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ドンキホーテと10月6日



※本誌ネタバレなのでご注意!
※現パロですよ


  ぶおん、と放おり投げられた少年が一人。
  ぽかんと見つめてしまっている女と、腕を振り下ろし切った男がそれぞれ一人。

「ろ、ろ、ろーくん!」
「…。」
「くそ!」
  
  そんな『日課』が今日も滞り無く敢行された、うららかな秋晴れの昼下がりの事がらだった。
  昼飯を食べた後、うっかりソファで寝こけてしまって男が目覚めれば同居人の女と少年が二人仲良く隣り合ってキッチンでお喋りをしていた。…機嫌は急降下だ。男は、故にぶん投げた。

「…。」

  少年をぶん投げたのはコラソンという名の大男である。無口で、サングラスをしているものだから一体何を考えているのか全くもって分かりづらい…少々面倒な男であった。

「だ、だいじょうぶっ?」

  驚いて、それから大慌てで少年に走り寄ったのはなまえ。コラソンとこの家に住む女であり、少年がこの家に厄介となる前から暮らしていた。涙脆くて、コラソンの感情を『見つける』のがやたらと上手かった。

「いっしょに、ケーキ作ってるだけでもアウトか…、」

  ぶん投げられた少年の名前はトラファルガー・ロー。諸事情にてコラソン宅に預けられている。クソ生意気で大人びていて…濃い隈が目の下にこびり付いていた。
  放おり投げられた先は、今日はソファの上だったのと上手く受け身を取れたので別段怪我はしていない。お気に入りの帽子は床で力無くひっくり返っているのが見えた。
  …ローは知っている、なまえが見ている時はこの大男、若干手加減をする。なまえが居る時も大抵ぶん投げられるのだが落下地点はベッドだったり今日の様にソファだったり、まあギリギリ『過剰な愛情表現』と言われる辺りで留まっているのだった。

(大方なまえに『コラソン酷い』とか言われたくないからだろ。)

  言い忘れていたが…この大男、やたらめったらなまえに『懐いて』いて大型犬の様にしょっちゅう彼女の後ろを黙って付いて歩いていたのだった。

「怪我は無い…?」
「あァ。ソファだからなんともない。」
「よかった…。あのねコラソン、心臓に悪いのでアグレッシブなコミュニケーションは控えてくだサイ…。」

  大型犬の癖に猫を被っている大男はなんとも素知らぬ顔であった。そしてなまえを小動物を抱き上げる様に片手でひょいっと抱えて、空いた方の手でゆるゆると頬を撫でるのだ。

「もぅ…またそうやってはぐらかして…」
「…。」

  じい、と見つめてしまえばなまえは己に勝てやしないとこの大男、実によく理解していたのだ。
  のべつ幕なしにべたべたとくっ付くのはローにとって随分と見慣れた光景ではあるが、たまにコラソンの執着心だとか、独占欲だとかにほとほと呆れ返ってしまうのだった。

「…こうは、なるまい。」
「…。」
「何も言ってねェ。独り言。」

  つい口に出してしまった台詞にコラソンが振り向いて反応してしまったので、適当に茶を濁す。このヤキモチ焼きの、大人げなさ世界一の、根性悪のなまえ依存症患者め。などとは…口が裂けても言えない。

「コラソン、おろしてー…」

  首は横に振られる。
  一見まるで、というか見たまま駄々っ子の素振りを見せるのはなまえよりも歳上の男である。だのにこれが中々、子どもっぽくて『可愛いなあ』と思ってしまう分強く出れないのであった。

「あのですね、コラソンさん。今日はロー君のお誕生日でして。私は今お料理をこさえてる訳なのです。」

  ふむ。と大男は相槌を打つ。しかし降ろす気はさらっさら無いらしくなまえを抱え直して首筋に掛かった細い髪を弄くり出すのであった。

「ロー君と一緒にケーキのデコレーションしてたの。コラソンが気に入ってる無花果いっぱい入ってるやつにしようって言ってくれたのよ。」
「ばか、なまえっ。」

  ほお。雰囲気だけでコラソンがかるく驚嘆しているのがわかった。
  成る程このクソ生意気なガキがよもや己の好みを健気にも選び取るとは、成る程なるほど。…声に出しているのならこんな感じだろうか。

「だから夕ご飯に間に合う様に仕上げちゃおうと思ってね。二人で頑張ってたのよ。…コラソン、昨日夜更かししてたから起こすのもいけないかなって。」

  なまえはコラソンの事をよく分かっている癖に『男心』というものはイマイチ理解はしてくれていない。知っている、知っているとも。ローは諦めた様に溜息を一つ付いて、足の届かないソファでその両方をぷらぷらと動かすのであった。
  なまえが、降ろされた。つまりは納得したという事なのだろう。ついでになまえの前髪をはらって口付けを一つ落としたコラソンは彼女の隣に並ぶ。

「ロー君、続きしますよー。」

  お待たせしました、とへにゃりとした微笑みは男の口付けの所為で少し赤い。ちょいちょいと手招きされて、コラソンもじっと眺めるばかりで見咎める調子でも無く、ローは軽い足音をさせて二人が並ぶ方へと駆けて行くのだった。

「…。」

  機嫌は、すこぶる良い。









「よゥ、なまえチャン。遊びに来たぜェ!」
「いらっしゃいませドフラミンゴさん。」
「よそよそしいな、『お義兄さん』と呼んでくれねェのか?」

  余談ではあるが…待ちに待った夕飯時に騒がしいのが一人増える事となる。のだが。

「コラさん。」
「…。」

  目線だけで二言、三言、交わし合ったのはこの二人である。サッとなまえとピンクのもこもこの間に立ち、フフフ!とわらう男から隠したのであった。
  このピンクは実にタチが悪い、この前なんてお遊びの様になまえとキスをしようとしていたのだ許すまじ。なまえが穢れる、触るんじゃない妊娠でもしたらどうしてくれる。

「ふ、二人とも、まぁまぁ、」
「なまえダメだ。お嫁に行けない体にされるぞ。」
「え、ロー君、どこでそんな台詞を、覚えてきちゃったの…?」
「…。」
「きゃっ、コラソン、」
「…っとにお嬢チャンが関わると足並み揃えるなァてめーらは。」

  コラソンがなまえを抱え上げてしまった頃合いに、笑っているんだか呆れているんだか曖昧な声を上げたピンクのもこもこはもう一度フフフとわらってみせたのだった。
  四人の騒がしい声は一番星が顔を覗かせた夜空に溶けていく。




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