を進めるとそのサングラスで隠された眼差しを彼女達に向けた。

「フフ、おれを探してるんだろォな…あんなにあちこち不安げに見て…可愛いったらありゃしねェ!」
「テメーの図体のデカさが丁度いいンだろうよ。よかったな無駄にデカくて。」
「そうかい、それじゃあチビスケは見つけられずに指咥えて帰りな。」
「ほざけ。」

ギスギスとした会話をしていながらもお互い顔を合わせること無く、その視線を一身に受けているのは女性と少女であった。
元々彼ら達は共に行動していたのだが何かの拍子で彼女達が逸れてしまったのだ。所謂、迷い子となってしまったのはなまえと、ミーティア。彼らの後生大事な家族であった。
表には出さずとも早足で彼女達を探し出し始めた男二人ではあったが。…この二人、協力して探す、などと微塵も考えなかった。

『ここいらはよく知ってるンだ…この調子じゃおれの方が早く見つけられるな。』
『フッフッフ…そうだったらいいねェ…ノーヴァ。』

ざまぁ無ェなとほくそ笑む少年にその巨躯を揺らしながら男は感情の読み取れない不敵なわらいを浮かべていた。
不穏な空気、一発触発。それもその筈である。なまえ達を見つけるまでこの二人は無駄にお互いの邪魔をしまくっていたのだから。

『おっと!こりゃァ悪かったな、チビ過ぎてわからなかった!』

男が大人気なくも少年の進行の邪魔をすれば負けじとばかりに少年は、『なまえに愛想つかれちまえよ。』とのたまった。そして適当に積み上げられていた店の木箱の山を男目指して崩してやっていたのである。

『フッフ、危ない危ない…!』
『さァて…その余裕何時まで持つンだかな、』

喧嘩したいのか、なまえ達を見つけたいのか。おまえら一体どちらなんだとぼやいてくれる人間は生憎ここにはいなかった。
そうしてやいやいと騒ぎながら漸く見つけたのは…恐らく、同時だっただろう。少年は気づかなかった様だか、この男も少年が発した言葉を耳の隅で捉えながら大事な愛しい女を眼中に入れていたのだから。

「ちょっと上を見りゃァ居るんだかなおまえの男は。なまえチャン、こっちだこっち。」

不安そうにする表情をうっとりと眺めている男はまるで声を掛けてやる様子など全く無い。寧ろその不安そうにしている二人の顔色を可愛い可愛い、と言い放ちずっと眺めていた。

「趣味は最悪、と。相変わらずで何より。…反吐が出る。」
「おまえも同じ穴の狢だ。安心しろ。」

息をするのと変わらない様に貶し合う二人であったが、その瞬間なまえの肩がとんっ、と揺れていた。
通り過ぎる時に誰かと肩がぶつかってしまったのだろう。すぐさまなまえは非礼を詫びている様子であった。

「すみません、余所見をしていたもので…。」

ミーティアはなまえの影に隠れ、今にも泣きそうな声で「お母さん…」と呟いている。ぶつかってしまったのはガタイのいい厳つい男だ。然もありなん。

「アァン…?!」

酷い絵面の男はその中身もよろしくは無いらしい。小柄ななまえを見下ろしている。暫くすればなんだなんだとその男の連れ(間違いないだろう、似た様な顔面だ)が揃って出てきて遂に小さな少女はぽろぽろ泣き出してしまった。

「大丈夫だからね、ミーティア。お母さんがいるから。」
「…うん、」
「かっこいいお父さんとお兄ちゃんも直ぐに来てくれるからね、もうちょっとだけ我慢してね?」
「ぅん、」

優しくその頭を撫でてくれる母にぎゅっと抱き付く幼いミーティアと和やかに語り掛けるなまえ、しかし当の男達はそれが気に食わなかった様だ。
曰くシカトこいてるンじゃねェよ、ぶつかったからにはそれ相応の謝礼ってモンがある筈だろうな云々。

「ピーピー泣いてンじゃねェよ!」

何をトチ狂ったのか男の一人が幼い少女の肩を掴もうとする。慌てて「止めて!」と声を張ったのはなまえで、娘を庇おうと包む様に抱き締めた。だが男の無茶な力に負けてしまった。バランスを崩し、よろりと揺れて娘を抱えたまま転んでしまう。

