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サッチさんちの大わらわ

「…誕生日ィ?サッチの?」
「そうなんだよエースにぃちゃん…!」
「いいアイデアが出ない、全く!」
「ユユシキジタイなんだ!」
「ユユシキ!」
「「ユユユシキ!」」
「…おまえら意味知らずに言ってるだろ、それ。」

   ごくん!と本日5皿目のパスタを胃袋に収めながらいぶかしむ視線を向けたのは白ひげ海賊団2番隊隊長どのである。向けた先にいるのは小難しい顔がひい、ふう、み…なんとその数5人であるから物珍しい。おまけに普段彼らは困り事とはほぼ無縁、コックの父親とその妻の母親と仲良く健やかに成長中であった。
    しかしながらぎゃいぎゃいわやわやと騒いでおり、身振り手振りを使って事のあらましを頼れる兄貴分に相談しに来ていたのだった。
   エース隊長どのは食堂の奥まった方…彼らの父親の定位置である厨房を覗くがちっさな得意顔達は「今は母さんに頼んで連れ出してもらった!」とのたまっていた。

「…なまえも噛んでンのか…」
「とーさんはかーさんの言うことなんでもきいちゃうからねィ。」
「…そーだな。」

   彼らの両親を思い浮かべて朗らかな苦笑するのはこの船のお決まりだ。遠慮ばかりする彼女にはあれ位甘やかす旦那が丁度いいし、軟派なあの野郎はあれ位無害な妻が居れば毒気が抜けるし丁度いい。
   丁度いいから、その結果がこの子沢山だ。泣く子も黙る白ひげ海賊団であるが、蓋を開けばアットホームが飛び出てくる。当の船長が何より孫達を可愛いがり、この賑やかさを大層に好んでいるのでその下に付く息子達もこの『わいわいがやがや』を謳歌している。

「あー…代表取締役は…フェンネルでいいよな…誰かにアイデア出してもらえばいいンじゃねェの?」
「うん、最初はやっぱりおじいちゃんに聞いたんだ。」

   この5人兄妹の長男、フェンネルはむむん。と腕組みまでして大袈裟なまでに困ってみせた。父親によく似た髪色だが性格は余り似ていないしっかり者だ。持ち前の気性を生かして下の子をまとめて意見を一つにしている様子であった。
   そんな彼らにエースは席に座ったまま机に頬杖をついてうんうん、と納得する。この船の決定権は何時だって白ひげの親父なのだから。

「おれもそうするな。…で?親父は何て?」
「おまえらが考える事に意味がある、だって。」
「ぼくらが考えたことが1番の贈り物だ…って。」
「…親父、言う事が違うぜ…!」

   感動するとこそこじゃねーよィ。と歳の割には冷静なのは上から数えて3番目の長女である。何を思ったのか1番隊長の口癖を真似てしまっている。

「そんで、その後に参考程度にいろんな人の意見を聞いてみるといいってアドバイスもらったんだよ。」

   そう言ってフゥと一息をついたのは矢張り長男である。どうやらエースより先にあちこち回って来た様だ。そう思えば何だか少々疲れ気味に見えてしまう。

「ヘェ…」
「バックアップタイセイはバンタンだよいってマルコおじちゃんも言ってた。」
「バックアップ体制、万端な。親父とマルコも噛んでりゃ、そりゃー何でも出来ちまうぞ。」

   マルコまで出てくるとは、この5人兄妹の存在が何やら凄まじいものに見えてしまう。目を丸くしたエースは「他に誰かに聞いたのか?」と疑問を投げ掛ければ「うん。」と再び肯定が返って来た。

「イゾウさんは『おめェらのお袋にリボンでも巻いてやればいい』って…?…??」
「…セージ、しっ!」
「…?フェンネルにぃちゃん?」

   自分で言っておいて意味がよく分かっていないのは次男である。そうだろう、この歳でこの意味を知っていたら末恐ろしい…長男の方はお年頃なのでわかってしまったらしいが。
    止めてやれイゾウ相手は思春期だぞ。

「…わかって言ったなイゾウのやつ…」
「ビスタおじちゃんは整髪料をやたらオススメしてたんだけど、島に着いて無いから買いに行けなくて。」

   現在絶賛航海中だ、然もありなん。

「ハルタにぃちゃんは『フランスパン!新しいフランスパン付け替えてやって!』って…笑ってた。」
「…そういうのをな、人は愉快犯って呼ぶんだ。」
「うんわかった。」
「ジョズおじちゃんは皆して同じ髪型になれば涙流して喜ぶぞって。」
「…ぇ?…ジョズ…?」

