小説 | ナノ



ふと、一冊の本を取り出す。
それはもう綴られる事の無い物語。見慣れた表紙に指を滑らせ、眼を流す。


ぺらり、ぺらりとページを捲って、過去に思いを馳せる。
あの時、あの子はこんな風に感じていたのかと。あの時、あの子は本当はこう言いたかったのかと。





「 」





声は、言葉にもならず、空気に溶けて消えていく。
あの頃と何も変わっていないのだなと苦笑を漏らす。言いたい事は、沢山有ったはずなのに。
してあげたい事は沢山有ったはずなのに。

大人に成りすぎた自分には、その選択は出来なかった。
あの日の出来事が綴られたページを目にして、苦い思いが蘇る。







-今日、ジェイドに告白をした。


「ジェイド。」

そう呼び掛けてきた子供に、いつものように何ですか?と問う。


「俺、お前が好きだ。」



時が、止まったと感じてしまう程、幸せな、台詞。
けれど、同時に全てが崩壊する、音を聞いた。



彼を、受け入れてしまいたい。
受け入れてあげたい。
私を、受け入れて欲しい。
受け入れて。

けれど。



彼は、それで本当に、幸せ、なのだろうか。
残り少ない時間を、自分のような存在と過ごして。自分のような、人間として大切な物が欠落し過ぎているような人間と。



だから。私が出した結論は。
けれど、彼はそんな答えにもふわふわと笑って。





「そっか…。…でも俺、きっと…ううん、絶対、お前の事がずっと好きだ。それだけは、覚えてて欲しい。ずっと、お前の幸せを願っているから。」






-ジェイドは、俺を思って、俺のことを受け入れなかったんだと思う。でも、俺は。














-愛されたかった。例え、残り少ない時間が辛く感じてしまう日が有っても。ジェイドを愛して、ジェイドに愛されたかったよ。










紙面を追う指が止まる。



(…あぁ…、)





愛して、良かったのか。愛されて、良かったのか。






ぽたり、ぽたりと肌を滑る水が頬を流れ、顎を伝い、指に落ちた。






今さら、後悔した所で何も変わらないと言うのに!









そして私は泣くのだろう。
声にならない声をあげて。
貴方を愛し、愛される日々が訪れるまで。

(A foolish man falls to darkness.Light is not visited forever.)


消失⇔本心


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