Hot night
※若干の性描写あり
※現パロですよ
『若者らしくないわね』
それがどうした、温泉浸かりに行くのに年齢なんてどうでもいいだろ。
『新婚旅行として如何なものか?』
卒業してすぐ式挙げたからな、あんま遠くには行かねェってなまえと話したんだよ文句あるのかテメー。
いいじゃねェかおれららしくて。
『卒業式終わったその足で市役所行ったワケか。えらい駆け足で結婚したなぁ。』
お互いの家に入り浸って、あいつが二人分の飯こさえておれがあいつバイクに乗せて通学してりゃな。
こいつ以外考えられねェだろ、ならもう籍入れちまうかってなったんだよ。
無意識に言っちまったんだ「結婚すっか」っつって。…恥ずかしい野郎だってのは認めてるぞクソ。
『「お義父さんをください」って言ったんだって?テンパりすぎだ。』
……。
……あー…。
ウルセー本当だっつの。お義父さん、こいつを、ください。て言うはずだったんだよ単語と接続詞ひとつ抜け落っちまっただけだ。
……ミスは許されない場面だってのはわかってたがな!あーくそ!分かってたがやっちまったんだよ。
『キッド、ふつつか者ですがよろしくお願いします。』
おゥ。こっちこそ、よろしく頼む。これからもずっと、
ジジィとババァになっても、
「……ゆめか…」
「ふふっ、おはよ、キッド。」
「起きてたのか……」
「ちょっと前に。」
い草の香りが近い。普段ベッドだからか敷き布団の違和感に身を捩る。こんな妙な時間帯に起きたのは疲れが出たからなのか、流石に長距離のバイク運転ともなるとしょうがないか……あァそういえば素っ裸だったと、青年は瞬きを幾ばくか繰り返す。
腕の中はぬくい。時刻は……まだ夜が明けたばかりの頃合いだった。
「腰、大丈夫か、辛くねェか。」
「…はい。」
「ワリィ。」
ぬくいのはなまえの肌と重なり合ったままだからだ。そして柔肌を伝う赤は、自分の髪色では無く夜半に己が散らしてやったものだった。
「……夜より今の方がね、すごく照れちゃうね。」
「だな。……顔、スゲェ赤い。」
耳も。と青年は手を伸ばしフニフニと耳朶を摘む。いつもより触り心地がいいのはしこたま浸かった温泉の所為と、夜更けの名残りの所為だろう。
『キッド、熱いの……お腹あつい、ひゃ、あ、』
まだ微かに残るのは赤ばかりでは無い、なまえのつややかな、なき声が鼓膜の隅にこびついていた。
「……あー……。」
「キッド?」
「なんでもねェ。」
「……心臓どくどくしてる、よ?」
「なまえのお陰で……な!」
「わあっ?!」
照れ臭さを誤魔化すのか、青年は勢い良く体を捻る。なまえに覆い被されば、ニヤリとまぁなんとも『らしい笑顔』になればようよういつもの調子に戻ったようで。仔犬にじゃれつく様に眼下のなまえを撫で回し始めるのだった。
「当たり前だろ、惚れ抜いたおんなとこんなにくっ付いてりゃ。……なまえは違うのか?」
「ち、違わない、デス……」
胸に顔を埋めれば、小鳥の鳴き声よろしくとくとく鼓動が聞こえてくるのだろう、と青年は目を細めて潤う目尻をゆるりと拭ってやるのだった。
しっとりとした肌は、吸い付くようで。
「……温泉来て正解だったな。」
「どうしたの?」
「なまえの触り心地が堪らねェ。なんて言やいいか、そうだな……もちもち?」
「もちっ?……た、体重は増えてない、ハズ、」
「違う違う。触り心地がいいって意味だ。ここの湯って美肌効果あったんだな。」
体のここそこに触れる青年は、ぽそりと「このままずっと触ってたい」と呟いてなまえをぎゅっと抱き締めるのだった。
「お寝坊しちゃう?」
「因みに、だ。今日のスケジュールなんだったか……」
「地獄巡りして、その後は温泉街見て回る予定だったよ。でも……キッドとお寝坊しちゃうのも、たまには。」
なまえもまた青年の方に擦り寄って腕を背中へと回すのだった。再び重なる肌と肌にうっとりとしてしまう。
「いいのか、楽しみにしてたろ。」
「うん。けどね、いいの。」
キッドと一緒にいること。
それが私にとって一番大切な事だから、となまえは囁くのだった。
「折角連れて来てもらったのに、と思うけどキッドに無理させたいわけじゃないもの。……バイク運転して疲れたでしょう?」
バイク旅行だ、と言ってこの地まで運転してくれたのは他でもないこの青年だった。滅多に無い長時間の運転で気疲れだってしているだろうに口にするのはなまえを労わるものばかりで……彼女は微笑みのような苦笑のようなものを浮かべてしまうのだった。
「旅行よりもキッドの方が大切よ。」
「……おゥ。」
「私ね、旦那さまにはもっと甘えてほしいなって思ってますよー。」
頼りないかもしれないけれど大好きな人の力になりたい、辛い時には支えになりたいと心から思うのだ。
「だいすきよ。」
子猫でもあやしているのか、そんな手つきでなまえは青年に寄り添う。
あ、心臓どくどくしてる、と感じていれば低い声が響き体重がにわかにのしかかってくるのだった。
「それ、夜にめちゃくちゃにされた女が言うかよ。」
「あはは、」
青年は今度こそなまえを腕の中に抱き込むと大きな呼吸をひとつして、その額に唇を落とすのだった。
散々『食いつぶされた』のに、まだ己の心配をしてくれるこの女が、お人好し過ぎていつか騙されやしないかと不安になって子供みたいにやたらといじらくして、誰よりも愛おしい。
「なら、オクサンに甘えさせてもらうぞ。今日は寝坊な、決定だ。」
「ふふっ、はあい。」
贅沢な時間の使い方だ、こんなハネムーンもおれららしくていいか、と夢の続きに潜り込んだ二人の夜はまだ長い。
Fin