すえながくばくはつ | ナノ

Happy Wedding



※過去logのやつとは別系列です
この中編とリンクしてるくさいよ


副船長の独り言

ああ、そうだ。手紙を出すから手伝ってくれ。とさ。なまえが真後ろで目玉ひん剥いてるのが分かってねェのか分からないフリしてるんだが『皆目検討付かない』ところだ、ああおれは全く分からないさ。馬に蹴られる予定は無い。

「流石に量があって間に合いそうにない。特に少々愉快な事情がおれらにゃあるときた。是非とも優秀な頭脳をお持ちの副船長殿に力を貸してもらいたい。勿論、それなりに心添えってもんは用意するぞ?」
「そりゃあドウモ。……招待状か?」
「話が早い!いいな、実にいい。」

送り先が分からなくてなまえと頭抱えてたんだ、とお決まりの笑顔でヘラヘラ笑うこの赤い髪の男をしばきたくなった己の脳みそは平常だ。所在を探せ、だろ、要は。
後ろで「お手数おかけして申し訳ありません」と米つきバッタよろしく頭を下げるなまえにひらりと手を振ったのは気にするな、の意を込めていた。

「私も一緒に、」
「なまえは駄ァ目だ。オヒメサマは今からドレスの試着が待ってるだろ?」
「ちょ、ちょっと、待って……シャンクス…っ」

哀れ非力なオヒメサマは悪い魔王に攫われていく。……あの人がオウジサマ?薄ら笑いしか出ないから止めてくれ。兎角、ご機嫌の赤い魔王がほっぽり投げたメモを開いて、あァこうなるか、やっぱりなと苦笑いを浮かべる羽目になったのだ。

「あいつは、確か……古城云々噂が……魚人島は、いるか……」

古新聞の山を掘り起こし、煙草をふた箱程空にした頃になまえと我らが大頭は戻って来たのだった。大荷物を抱えて、ゴソゴソとご丁寧に目の前で開いてくれなさった。
レターセットは金の縁取りで、お頭にしちゃあセンスが良過ぎだ、なまえが選んだんだろう。それと見慣れた銘柄が数カートン。

「白ひげんとこは調べなくていいぞー。」

 間延びした声にマッチを擦って「そうかい」と相槌をひとつ打てば紫煙が漂う。まあ、土産話とドレスの写真で大分絆されたのは……否めない。
 





火拳の聞き耳

 サッチに小麦粉を買ってくるように言われた、で、ついでに海図用の羊皮紙頼んだよいと追加注文受けて踵を鳴らす。一人で見回す午前の町並みは騒々しくて嫌いじゃない、屋台からイイ匂いもする。踵のリズムで腹の虫も鳴けばそろそろ買い食いでもしてやろうかなんてそぞろに耽っていれば、また、腹の虫。

「林檎より肉だ、うん、肉。」

 赤色は、どうにも。うん、アレだ。
 短くもあたたかい思い出と同時にフラッシュバックする色だった。

「おばちゃん肉くれ肉!」
「はいよ。」

 海賊は湿っぽいなんて似合わない、そうだろう。飯屋に足を踏み入れてカウンターにどかりと座り込んで端から端までメニューをなぞれば準備は万全、後は料理が運ばれてくるのを待つばかりだった。

「そういやァ見たかい?」

 何気なしにしていれば女将と馴染みの客が仲良さそうに喋っているのが見える。
手持ち無沙汰にグラスをからころ揺らせばまるで、調子を合わせるかのように二人の会話は盛り上がっていくのだ。

「メアリの店にね、とんでもないお客が来たのよ!」
「なんだか噂が飛び交って尾ひれがついてるみたいさ、本当なのかい?」
「ほんとうよ、この目で見たんだから。」

 興奮冷めやらぬ握りこぶしは硬く、そ知らぬ顔でいても耳はついそちらへと向いてしまうのだ、暇だったからと適当な理由を付けてしまえば話の輪郭を掴むのにさして時間は掛からなかった。

「すごいのよ、もう、ホントに。」

 似合うヤツを全部着せてやりたいんだが、そうしたらこの店のドレス全部買わなきゃいけなくなるだろ?だっておまえは何着たって可愛いんだ。でもそうしたらおれの可愛いお嬢さんは遠慮して萎縮しちまうだろ?
 おれはなんたって物分りがいいからな、だからここは一つ妙案を思い着いたんだ。

『幾ら掛かっても構わない、おれの花嫁を一番引き立てるドレスを縫い上げてくれ』

「そういってね、花嫁さん……今は恋人なんだけどね、そのこにキスをしたの、息をするみたいにね。」

 おー…おー…きざったらしい人間もいたもんだと、いの一番に出てきたチャーハンに手を伸ばす。
 メアリの店は洋服屋かそんなところなんだろう、花嫁とか言っていたしドレスとはつまり結婚式か何かで着るやつで間違いはない。

「あの大海賊があんなにロマンチストだなんて思っても無かったわ!」

 うん?大海賊?

