知られざる想い



ゆっくりと氷が溶ける。切り取られた一コマが色を取り戻していく。再び熱を帯びた脳が足の痛みに気付く。ここはどこだ。ぼやける視界で栄口はようやく目の前の人物の顔を認めた。


「シャーク…!」

「動くな」


シャークは栄口の足元に視線をおとしたまま、至極冷静に言葉を発した。栄口もシャークの視線に倣うと、自分の足はまだ氷漬けにされたままだった。刺す様な痛みはこれだった。それをシャークがゆっくりと魔法で溶かしている。
栄口には何の魔法を使っているのか、何故敵である自分を助ける様な真似をするのか解らなかった。疑問は山程あれど、栄口が真っ先に尋ねたのはあのゾンビ達の事だった。


「…聞いてもいい?」

「何だ」

「あのゾンビ達…地界人だよね」

「そうだ」

「オルクスは…、あの人達を生き返らせようとしたの?」

「………」


シャークは口を閉ざした。氷はもう少しで溶ける。


「オレ、あの人達の魂の真ん中で、ただ敵を殺せって命令に洗脳されちゃったみたいなんだ。…でも、少し違った。あの人達、オルクス様の為にって必死だった」


シャークは立ち上がる。氷は全て溶けた。


「…教えて。オルクスは本当は、あの人達を助けようとしたんじゃないのか」


シャークは黙って栄口の瞳を見る。見つめ合ったまま暫くの沈黙が流れ、先に口を開いたのはシャークの方だった。


「…お前なら解ってると思った。確かにあのゾンビ共は地界人。こっちで命を落とし、転生の輪から外れて宙を彷徨うだけの魂だ。
だが、オルクスさんはそれを認めなかった。もう一度奴らに肉体を与えようとしたんだ。お前も話は聞いているだろう。人形に魂を埋め込んだ試作品。本来はあれに魂だけになった地界人を入れる予定だった。…お前達が邪魔さえしなければな」


シャークは続ける。


「オルクスさんは試行錯誤を繰り返した。一度肉体から離れてしまった魂を戻すにはどうしたらいいか。あのゾンビ達は最初の実験体だ。だが結局魂の輪廻から外れた肉体は腐っていくだけだった。それでオルクスさんは人形を作った。自分の魂を埋め込んで、人間の弱っちい魂を埋め込んでも機能出来るまで実験を繰り返した」


トトムスで水谷と巣山が出会った少年。あれが本当は死んだ地界人の為だったなんて。
ゾンビ達の声を聞いた栄口は、ある程度答えを予想していた。それでも信じられない。ヘリオスやルナ、それから今まで戦って来たオルクスコピー、どの印象からしてもそんな慈愛を持っているとは思えなかった。
栄口は混乱した。もしかしたらシャークも自分を洗脳しに来たのだろうか。徐々に疑心暗鬼になる栄口を横目に、シャークは少し目を伏せて話す。


「…オルクスさんは…アルト様に会いたいだけなんだ」

「え…?」

「死んだ人間にもう一度会いたい。相手が大切であれば尚の事自然な考えだ。しかもオルクスさんは君臨者だ。それが出来る。可能性が少しでもあるならそれに縋りたい。あの人はアルト様に会いたいだけだ」


シャークは繰り返した。その言葉は栄口にずきりと突き刺さる。母を亡くした栄口にとって、死んだ人間にもう一度会いたい気持ちは痛い程理解出来た。シャークが何故自分を選んでこの話をしたのか、何となく解った気がした。
だが同時に、栄口は解らなくなってしまっていた。気持ちを解ってしまったが為に、本当にオルクスを敵として戦えるか不安になった。だが三橋は助けてやらねばならない。そこに迷いは無いが、何となくオルクスを可哀想だと思ってしまった。


「栄口…だったな」


混乱する栄口をよそに、シャークは控えめに口を開いた。


「レンの所に行ってやれ」

「え?」


予想に反する言葉を発したシャークに栄口は瞬く。


「それで出来るなら…オルクスさんを止めて欲しい。俺が頼める義理じゃねェが…オルクスさんももう限界なんだ」

「どういう事…?」


シャークはオルクスについて、知っている限りを話した。



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