「お母さんっ!?」
「ごめんね、どこもぶつかってない?痛くない?」

娘を抱えたままだった為か受身が取れずなまえは可笑しな方向に足を捻ってしまう。しかしなまえは娘ばかりを心配して宥めすかしていた。
瞳を潤ませていても娘を不安にさせてなるものかと、涙を零さず震える小さな体を抱き締めて背中を撫でてやっていた。

「だからシカトするなって…?…?!!」

にやにやと憎たらしい笑いを浮かべていた一人が途端にビクリと頬を引きつらせた。
見覚えのある派手な色。それに包まれた巨躯の男、その見えない筈の眼光。
そして隣にいるのは同じく、

「ドンキホーテ…!!?」

その名前を知らない者はこの島にはいない。顔を真っ青にした男の耳に感情の読み取れないわらいが響く。

「フッフッフ…!遊びが過ぎた…おれの女に手ェ出すんじゃねェよ、」

ビリビリとした限りなく殺気に近い気迫に足を縫い付けられた男に目もくれず少年は二人の元へ駆け寄る。

「悪かった、ドフラミンゴが邪魔をして…」
「生憎てめェも同罪さ、ノーヴァ。」

可愛い可愛いと見ているだけであったが娘に手を伸ばした瞬間にその事情は変わる。しゃかんだ少年が立ち上がった瞬間になまえが転び、次の一瞬笑っていた男が静かになる。
さっさと傍に行けばよかったものを。と苦言を漏らす人間もここには残念ながらいなかった。

「ドフィ…よかった、会えて。」
「おれもさ。なまえ…足を捻ったろ?ノーヴァ、」
「てめーはわかり切ってることまでおれに指示すンのか?…なまえ、立てるか?」
「大丈夫よノーヴァ。それよりもミーティアを抱っこしてくれると嬉しいの。…ミーティア?お兄ちゃんが来てくれたよ?」
「お兄ちゃん…っ、」
「ほらミーティア、怖かったな、よしよし。」

ぐずぐずとベソをかいている妹を抱き上げて背中を摩ってやる少年に先程までの毒々しさは無くなっていた。

「フフ、しょうがねェなァ!なまえはおれが抱っこしてやるよ。」

気迫を一度押さえた男は口ではそう言いながら嬉しそうに話していた。なまえは耳を僅かに染めて、眉を下げて困った様に口をあくあくと動かしていた。
それもその筈、周りには今だに厳めしい男達がいるのだ。何故か一歩たりとも『動いて』はいないが。

「なまえ、あァハデにやらかしたなァ。真っ赤だ。」
「…っ、」

重さなど感じさせずにフワリとなまえの隣に降り立った巨躯はガラス細工を扱うよりも丁寧に彼女の足に触れる。酷く捻ったそれに僅かに眉を寄せてから、有無を言わず抱き上げてその小振りな唇に己のそれを落としていた。一度離して赤いふっくらとしたところを舐め上げ、啄む様に何度も角度を変える。

「…ん、っ」
「…おれが手当てしてやるからなァなまえチャン!」
「…っふ…、ど、ドフィ。いいの?あの、この人達は?」

人前で口付けされることに何年経っても慣れないなまえは何時もあえかで愛しい。男達など大切ななまえを前にすれば塵芥ぐらいにしか感じなかった。
そもそも少年がいるのだ、今直ぐに己が動かなくても支障は無い。

「ノーヴァ、ミーティアも寄越せ。」
「お父さん…っ」

少年が少女を降ろしてやると少女は巨躯など気にせずにふかふかのコートまで駆け寄った。機嫌良く、あっさりと片手で少女を抱き上げた男は男達と少年にくるりと背を向けてしまう。

「おれよりも血の気が多いンだ…このクソガキは。全く誰に似たのかねェ…フフ!」
「さァて、な!…どうせてめーも後から戻るンだろ。違うか?」
「大当たりだ。だがこっちの方が大事でなァ…」

後でな。と、男がたんっと踏み出して文字通り飛び上がった瞬間に先程まで動かなかった厳めしい顔達がよろけ出す。そして威圧感を漂わせた少年が一歩また一歩と男達に近づいていた。チビチビ、と言われてはいたがあの男が規格外なだけで少年も充分背は高いのだ。見下ろされる気迫は、増す。

「さて、おれの女達に手ェ出したのが運の尽き。」

許しを請われても決して譲らない少年は口角をその父親と瓜二つに歪めて、フフフとわらった。



prev next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -