西広と別れた後、一直線にカトラ火山へと向かった一行。
地上を走るルナについて行く為、全員低空飛行で森を抜け、ふもとを目指す。
間近に迫った火山を見上げながら、ルナの背中に乗った阿部が呟いた。
「デッケーな…噴火したら終わりじゃねェか?」
「在り得るな。百年に一度の周期から見て、今が活動のピークだ」
「げ!じゃあヘタに暴れらんねーじゃん!」
ルナの返答によって危機感をあらわにした水谷。
君臨者並みの力を持つ阿部と水谷に大暴れされたら、いつ噴火してもおかしくない。
オルクスはそれも計算の上なのだろうか。
「そこはテメーらでうまくやれ。力を制御して戦える相手でもねェだろーが、暴れ過ぎてもダメだ」
「簡単に言いやがってこのチビ!」
「今現在お前が1番役立たずなんだぞ!」
「黙れガキ共!この中じゃ俺が1番年上だ!」
「ったりめーだ!オレたちゃ普通の高校生だ!」
「喧嘩すんなよもー」
無責任な指示を出すヘリオスに泉や水谷が噛み付き、栄口が呆れながら宥める。
この期に及んでまだ緊張感は芽生えないのだろうか。
「…苦労してたんだな、ルナ」
「………」
そんな子供のようなやり取りを見ていた花井がルナに声を掛ける。
ルナはもう呆れて言葉もない。
「なあ、入り口ってアレじゃねーか?」
フライヤーを運転している巣山が前方を指差す。
その先には確かに火山のふもとがあり、1ヶ所だけ穴の空いた場所が見える。
「間違いなかろう」
「でも狭くね?」
「ジズあん中飛べるか?」
「うぅ〜…僕はちょっと…」
洞窟への入り口は直径30メートルほど。
人間から見れば十分に大きい穴だが、ルナの倍ほどもあるジズの巨体では、突入には少々困難なようだ。
「しょーがねェ。お前はここで待ってろ」
「ヘリオス様ー…どうかお気をつけてー」
結果、仕方なくジズは外で待機。
残りのメンバーはそのまま洞窟内に突入する。
「ダイエットしたら僕も行きますですー!」
洞窟内には、皆を見送るジズの間抜けな声が響いた。
「…1番緊張感ねーの、あいつなんじゃね?」
「ジズはな…頭はいいんだがバカなんだ」
解るような、解らんような。
呆れながらも全員真っ直ぐ最深部に向かって突っ走る。
緊張感は見受けられないが、ここはもう敵の懐の中。
いつ何が起きてもおかしくはない。
「…!! 皆、止まれ!!」
突然のルナの指示で、全員急停止する。
立ち止まったルナの眼前には、3本の別れ道が続いていた。
「どしたー?早く先進もーぜ」
田島がルナを催促するが、ルナは別れ道を睨んだまま動かない。
ルナの千里眼があれば、最深部までの道のりは簡単に見抜ける筈なのだが。
「結界だな」
同様に洞窟内の異変に気付いたヘリオスが、ルナの沈黙の理由を明かす。
「…うむ。撹乱系の結界だ。千里眼が役に立たぬ」
どうやらオルクスはルナが来る事も考慮し、既に結界を張っていたらしい。
最深部までの最短距離が解らなくなってしまっては、全員別の道を行くしかない。
「ご丁寧なこって」
「戦力の分散は基本中の基本だからな」
「じゃあチーム分けすんぞ。花井!どこ行きたい?」
「え、オレ?何で?」
チーム分けを提案した阿部は、なぜか1番最初に花井の行き先を聞いた。
理由を何となく予想したメンバーは、黙って花井の答えを待つ。
「いーから選べ」
「えー…じゃあ…左」
「よし。じゃあ俺とヘリオスとルナが左に行く。次田島!」
「オレ真ん中ー!」
「じゃあ花井、泉、水谷真ん中行け。あとは右だ」
「えー!何でだよ!オレ真ん中がいいって言ったじゃん!」
田島の疑問も当然である。
ならばなぜ行き先を聞いたのだろうか。
「お前はハナが利くからだ。田島が選ぶ道には多分1番障害が少ない。なら人数が少ない方を行かせるべきだろ」
根拠は無いが、妙に説得力のある阿部の言い分に一同納得した。
「あのさ、阿部…オレに行き先聞いたのもやっぱ…」
そこで、花井がしどろもどろ理由を尋ねる。
聞かなくても解っているだろうに。
「花井のクジ運が悪いからに決まってんだろ」
言い切った。
「………ですよね」
がっくりと項垂れる花井。
後ろの方で、微かに沖の『ドンマイ』という声を聞いた気がした。
「1番ヤバそーな道なら俺とルナが行った方がいい」
「オイ。俺もだろ」
「向こうは最深部に着くまでに戦力を削るのが目的だろーから、全員消耗は最小限でよろしく」
「てめ、隆也。聞いてんのかコラ」
「じゃ、出発すんぞ!」
「…ルナ、俺コイツ殺したい」
「……抑えろ、ヘリオス」
見事ヘリオスの主張をフルシカトした阿部は全員に出発のサインを送り、それぞれのチームは自分達が進むべき方向に体を向けた。
「全員無事で居ろよ!」
「あとでなー!」
「気を付けてね!」
「あんま無茶すんなよ!」
「死ぬんじゃねーぞ!」
「ヤバかったらすぐ知らせろよー!」
「じゃーね!三橋んトコで落ち合おーぜ!」
1人1人が束の間の別れを告げ、洞窟の暗闇へと姿を消した。
阿部達は皆の明かりが見えなくなるまで見送った後、自分達も進むべき左の道へと走った。
「なァ、隆也」
暫く走った頃、ルナの頭に乗っているヘリオスは背中に居る阿部に声を掛けた。
「なに?」
「あの花井って奴の勘、信用していいいのか?」
「おー。あいつのクジ運の悪さはお墨付きだ。ゼッテー強ェトコ引くから」
おそらく阿部は夏大で桐青を引き当てた事を言っているのだろう。
もう忘れてやってもいい頃だろうに。
「それにな、」
続けて阿部は言葉を紡ぐ。
急にトーンが落ちた阿部の声にヘリオスが振り向くと、阿部は真剣な面持ちで前方を見据えていた。
「俺ン事呼んでる奴が居んだよ。この先にな」
「三橋じゃねェのか?」
「いや…敵だよ。俺の事殺したがってる。誰だかは知らねェけどな」
言い終えると同時に、阿部は口の端を吊り上げた。
その表情は複雑で、楽しんでいるようにも憎悪を込めているようにも見える。
ヘリオスですら、一瞬ゾ、とするほどの。
「…何で解る?」
「さァな。ただ、邪魔すんならぶっ飛ばすだけだ」
そう言って阿部は口を閉ざした。
洞窟の先で待つ者は、果たして。
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