決戦の日、明朝。
それぞれあらかじめ決めておいた配置に着き、栄口と西広の傑作第2号、装着型トランシーバーで連絡を取り合う。
「こちら花井、配置完了。そっちはどうだ?」
三橋、花井、阿部の3人は森のふもと、国王軍からギリギリ肉眼で確認出来る高台に居た。
「準備万端。いつでもいいよ」
栄口と沖はスピーカーの設置。
こちらも森のふもとに居る。
そして、飛空艇停泊の為に神殿上部に造った簡易エアポートに居るのは、田島、泉、巣山。
3人は大砲などの物理攻撃から神殿を守る役目だ。
「あとはシールドだけだな。水谷、いけそうか?」
水谷は飛空艇内部、操縦席に居た。
「が、頑張る…!」
西広は飛空艇と古代兵器を組み合わせ、巨大戦艦を造り上げた。
だが操縦には莫大な魔力を必要とする為、一行の中で魔力の1番高い水谷が任命されたのだ。
「大丈夫。細かい事はこっちでやるから、水谷は操縦に専念して」
西広は水谷のサポートに回っている。
一行は準備万端で決行の時を待った。
「…見えたぞ、国王軍」
阿部の視線の先には、おびただしい数の戦艦や戦車を引き連れた軍人達。
そして国王軍が森のふもとに辿り着き、大将が出撃の旨を伝える。
「我等エスピアの国王軍。異界人9名に罪状を言い渡す。聖地アルテスへの不法侵入、及び王族ミハシレンの誘拐罪。国王の厳命により、これより異界人9名の身柄を拘束する。人質を引き渡し、直ちに降伏せよ」
戦艦からの放送が森に響き渡る。
「なるほどね、三橋は王族って事になってんのか」
「不法侵入は事実だし、誰も疑わないわな」
「水谷、シールド張っとこう」
「…ウス!」
操縦席には大小様々な無数の珠が浮いている。
手元にある珠に手を触れ、水谷は力一杯魔力を込める。
そして、シールドは広大なルナの森を丸ごと包み込んだ。
「水谷やるじゃん!」
「やー西広のおかげだろ」
口々に称賛したりしなかったりしていると、国王軍も攻撃態勢を取り始めた。
「先手必勝。やれ、三橋」
阿部の合図に三橋は頷く。
そして大きく息を吸い込み、両手をかざし、天を仰いだ。
直後、三橋の体は白い光に包まれ、光は空を突き抜け雲を貫いた。
空は割れ、1匹の幻獣が現れる。
三橋が呼び寄せたのは、翼の生えた巨大なドラゴンだった。
そして三橋の元に降り立ったドラゴンは、懐かしそうに三橋に擦り寄る。
このドラゴンもまた、イフリートの従獣。
オルクスに殺されてしまったあのドラゴンの兄弟である。
「ごめん ね。そっちも、大変 なのに」
三橋はドラゴンの顎を撫でてやった。
そして正面に向き直り、国王軍の背後に見える山を指差して命じる。
薙ぎ払え アイテール
アイテールと呼ばれたドラゴンは口から光線を発射し、山一つ消し飛ばした。
山に生物がほとんど居ない事は前以て確認済みである。
ドラゴンの力を目の当たりにした国王軍は動揺を隠せない。
すかさず花井はマイクを手に国王軍に呼び掛ける。
「今の力を見て解る通り、三橋は王族なんかじゃありません。この国を影で操っているオルクスという人物によって神の力を手に入れた異界人です。俺達は貴方方と争うつもりも、攻撃するつもりもありません。どうか引き返して下さい。本当の敵は、国王の上に居るオルクスです」
花井は必死に訴えた。
国王軍には迷いが生じている。
すると国王軍の大将らしき1人が答えた。
「…話がしたい。シールドを収められよ」
大将の申し出に一行は胸を撫で下ろした。
どうやら戦わずに済みそうだ。
「水谷、シールド解除だ」
「ぶはー!疲れたー!!」
それを合図に皆緊張を緩める。
とりあえず、森のふもとに全員集合する事にした。
国王軍からは大将と護衛隊数人。
距離を取って向き合う。
「説明してもらおう。何故伝説の幻獣を呼び寄せる事が出来たのか、オルクスとは一体誰なのか」
一行を代表して花井が事のいきさつを説明する。
この国の本当の歴史、異界人がエスピアにやって来る理由。
首都シルキスで調べた国の歴史と、柱についての記述がルナの話と食い違っている事は確認済みだ。
恐らくはオルクスが改ざん、隠蔽したのだろう。
合わせて、聖地アルテスで実際に見た光景、オルクスの人物像。
一通り話終えると、大将は少し目を伏せて口を開いた。
「君達の言う事が真実ならば、我々はそのオルクス…果ては国王にまで踊らされていた事になるな。……何たる屈辱…!」
男は拳を握り締めた。
「すぐに首都シルキスにて作戦会議を行う!総員撤収!!」
計画通り。
阿部はニィッ、と黒い笑みを浮かべた。
これではどっちが悪者か解らない。
「君達にも協力を頼みたい。ライトキャンドルまで、同行願えまいか」
このままオルクスに三橋を渡したら、聖界だってどうなるか解らない。
国王を説得する為、一行は首都へ舞い戻る事にした。
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