「……。」

 スプーンは止まり、グラスの氷水ごしに見たのは窓の外。
 赤い色がこのテンガロンを見定めた。





鳥類の酔狂

 酔狂。
 あの男の話でもあり、その男の妻になろうとしている女にも、だ。この言葉が当てはまる。受け取った手紙は赤い封蝋で閉じられて、添えられた走り書きは何とも身勝手な羅列でできあがっていた。

「で、来たのかい。」
「ただの酔狂だ。」
「確かに。」

 みんな酔狂だよい、なんて言ってスパークリングワインを飲み干すのは不死鳥の男であった。隣に居る大男はロゼなんて似合いもしない色を煽っていて今日が異質な日であると改めて浮き彫りにしていたのだった。
 小さな無人島、椰子が申し訳程度に映えているだけの珊瑚で仕上げた白い砂浜の島に、白を纏った花嫁一人。そして赤髪の男。
 花婿、って言葉があんなにも似合わない男がいるんだなとは古参のクルーの台詞だった。勿論赤髪の身内の台詞だとも。

「『あれ』はただ単に花嫁を見せびらかしたいだけだ。」
「相変わらずのイイ性根だよい。」

 ドンパチやらかした相手をしこたま呼んで花嫁を披露するなんてとんだ野郎だ、と思うがドンパチやらかしたからこそ気心を知っている節がある。だからあれは招待状なんぞ送りつけたのだろう。
 ただし絶対に触らせたりしない、花嫁と二人きりで話しなんてさせない、必ず赤髪が間に入ってやれなまえはここが愛らしくて健気で云々喋くっていた。

「わざわざ酒持って乗り込んで来たかと思えばよい、まったく、」

 海賊ばかりが集まっているものだからお上品さには少々欠けているし、がははと大声であちこちから聞こえているし、あぁ今まさに皿が数枚宙を舞った。それでも上機嫌なままの赤髪と、驚いてはいるが嫌では無いらしい花嫁が視界に入っている。

「花嫁はこのロゼが好きらしい。」
「そうかい。」

 似合いもしない色を煽り続けるのはそれが原因かい、と妙に律儀な男に釣られたのは長兄気質の不死鳥であった。のそのそと腰を上げどこかに行って戻ってくれば同じ銘柄がもう一本。

「花嫁を祝いに来たんだ、おれァな。」
「奇遇だな。」

 これからあの非常識で、大雑把で、イイ性格の男に振り回される筈のあの男へ嫁ぐ小さな娘を一瞥して不死鳥はコルクを勢いよく抜くのだった。

 「甘ったるいねい。」
 「実に。」

 ボトルはじきにカラになる。







二人の門出

「ねえ、シャンクス、私とてもびっくりしてるのよ。」

 ドレスを選ぶ時から驚きの連続で心臓がずっとどきどきしっぱなしなの。だってオーダーメイド、なんて思ってもみなかったからシャンクスが言ってる意味が最初は本当にわからなかったもの。
 え、ううん、迷惑じゃないよ…っ、似合うって褒めてもらえてすごく嬉しかった、です。シャンクスと一緒に選べたのも、うれしかった。シャンクスがお姫様ってお茶目言ってくれたけどあの時は本当にお姫様にしてもらった気分だったの。ありがとうね、ベンさんに褒められて、なによりシャンクスに可愛いって言ってもらえて、天にも昇る気分だったのよ。
 そうそう、帰り際にエースさんとまたお会いできたのにも驚いたなぁ。エースさんもものすごく驚いてて、グラス落っことしそうになってて、きゃ、シャンクスッ?

「花嫁は花婿以外の男の話はしないもんさ。」

 ベンに火拳に、なじみの深い野郎ばかり聞こえてくれば心の広いおれだってヤキモチのひとつやふたつ焼いちまうぞ。
 それにこの海で一番綺麗なおんななんだなまえは。だから一番似合うドレスともなりゃ普通のじゃあ不釣合いだろ?自然とオーダーメイドになる。それだけの話だ、あァなまえ、自分の今の姿をきちんと理解してないだろう?この海で誰より綺麗なおんなだぞ?

「最高のおんながおれの花嫁だ。」

 柳腰を掬って引き寄せれば、なまえの香りに包まれる。小さな唇に吸い付けば柔らかな温度をなまえからもらい受ける。

「愛してる、おれのなまえ。」

 耳元で囁けばなまえはとろけるようなほほ笑みを浮かべて、それから同じようにおれの耳に唇を寄せてくれる。

「愛してます、私のシャンクス。」

 漣と、騒々しい笑い声と、鴎の羽ばたき全部が祝福してくれる音に聞こえたんだ。
 ああ、幸せ者だな、と笑ってしまえば「締りの無ェ顔だ、」と嘗て剣を交わした大男が大鯨さながらの声を上げて愉快そうに笑っていた。




Fin





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