   他にも出るわ出るわ、確実に面白がって答えたであろうアイデア(或いは本気でズレたものも有り)にエースは珍しく、本当に珍しく溜息をついた。成る程、これじゃあこの兄妹達が困るのも当然だ。

「おめェら皆に聞くのもいいけど、あいつには聞いたのか?」
「あいつ?」

   なんだ、おめェらスッカリ忘れちまって!とニヤリと口角を上げたエースは兄妹達に目線を合わせる様に椅子から立ち上がってしゃがんでやる。疑問を浮かべる兄妹達であるが以外にも末っ子二人は直ぐに答えを見つけ出しあー!と一緒に声を上げていた。

「おかーしゃーん!」
「おかーしゃんがー!」
「オゥお母さんだな。えらいぞー!1番にわかったな!」

   同じ顔の末っ子二人を軽々と抱き上げたエースは慣れた調子で腕を揺らし、あやしてやる。

「なまえンとこ行くぞ!どうせサッチも一緒なんだ、おれがサッチの面倒みてやるからなまえ連れ出せよ?」
「ありがと、流石エースにぃちゃん!」
「へへ、だろ?」

   まるで同年代の様に戯れながら兄妹達とエースはサッチとなまえのもとへと向かったのである。

  後日、母親からのアドバイスを貰った子ども達はそれはもう張り切っていた。長男はいの一番でマルコに計画を伝え、そして白ひげに礼を述べていた。他の子ども達も隊長達の力を…文字通り『本気』になった白ひげ隊長格の助力を得て父親への『サイコーのサプライズ』を計画したのである。長男は会場のセッティング、次男・長女は母親と共にケーキを用意する。勿論エースが全力でサッチを『構ってやった』のでその間父親は厨房に入ってはいない。
   そして開始を告げるのは末っ子双子であった。

「さぷりゃーずー!おとーしゃんしゃぷりゃーずー!」
「しゃぷりゃー、ずぅうぅー!」
「…うん?」

   服の端、少々焦げ付いたそこを可愛い末っ子の娘達に引っ張られて父親が連れて来られたのはこの船で1番見晴らしの良い甲板であった。小洒落たテーブルクロスはビスタから借りたもので、並んだ料理は厨房のメンバーが腕に寄りを掛けた。
  テーブルには二つ向かい合わせに椅子があり、その片方には父親が愛おしくて堪らないと日々口にする妻が座っていたのだった。

「あれ?なまえ?」
「うん。ようこそサッチ。」

   笑み崩れる妻はイゾウが施した化粧で一層美しくなっていた。ホストは見栄えが肝心さね、と嬉々として筆を持った美丈夫は今頃裏手でほくそ笑んでいる事だろう。
    目元に引かれたアイラインに目を奪われていると「父さんこっち!」と長男が後ろから現れ、もう片方の椅子を引いて座る様に促す。

「え、なにこれなに?!」
「とーさん忘れてる?」

   少し呆れている次男にいやいや、父さんボケるのまだ早いからね!と千切れんばかりに首を振る。

「まさかこんなスゲーサプライズが待ってたなんて夢にも思わねェもん!これスゲー旨そう!」
「あとでケーキ持ってくるよィ。」
「マジ!!?」
「料理だけじゃ無いのよ。この子達、皆で力を合わせてくれたの。凄いでしょう?」
「うん!…って、ちょ、なまえも知ってたの!?」
「…そうなの。黙ってて、心配させちゃったかな?」
「…もーそんなの全部ブッ飛んだ…!まじ、マジヤバイ泣きそ、」

   感激で泣くなんて久しぶりだ。双子が産まれた時以来だ、と男泣きを堪えて絞り出した声でサッチは頬を真っ赤にしていたのだった。

「ようこそお父さん!」
「ぼくたち主催のバースデイパーティに!」

   誕生日おめでとう!お父さん!と重なる元気な声は高らかに青い空に響いていた。

「私からも、おめでとうサッチ。あなたが生まれて、私と出会ってくれて…本当にありがとう。これからもよろしくね、…あなた。」
「なまえっ、こ、こちら、こそっ、」

   来年分も再来年も、この先の分も。このテーブルの予約をしようね。皆で一生分のお祝いをする為に、ね?と、そう目尻に涙を浮かべた愛すべき妻と、任せて!と朗らかな陽だまりの様な笑顔を見せる子ども達。

「あ、ありがど、う!!」

   男は遂に声を出して、久方ぶりに泣きに泣いてしまったのだった。


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