Primeiro estrela de noite | ナノ

九話目
「…つまりあんたは『違う世界』ってのに行ってその子…なまえ?だっけ?」
「は、はい。」
「なまえのお世話になった、と。」
「おう!」
「惚れたから連れて帰った、と。」
「おう!」
「うーん…ルフィ『惚れた』の意味分かってる?」
「失礼だな!ナミ失礼だぞ!」

  家族会議よろしく『ゴーイングメリー号』の一角では頼れる航海士が船長に問い詰め、船長は両手を越しに口を尖らせ言い返していた。なまえは二人の押し問答にあっちを見たりこっちを見たり…そわそわしたままである。
  いつまでこれが続くのだろうか、もしかしなくともご迷惑を掛けまくっているのでは?と不安がぐるぐると頭を駆け回る。
  ちらちらとこちらを見つめてくる『ウソップ』さんと『チョッパー』君。困った様に眉間を押さえている『ナミ』さん。表情の読めない『ロビン』さん。隅で小さな鼾を立てている『ゾロ』さん。
  なまえの隣には『青年』の想いびと。なまえの不安を吸い取ってくれる様にひたりと寄り添ってくれているのであった。

「おれと同んなじ海をおれの隣で見るんだ、なまえは!世界で一番偉大な海をなまえと一緒に、それにおめェらと一緒に航るんだ。こんなに楽しくてゾクゾクするような事他にあるのか?」
「…はいはい、あんたは一度言ったら聞かないもんねぇ…」
「それにおれ以外が『なまえを守ってる』ってのが気に食わねェんだ。おれだけがなまえ守っていいんだぞ。」
「ぁ、」

  そう言い切るルフィの片手はなまえの片手に重なって、彼女が小さな声を漏らした時はしっかりと絡み合っていた。なまえよりも大きな、なまえよりも温かいおとこの手は彼女の心臓を容赦なく揺さぶってくる。騒ぎ出したくなる感覚と安心してしまう感覚が同時に襲ってきてなまえは顔を隠す様に下を向くのであった。

「あらあら。船長さんは意外と嫉妬深いのね。」

  くすくすと微笑むロビンはなまえの方へ眼差しを向けると「これからまた賑やかになるわ。」と随分楽しそうにしているのであった。

「あんたも大変ね、こんな融通の効かない男に惚れられちゃって。」
「え、あ、その。でもそこがルフィの…素敵なところでもあります、ので…。」
「…ふうん。」
「え、と。」
「そうね。あんたうちのキャプテンのことよく知ってるじゃない。」

  難しい顔をしたナミは瞠目して、それからすぐに力を抜いた様に小さく微笑ったのだった。
  この男が選んだ女なら大丈夫だ。ナミはそれを誰よりも知っている。

「ルフィに振り回され者同士仲良くしましょ。ね。これからよろしくよろしくなまえ。」
「はい、よろしくお願いします…ナミさん、って呼んでもいいですか?」
「そんなに畏まらないで、たいして歳変わんないし。海賊に『お上品』は似合わないわよ?」

  差し出された手がほのかにオレンジの香りを届けてくる。握手をしていればルフィは酷くご機嫌で「おれの仲間、すげー良い奴ばっかだろ?」と実に自慢気であった。

「うん…じゃなくて、はい。私も、私が出来る事であれば皆さんのお役に立てる様に頑張ります。」
「しししっ、ほら、なまえだってすげー良い奴だろ。」

  そして今度はなまえの方を。ルフィは後ろからなまえに抱き付いてきゅうきゅうと引っ付いてやるのだった。丁度お茶とケーキを持って来たサンジがショックを受けていたが…この船長は軽く流すばかりである。ゾロはまだ目は瞑っているままだが…鼾は何時の間にか聞こえなくなっていた。

「それにすげー可愛いんだ、なまえは!ちっちぇえし細いのにな、こうやってくっつくとすげー柔らけーし。いい匂いもするんだ。」
「ルフィ、きゃ、」
「料理も美味ェし、優しーし、笑ってる顔も泣いてる顔もすげーキレイなんだ。おれが持ってねェもんいっぱい持ってっんだ、どうだすげーだろ!」
「いやなんでルフィがドヤ顔してんだよ!」
「しっしっし!まあアレだ、全部好きだってことだ!」
「る、るふぃ、」

  今度はすっかり髪の先まで火照ってしまったなまえの頭に顎を乗せてぐりぐりと擦り寄っていた。太陽が輝く様な、溢れんばかりの笑い顔であった。
  なまえからすればルフィの方がよっぽど『すげー』人である。あっという間にこの場の空気を握ってしまって、他の人間をこんなに褒め称える事が出来て、人の心の影すら照らしてしまう、彼が。
  ひとえに、いとしくて仕方ない。

「きっとおめーらもなまえがすげーヤツで、良いヤツだってすぐ分かって好きになっちまうよ。」
「太鼓判押しまくってんなァ。…ほれ食え。」
「当たり前だ!けどおれよりもなまえを好きになっちまったら駄目だぞ。」
「我儘だな。」
「海賊だからな!」
「…なまえちゃん、こんなのだけど、いいのかい?」
「はい。」
  
  寧ろどこの馬の骨ともしれない女ですが、どうぞよろしくお願いします。そう続けるなまえに金髪のコックは「こんなに素敵なレディならいつでも大歓迎さ」とウィンクをしてみせるのだった。
  ルフィが仲間とはまた違う眼差しで彼女を見つめているのだ、そして彼女も同じ甘やかなそれを返している。
  サンジはそれくらいとっくの前から察しがついている。
  
「ルフィ、あの、皆さん見ているので…離れた方がいいのでは…ないでしょウカ…」
「離さねェよ。」

  ああ、こりゃあ手遅れなトコまできてるよ。
  そう思い起こしたのはさて、この船にいる誰であろうか。きっと一人や二人では無い。
  まあ、この船長だ。突拍子もないのはいつもの事。愛すべき仲間新たに加わったと笑えばいい。
  そう思って誰しもが仲睦まじい麦わら帽子と小さな女を眺めていた。



「だいすきだ、なまえ。」
「…」

  なまえは時折に見せる、もう一つの姿に惑わされてしまう事すら愛おしい。
  ねんねの子どもが紡ぐ言葉であっても囁かれる声音は随分と低くて、掠れていて。

「わたしも、すき、」

  麦わら帽子が揺れる音を聞きながらなまえはその耳のたもとにそっと柔らかな囁きを返すのであった。
  こうやって、きっとこれから二人で、仲間達とすごして行くのだ。

  かがやきを見つけて、想いはつのる。これからずっと、とめどなく。


End


prev next

bkm


bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -