一行は一度神殿へ戻りルナに別れを告げ、国王軍の船で海を渡りシルキスに向かう事にした。
軍の船は全部で10台。
一行は大将と同じ本船に乗り込む。
会議室の様な部屋に案内され、大将らしき男が口を開く。
「紹介が遅れた。私の名はステントル・パークス。国王直属の護衛軍総括軍団長だ」
簡単に自己紹介を終えるとステントルは話を続ける。
「首都に着いたらまず国王に会う必要がある。謁見には私が同席しよう。事の顛末を君達から説明して貰いたい」
「なるべく少ない人数のがいいよね」
「三橋は決定でしょ。あと花井と、阿部でいいんじゃない?」
「わかった」
「いつもこんな役回りだな俺…」
「主将だからだろ」
「三橋は大丈夫?」
三橋は相変わらずビクビクしている。
慣れない環境に居るせいもあるのだろうが、この青い顔はいつもと違う。
「具合わりーの?」
「ぅえっ?…へっ、へーき…」
田島が三橋の調子を気遣うが、三橋はブンブンと首を横に振る。
平気とは言っているが、息は上がっているし顔は青いのに汗もかいている。
「普通の体で何度も扉開けたら、消耗して当然だよな…ごめんな」
「ちがっ…!」
作戦の発案者である阿部が三橋の不調の理由を察して謝る。
三橋は否定しようとするが、説得力は皆無だ。
「少し休んで来いよ。栄口、看ててやって」
「オッケ。行こ、三橋」
栄口に手を引かれ、席を立つ。
阿部くんのせいだと、思わせたくなかった。
三橋の良心的な嘘もあっさり見破られ、渋々会議室を後にする。
軍兵に案内され寝室を1つ用意してもらい、三橋は横になる。
三橋の体は、自分で思っているよりもずっと疲労していた。
栄口に付き添われ、ウトウトし始めた瞼を閉じ夢の中へ旅立とうとした瞬間、
ドォーーーーー…ン……
巨大な爆発音が響いた。
「なに!?何事!?」
船体は大きく揺れ、船内はパニックになる。
そこで警報サイレンと共に船内放送が流れた。
『緊急事態発生!!10時の方角に巨大なモンスターを確認!!2号機大破!!繰り返す!!緊急事態発生!!』
部屋の外では慌ただしく人が走り回っている。
栄口と三橋はただ抱き合って揺れに耐えるしかない。
そこで部屋の扉が勢い良く開いた。
「無事か!?」
やって来たのは阿部だ。
「外の様子は!?」
「バカでけぇモンスターが出やがった!お前らぜってー外出んなよ!」
「大丈夫なの!?」
「何とかする!!」
扉を開けっ放しにしたまま阿部は甲板に向かって走り去る。
三橋はギュッと目をつむり、オルクスだ、と思った。
「三橋と栄口は!?」
「とりあえず無事!!」
花井の問いに阿部は簡潔に答えて、武器を構える。
西広は戦闘要員ではないので、乗組員と共に船内に避難している。
そして目の前にはタコのようなイカのような無数の触手を持ち、大型戦艦の軽く倍はあろうかという巨大なモンスター。
今まで出会ったどのモンスターよりも強敵だ。
一行が攻撃の機を伺っていると、1隻の戦艦が砲撃を仕掛けた。
だがモンスターの皮膚には傷一つ付いていない。
そしてモンスターは1本の触手を振り上げると、砲撃を仕掛けた戦艦にそのまま叩き付けた。
戦艦は大破し、海上は大きく波打つ。
「戦艦を一撃かよ…」
モンスターの破壊力に青ざめている間にも次々と戦艦は沈められて行く。
乗組員の命は無いだろう。
そしてモンスターの触手は一行の居る戦艦に狙いを定めた。
空高く振り上げ、巨大な吸盤付きのタコ足が落下してくる。
「マ・シルド!!」
直撃する寸前、ドーム型のシールドが戦艦を包み触手は弾かれた。
「ナーイス花井!!」
チャンスとばかりに飛び掛かった田島によって触手の1本は切り落とされた。
「うらぁあ!!」
触手を駆け上がり頭部に到達した泉も強烈な拳の連打を喰らわせる。
体勢を崩したモンスターの触手が前方の戦艦に叩き付けられようとした時、巣山が触手に向かってパルス砲を放った。
触手の軌道は逸れ、間一髪戦艦は守られた。
「泉どいて!!」
沖の呼び声に泉が飛び上がった瞬間、甲板の両サイドから沖と水谷が魔撃を放つ。
「「エクスプロード!!」」
2人の魔撃はモンスターの周りで火花を散らし、爆発した。
だがそれでもモンスターの皮膚に焦げ痕が付いたくらいで、ダメージは与えられていないようだ。
「あちゃー、炎系じゃダメかぁ」
「サンダーボルトは?」
「ここは海の上だぞ。戦艦まで感電しちまう」
魔法使い組が効果的な魔撃を模索している間、物理攻撃組の3人は触手と奮闘している。
「わかった!じゃあアレでいこう!!」
沖と水谷はもう一度甲板の両サイドに付き、魔撃を放った。
「「フリーズ!!」」
瞬間、強烈な冷気がモンスターを包み凍り付く。
モンスターの体はキラキラと光を反射し、辺りは氷の海と化した。
「おおォ!!」
動きが緩慢になった所で、阿部がモンスターの脳天から大剣を振り下ろす。
モンスターの体は真っ二つに割れ、霧散して消滅した。
「阿部の剣スゲェな…」
「コレ?ルナに貰った」
「何でもっと早くやんねんだよ」
「触手が邪魔だったんだよ」
戦闘が終わり全員クタクタになりながら甲板で談話していると、ステントルがやって来た。
「本当に助かった、異界の少年達…協力感謝する」
ステントルは一行に頭を下げて礼を言う。
「しっかし…船はほとんどやられちまったな…」
残っている船は3台。
7台もの戦艦が沈められてしまった。
多くの命が失われた事を、一行は心から悔いた。
「…悲しんでいる暇は無い。急いでシルキスへ向かおう」
一行は再び船を進めた。
[*前] [次#]
[
Book Mark]