すえながくばくはつ | ナノ

It's Suprrise



※現パロちっくですよ。



  この大男がドジなのは昔っからだ。何でもないところですっ転びまず間違えない様な手順でミスをする。
  要領が悪い、うっかり屋さんエトセトラ。この言葉に尽きる、昔から……それこそ餓鬼の頃からよく知っていた。

「あァァ……!?」
「……。」

  最近、特に酷い。

「ほら。」
「悪いな、ロー。」

  肘にこさえた擦り傷に絆創膏を貼り終えてからはお決まりのやりとり。手慣れた青年はなんたって研修医、様子がおかしい大男に問診を始めるのだ。
  ……あんた最近おかしいぞ。

「よく分かったなぁ。」

  そしてこの返答ときた。
  青色吐息とドジの織り成す一大スペクタクル、とでもタイトルになりそうだったのはここ二週間ほど。そして言うに躊躇う大男に痺れを切らしかけて漸くその口は開かれたのだった。

「結婚式をどうしようかと思っててなぁ……」
「結婚…?!もうそこまで話進んでたのか。」

  この大男、まあ、この青年から見れば養父のような人物であった。そして長年……でもないか、しかし長年連れ添った妻のような恋人がいる。自分も随分世話になった、主に家事全般において。

「式の仕度を、と思ってるんだがなまえに言ったらぜんぶ手続きしちまいそうなんだ、あいつ頑張り屋さんだから……任せっきりってのはどうにも……」

  歯切れ悪い台詞は尚も続き、いつも世話になってるのに申し訳ないと締め括られる。
  そんな事はないと言いたいのは山々、だが現実はその図体よりも大きな一枚壁の如く立ち塞がっている。残酷だ、大いに残酷。なまえの気性を省みれば「一緒に頑張ろうね」と励ますのだろうが水面下で彼女はフォローに追われるだろう。間違いないと確信してしまうのはこの大男が不幸の星を背中にくっ付けているからだ。

「……ならなまえに内緒で進めたらいいじゃないのか。」
「うん?!ナイショ?!」
「あァ。」

  ブライダルスタッフに分からない事は聞けばいい、何だったらおれも付き合う。何人かに声もかけてみるし予算が気がかりなら身内だけのモンってのもいいんじゃないのか。

「……いざ、なれば。気に食わない事この上ないが『あいつ』もいるだろ。」

  ハデハデしくならなきゃいいがな、とお決まりの皮肉を投げ飛ばしたところで、聞いていた大男は感激で枷が砕けてしまったらしい「ローおまえってやつは!」といい歳の青年を抱き締めてしまったのだった。




  かくしてサプライズ作戦は敢行されたし。
  早々にというかやっぱりというか、大男の兄である『不敵な笑顔』にはバレた。あっさりと。

「フッフッフ!」

  面白いマネしようとしてるなァ?とある意味期待通りの笑顔を浮かべたサングラス。しかし予想外もひとつ、ふたつ起こるのであった。
  苦虫を噛み潰した青年に目もくれず『ロシナンテ、おまえが主役だ、おまえが仕切れ』そう一言投げ飛ばしたのだ。

「なァにこれも可愛い義妹の為さ。」
「………ちぃっ、」

  盛大な舌打ちはさてはて、誰が打ち鳴らしたのやら。大男三人ががん首揃えてギスギス空気を作ったところで、またもや響く新参声は呆れているのか面白がっているのか「異性からの意見は必要かしら?」と嘯いて嫋やかな指で髪をいじるのだった。

「おお、助かる!」
「コラさん、こいつは…!」
「そんなに警戒しなくても。」
「そうだぞロー!」
「少しくらいは疑ってかかれ!」

  まあそんなドタバタもひとしきり。

「なまえさんの好きな色や好きなお花、それにBGMも趣味に合ったものを選ばなくてはね。……それと予算も。」

  結婚の事ならば体験済みの既婚者に聞けとばかりに訪ねたのは旧家の奥方と厳めしい顔の旦那様の所である。この夫婦の娘がなまえと親しい友人なのだ。家族と面識あるのも当然で、実は大男とも縁深い。

「わたしがなまえからそれとなく聞いてみるわ。」
「レベッカしくじらないでね?」
「ふふ、わかってるわお母様。」

  ああ、じゃじゃ馬なのは母譲りだったかとは厳めしい顔のお父様の内心である、閑話休題。

「おれはみんなに助けられてるなぁ、幸せモンだ……」

  感激屋でお人好しの大男はそう言って涙ぐむ。
  用意した指輪はピンクゴールド。兄弟がピックアップしてくれた式場は大き過ぎずかといってチープでもなく。彼女が喜ぶであろう控えめながら薔薇の美しい教会には彼女との思い出の曲を。
  そして、綺麗な綺麗なウェディングドレス。

