絶望



泉と沖は、グラリスの教会に居た。
コンガや他の町からも避難して来た人々で、教会は溢れ返っている。
そんな中、重傷者を集めた一角で布団に横たわる沖と、隣に座る泉を見つけた。


「泉!沖!」


2人を見つけた栄口と水谷が駆け寄ると、沖は上体を起こし軽く挨拶をした。


「大丈夫?」

「何があったの?」


2人の質問に、泉は俯いてしまった。
沖は苦笑いをして、言いづらそうに答える。


「あのね、オレ魔力無くなっちゃったんだ。…それと、」


沖は、更にこう続けた。




「足がね、動かなくなっちゃった」




渇いた笑いと共に吐き出された言葉は、2人に絶望感を与えるには十分だった。


「うそ…」

「ホント」

「…何とかなんねーの?」

「無理みたい。脊髄やられちゃって、神経が切れちゃってるんだ」


もう、立てない。

歩けない。
走れない。

野球、出来ない。

花井に続いて、沖までも。
次々に与えられる、残酷過ぎる現実。


「…沖を担いで戻んのは時間掛かり過ぎるから、迎えに来てもらった。…ワリィな」


ようやく泉が口を開いた。
だが、それ以上は何も言わない。


「ゴメンね」


沖も続く。
発した言葉に、様々な意味合いを含めて。


「…とっ、とにかく戻ろ?花井と、ステントルさんの話も聞かないとさ」


ショックの余り俯く栄口に、水谷が声を掛けた。
栄口は黙って立ち上がり、泉は沖を担いで、教会を後にした。












ようやく宿屋に全員が集合した頃には、西広と巣山も目覚めていた。
水谷がベッドに駆け寄る。


「巣山!良かった…!もうダメかと思った…っ」

「ナメんな。あれくらいで死んでたまるか」


巣山が目覚めた事によほど安心したのか、水谷は涙を堪え切れない。
泉は沖をベッドに寝かせ、同じベッドに腰掛けた。


「西広も、良かった」

「うん。心配かけてゴメン。…それにしても…」


皆を見渡して西広が言う。


「みんな、重傷だね…」


唯一無事なのは戦闘をしていない阿部と栄口のみ。

皆が暗い表情で俯く中、阿部が口を開いた。


「事態は深刻だけどな、落ち込んでもいらんねェ。今すぐ三橋の力が必要なんだけど、アイツどこ行った?」


阿部の質問に、ステントルが答える。


「…本当に面目ない。我々がシェルターを脱出した後、彼は暴れ狂うモンスターを見て、一匹の幻獣を召喚した。その幻獣は一瞬でモンスターを葬り、彼は幻獣の背に乗った。私は止めようとしたが…情けない事に幻獣が放った爆風で気を失ってしまった。…私が覚えているのは、そこまでだ」


そう言って、ステントルは俯いてしまった。
放って置いたら自害しかねない程の責任を感じている。
続いてステントルに質問を重ねたのは西広だ。


「あの…その時三橋の様子…どうでした?」

「表情までは確認出来なかったが…私の声が聞こえている様子は無かった」

「…そう、ですか…」

「どうしたんだ?」


黙ってしまった西広に、続きを促す阿部。


「あのね、みんなを見送った後、三橋の様子がおかしかったんだ。もしかしたら、もうアルトの魂に浸蝕されちゃったかも知んない。扉を開くのはあと1回がリミットだと思ってたんだけど…当たって欲しくなかったな…」


嫌な予感程、的中率は高い。
西広はうなだれてしまった。


「イヤ、多分それだけじゃねーよ」


次に言葉を発したのは、またしても阿部。


「3ヶ月もアルテスに居たんだ。中毒んなっても仕方ねェ」


阿部はシドに聞いた話をかい摘まんで皆に話した。

アルテスで出される食事には、中毒性の高い麻薬物質が含まれている事。

皆が身に付けている首飾りは全てシドの作品だという事。

そして、本当は三橋に救い出されていた事。




「…それがホントなら…篠岡や浜田さんも閉じ込められてるって事か?」

「可能性は高い」

「じゃあ、三橋が呼んでくんなかったらオレ達全員死んでたって事?」

「そーいう事だな」


皆、表情は暗い。

三橋が選別に耐えられなかったら、
こちらに呼んでくれなかったら、
永遠に異次元をさ迷う羽目になっていた。


「…俺は意地でもオルクスの野郎をぶっ飛ばす。そんで三橋を連れ戻して、閉じ込められてる奴らも助けなきゃなんねェ。冷てェかもしんねーけど、落ち込んでる暇なんかねェんだ」


阿部の瞳には強い光が宿っている。
迷いは、無い。


「1回ルナに会いに行こう。オルクスを倒しても地界が無事でいられる方法も探さなきゃなんねー」


花井も続く。

だが、一部のメンバーの表情は暗いままだ。

すると、膝を抱えたままの田島が口を開く。






「…オレ…行かねぇ…」






田島が口にしたのは、思いがけない台詞だった。



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