不測



それぞれが各町での戦闘を終え、最初に首都に戻って来たのは花井と田島だった。
片腕を失った花井は田島にハンドルを任せ、フライヤーのエンジンに魔力を注いで何とか帰り着いた。

そして、崩壊したシルキスを見て驚愕する。


「な…んだよ、これ…」


2人が到着した頃、ライトキャンドル周辺は既に廃墟と化していた。


「三橋!!西広!!ステントルさん!!」


慌てて叫ぶものの、声は虚しくこだまするだけだ。


「花井、コレ!」


田島が探知器を差し出す。
花井は珠を受け取り、直ぐさま探索を開始した。
田島は細心の注意を払いながら瓦礫を掘り返す。

そして崩壊したビルに埋もれた、見覚えのあるパーツを発見した。

田島は慎重に瓦礫を避け、パーツを掘り返していく。
そうして姿をあらわにしたのは、西広と栄口が造ったロボットだった。


「西広!!」


潰れたコックピットをこじ開ける。
中にはやはり西広が居た。


「花井!!こっち!!」


田島に呼ばれ駆け寄る。


「西広!!大丈夫か!?」


返事は無い。


「くそ…!間に合ってくれ…!!」


残り少ない魔力を込めて、花井は治療を始める。
だが、やはり足りない。
外傷を癒すのが精一杯だ。


「どーしよ…ライトキャンドルもほとんど崩れちまってるし…」


どこか安静に出来る場所が無いかと、田島は辺りを見回す。
すると、もう1人倒れている人間を見つけた。


「ステントルさん!!」


こちらはまだ軽傷だ。


「ステントルさん!!だいじょぶスか!?」


頭を揺らさない様、耳元で音を立てステントルを呼ぶ。
そして、ステントルは目を覚ました。


「…うっ、…君達、戻って来てたのか…」

「何があったんスか?三橋は?」


『三橋』、の言葉にステントルはハッとした。
そして蘇る記憶。


「…っすまない…!!」


ステントルは頭を地面に擦り付けた。
田島は愕然とする。


「すまない…って…三橋は!?三橋はどこ行ったんスか!!」

「本当に申し訳ない…!」


ひたすら謝り続けるステントル。


「なんで…なんでだよ!!ステントルさん約束したじゃないスか!!」

「やめろ田島!!」


悲痛に詰め寄る田島を花井が制止した。


「…誰も悪くねーよ。街がこんなんなって…生きてる方が奇跡だ」


何とか西広の救命措置を終え、花井は言う。


「で…も…!!」


田島はうずくまってしまった。


「ステントルさんの話を聞くのは、他の連中が戻って来てからだ。お前は西広を休ませる場所を探して来い」


田島は歯を食いしばり、花井の指示に従った。












花井、田島、ステントルは西広を抱え、ライトキャンドルから少し離れた小さな宿屋に着いた。
店の主はとっくに避難したらしく、中はもぬけの殻だった。
ベッドを用意して西広を寝かせ、花井は鞄から小瓶を取り出した。


「…ソレ、は?」

「こっちでお前に会う前、栄口が皆に配ったヤツだ。これで俺らの居場所を知らせられる」


最初にルナの森へ向かった時、飛空艇内で配られた色違いの小瓶だ。
花井は瓶を割り、ソファに腰掛けた。


「俺らの次に近いトコに行ったのは…巣山と水谷だな」


花井は右手をギュッと握り、胸に当てる。




どうか、無事でいてくれ。




それはまるで、神に祈るかの様な。












一方、気を失ったままの巣山を乗せ、フライヤーを飛ばす水谷。


「わ!?」


栄口のシールが光った。
シールには花井と書いてある。


「うそ…何かあったんかな…」


気絶している人間を乗せている為、スピードは出せない。
それでも水谷は、慎重に全速力でフライヤーを飛ばした。












阿部と栄口。


「ぉわ!?」

「えっ!?」


こちらでもシールは正しく反応した。
『花井』と書かれたシールが光る。
そして、光が指し示す方向はシルキスだ。


「…リゼルは済んだって意味じゃなさそうだね」

「緊急事態、ってか」


2人はジュノを発ったばかりだ。
ここからライトキャンドルまでは、どんなに急いでも半日は掛かる。


「ブースト使おっか」

「何ソレ」

「秘密兵器」

「早く着けんなら何でもいーよ」

「オッケ」


栄口はレバーを引いた。


「400キロ出るから」

「…マジ?」

「落ちるなよ」

「…がってん」


単純に半分の時間で着けるという事になる。
使わずに済んだ予備魔力も動員し、栄口は文字通りマッハでフライヤーを進めた。












そして、泉と沖。

泉がシールの反応に気付いたのは、グラリスに到着し魔士に沖を預けた後だった。
だが、こちらも緊急事態。

泉は先に沖の回復を待つ事にした。












水谷、巣山、栄口、阿部の4人がシルキスに到着したのはほぼ同時だった。
光の指す方へ向かい、宿屋へ入る。


「花井!何が…」


中に入った4人は驚愕した。


「花井…腕……」


田島は膝を抱え、俯いたまま動かない。
ベッドでは西広が寝ている。
三橋は居ない。


「何があったんだ?三橋は?」


阿部が問う。


「今ステントルさんが下で飯作ってくれてる。話は全員揃ってからだ」


花井がそう言って、水谷が巣山をベッドに寝かせた後、またシールが光った。
シールには泉と沖の名前。


「あっちも何かあったのか…?」

「イヤ、どっちかが負傷してんなら瓶1コ割ればいいだけだよ。多分フライヤーが壊れたとか、沖の魔力が残ってないとかで動けないんじゃないかな」


考えられる事態を想定して栄口が口を開く。


「水谷、動ける?」

「何とか」

「念の為、2台で迎えに行こう。みんなはちょっと待ってて」


そう言って栄口と水谷は宿を後にした。

そして4時間後、グラリスに到着した2人を待っていたのは

またしても絶望的な事実だった。



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