「……よし!」

  サプライズは金曜日の夜と決めていた、自分が大泣きしても彼女が大泣きしても次の日に差し支えないようにだ。物影には青年始め、愉快な『共犯者』共が固唾を飲んで見守って、ビロードのケースを持つ大男は、ものの見事に緊張していたのだ。

「なまえ…!!」
「はあい?…どうしたのロシー、あらたまって……」

  打ち明けるのは二人の思い出の地、変哲もない公園だがよくデートに出かけた大切な場所だった。『あなたが居る事が大切で、それだけで幸せになれるの』そう口説かれてしまって、無我夢中で彼女を思い切り抱き締めたベンチに並び座っていた。

「……よし、そのまま一気にケリをつけろ……」
「まて、焦らすのも手かもしれん……」
「おまえら黙ってろ……!」

  そんな外野になまえはちっとも気がつかないし、大男はそもそもそれどころでは無い。
  どくどくと脈打つ心臓はいよいよ爆発しそうで、ポケットにいれたケースは100℃以上熱を出して存在をアピールしている。
  喉の音が鳴り響く。

「なまえ、」
「はあいロシー。」
「実は黙ってた事がある。」
「…うん。」
「じ、実は、そのだ。……式場な、こっそり選んでたんだ。」
「しきじょう…??」
「ドレス、とかなまえのご両親にもおれ、挨拶済ませちまったんだ。だからみんなもう日取りとか知ってるし招待状も出し、た。」
「えええ、」
「わかってる!分かってるんだ、独り善がりで本当はこういうのは二人の共同作業なんだって!……けど、」

  おれは、どうにも要領が悪いなまえばかりに任せてしまう。そんなのだけは!おれが嫌だったんだ、おれの我儘だ。
  そこまで一気に言うと大男は叱られた大型犬よろしく目を伏せる。呆れられるか怒られるか……いや、なまえならばそんな事言わないと思っているから敢行した、と打算に塗れた一面を見せてしまったと、動悸に見舞われて汗一滴。

「なまえが好きなものを選んだつもりだ、おれが知ってるなまえの事、それになまえの友達や家族から教えてもらった事、みんな詰め込んで……最高の結婚式をなまえにプレゼントしたい。」

  これを、付けて、おれの隣を歩いてくれ。

  小さなケースは取り出され、パカリと音立てれば夜景に輝くピンクゴールド。
  物影にはガッツポーズをする者、喉を大きく鳴らす者、違和感を少々覚える者。

「えっ。私達結婚するの……?」
「………。」
「………。」

  謎の一拍、ここに極まれり。

「えっ?」
「だって、そんな、結婚のお話なんて一度も……」
「あれ?」
「私、そういうのって、ロー君が研修終わってからって、思ってたの……あれ?私、何か勘違い、してた……?」
「あ。」
「どうしたの、ロシー…?」
「プロポーズ!!」
「わあっ?!」
「おれプロポーズまだ!してなかった!!」
「「「はあああああっ?!!」」」
「きゃあっ?!ど、どうしているのっ?」

  馬鹿野郎!テメェ婚約すっ飛ばして結婚する気だったのか、この馬鹿野郎!!
  おっちょこちょいだとは重々承知だったけど、まさかここまで、なんて……。
  もしやと思うが、婚姻届勝手に出してないだろうな、ええロシナンテ!?

「婚姻届はまだです!すいませんセンゴクさん!」
「謝るのはおれじゃないなまえにだバカタレ!!」
「ごめんなさい!」
「えっ、あっ、はい。」
「おれと結婚してください!」
「「今言うのかよ!!」」

  この大男らしい、では片付けられない大失態に頭を抱える者数名。しかしまあ、このおっちょこちょいの彼を誰より知っている人間はやはり『彼女』だったようで。

「ふふっ、もう、ロシーったら…ふふっ、」

  くすくす笑み崩れ、しかしだんだんと目には雫をたっぷりと湛えて。

「私、ロシーのお嫁さんになってもいいの?」
「ああ!今すぐにでも、なってほしい。こんなとんでもない男のお嫁さんになれるのはなまえだけなんだ……!」
「はい……よろしく、お願いします……っ。」
「なまえ!!」
「ひゃあ?!」

  嬉しさは爆発、ピンクゴールドは放り投げられたが青年が見事救出してくれた。嬉しさあまって彼女を抱き上げたドンキホーテ・ロシナンテはその場でくるくる回り出し、おれのお嫁さんだ!おれの!と公園を走り回るしまつであった。

「雨降って地固まる、か……。」
「コラさんもお人好しだが……そういやなまえはそれに輪をかけたお人好しだったな……。」

  力の抜けた外野は気が抜けたのと喜ばしいのと半々のまま、歓喜に打ち震える声を夜の間聞き続けるのだった。

  ああ、最高の結婚式になる、とおもいながら。



Fin.
 




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