医者でも草津の湯でも治らぬもの
しべりの大タケさんには「忘れ方を教えて欲しい」で始まり、「そう小さく呟いた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば2ツイート(280字)以内でお願いします。
#書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/801664
忘れ方を教えてほしい。
燦然と輝くようだったと説明すれば妄想と誇張と美化がとんでもなく詰め込まれていることがはっきりとわかるだろう。
実際、彼が輝いていたのかはもう定かではない。多分輝いてはいなかった。
しかし、あの時の僕には、……いや、現在あるいは戦いの後にその瞬間を回想した僕にとってはそれは確かに救いであると誤解する出来事だったのだ。
望みはかねて変わらず、今も夢見ている。しかし年を経るごとに、叶う難しさが理解できるようになってしまった。
きっと、この願いが叶う日は来ないだろう。そして僕がこの願いを諦める日も。
そうやってわずかでも受け入れることができたのは、あの日僕を迎えに来た大輔君のおかげなんだろうか。
時折夢想する。あそこで迎えに来てくれたのが、他の誰かだったら。実際は大輔くんしかあの時は動けなかった。分かってはいるけど、想像は自由だ。
実現しなかった『もしも』で気を紛らわせようと、結果的に現在大輔君を好きになってしまった僕が変わることはない。
どうして大輔君が好きなのかと聞かれたら、もちろん首をかしげる自信がある。そうして突き詰めて考えた結果が、きっとこの大輔君の行動。これが大きな出来事だと思う。
彼にとっては当たり前で、誰に対しても同じ行いをするのかもしれない。本人がやって来たのも、ただの偶然だったかもしれない。
けれど不運にもそれにより、僕が大輔君を好きになった。
燦然と輝くようだった。そんな表現が一度でも浮かぶぐらいには脳裏に焼き付いていて、そして今日も彼のことが好きなままだ。
出会った頃から大輔君はヒカリちゃんに一途で、どちらかと言えば僕のことは恋敵として見ている。きっと彼は僕が大輔君のことが好きだなんて欠片も考えないだろう。
忘れ方を教えてほしい。
きっと愚かな僕のことだから、あの時来てくれたのが大輔君じゃなくても、何かしらの要因で彼のことを好きになっただろうけど。いや、そう願いたいだけかもしれない。
大輔君に会う度に、噂で聞くような変調をきたす僕の体がつらくて、両想いになんてなれないことがつらくて、友達にそんなことを考えてしまうことがつらくて。他にも挙げればたくさんある。
恋とはつらいことばかり、と言えば子供が何を言うと笑われるだろうけど。思春期ってそんなものだ、と言われるかもしれないけれど、僕にとっては十分つらいので。あーあ、ピコデビモンが遊園地で僕に食べさせようとした毒キノコできれいさっぱり忘れたい。……嘘だ。母さんに迷惑をかけたくないから大輔君を好きになったことだけ忘れたい。そんな都合のいいものないけど。
「忘れ方を教えてよ」
教室の窓から、裏庭で向かい合う男女が見える。誰そ彼時というのだろうか、両人はっきりと見ることができるけれど。
夕焼けが消えほの赤い空はきっとロマンチックだろうな。丁度いい告白スポットだろう。
何が怖いって人の心が変わることが怖いのだ。
大輔君はあの告白を断るだろうか。
傷つきたくないなら、ここから離れればいいのに。矛盾した思いに惑わされこの場を動けない僕は、そう小さく呟いた。
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