初デート



とある日の昼休み。

生徒達もまばらな教室で、昼食を終えた栄口と巣山。
今日も好きな曲だとか最近気になるアーティストの話で盛り上がる。

そんな1組の教室に、意外な人物がやって来た。


「巣山ー」


阿部である。
何とも珍しい人物の来客。


「おー阿部。珍しいじゃん。どした?」

「巣山さー、明日ミーティングの後ひま?」

「ん?まー予定はねーかな」

「なになに、デートのお誘い?」


ケタケタとからかう栄口。


「あー、まぁそーなんだけど」

「「はぁ!?」」


冗談で言ったつもりだったのに!
まさか、まさか阿部…



あまりの衝撃に2人は開いた口が塞がらない。


「ジョーダンだよ。来週弟の誕生日でさ、何かよこせってウルセーから買いモン付き合ってもらおーと思ってな。でもオレそーゆうの良く解んねーからさー」

「何だそーゆー事か…ビックリしたぁ…」

「オレはてっきり阿部はそっち系の奴かと…」

「ちっげーよ。オレは至ってノーマルだ」


栄口と巣山は心底ホッとした様子。
阿部の冗談は時々キツイ。
あまり冗談とか言わなそうな分、余計に。


「弟も野球やってんだろ?ソレ関係でいんじゃねーの?」

「オレもソレ思ったんだけど、ウチ手入れ用品とかは親が買って来るから全部揃ってんだよ」


さすが野球一家。
いかなる不備も許さない阿部の根底はそこか。


「だからキャップ帽とかでいーかなって思ったんだけどさ、そーゆうの巣山のが詳しいだろ?」

「あーなるほどね。巣山のキャップいつもカッコイイもんなー」


栄口も絶賛の巣山のセンス。
野球部一のお洒落さんの見立てに間違いはないだろうという阿部の判断は正しい。


「別にいーけど、オレが選んじゃっていーの?」

「いーよ。外して文句言われるよりマシだからな。栄口も来るか?」

「オレも行きたいけど明日は用事あんだよね。オレはまた次の機会にでも」

「じゃあさ、明日弟の写真か何か持って来て。その方が選びやすい」

「おー。じゃまたな」


踵を返して教室を出る阿部に、はいよー、また部活でなー、と2人も軽く手を挙げて答えた。


「阿部も意外と弟思いなんだなぁ」

「やー、エサを与えて黙らせようとかそんな感じじゃないの?それか自分の誕生日に倍返しでプレゼントを要求するとか」




栄口は阿部を何だと思っているのだろう。




「地味に学校の外で会うのって初めてだなー」




別に男と2人で買い物に行って嬉しい事はないが、それでも部活漬けの毎日ではなかなか無い機会だ。
巣山は少しだけ楽しみだったりする。

阿部の弟ってどんな顔してんだろなー
やっぱ似てんのかなー
どんなんが似合うかなー
などと、まるで自分がプレゼントを贈る時の様に想像を膨らませた。




*****




そして翌日のミーティング後。


「阿部ー持って来たかー?」

「ん、」


差し出された1枚の写真。
見してー、と栄口も巣山の横から顔を出す。

修学旅行か合宿だろうか。
3人で肩を組んで写っている、真ん中が弟のシュン君。


「まんま阿部を小さくした感じだな」

「でも阿部より遥かに愛嬌あるよね」




栄口は阿部に恨みでもあるのだろうか。




「で、どこ行くの」


自分に愛嬌が無い事は重々承知の阿部は栄口の失礼な感想を鮮やかにスルーした。


「池袋。いー店あるんだ」

「池袋かー、人多いなー」

「今日は平日だしそーでもないだろ。ちゃっちゃと行くぞー」


自分の買い物なのに人混みを嫌い渋る阿部。
自分の買い物じゃないのにノリノリの巣山。

かくして、2人は男同士によるトキメキ皆無の初デートに出掛けた。















「阿部ー」

「おー…いるぞー…」


平日ではあるが時間はもう夕方なので、それなりに混んでいた。
人混みに流された阿部を巣山が呼ぶ。


「高校生にもなって迷子んなんなよ」

「なんねーよ!!」




なりかけた癖に。




「すぐそこだから」


ほれ、と巣山が指差した先は某有名メーカー店。


「へー…巣山いつもここに買いに来てんの?」

「たまにな。今はあんま暇ねーし、金もねーし」


ほぼ毎日買い食いをしてるおかげで、財布はいつもギリギリである。
高校生に与えられる小遣いの金額など、たかが知れている。
部活中心の生活では色気より食い気。
ヘロヘロの体で自宅までの道のりを自転車で走る為に、買い食いはやめられない。


「どれにしよっかなー」


店内に入りウキウキと商品を物色する巣山。
自分の買い物じゃなくても楽しそうなのは、元来物を選んだり眺めたりするのが好きなのだろう。

阿部は自分の買い物を巣山に任せきって、店内をプラプラしている。




「決めた。コレでどーだ」




暫く悩んだ後、巣山が選んだのはネイビーとホワイトのメッシュキャップ。
シンプルだが、メッシュと同じ色のロゴが印象的なデザインだ。
値段も手頃でちょうどいい。


「んじゃソレ」


ひょい、と手に取ってレジに向かう阿部。
一応プレゼント用の袋に入れてもらい、会計を済ませる。
商品を受け取って店を出ようとした時、綺麗に並べられた帽子を眺めながら阿部がぼやいた。


「見てると自分も欲しくなんなー」


はーっと溜息をつく。


「阿部も買えば?コレとかどーよ」

「無理。オレとーぶんビンボー」


小遣いの金額など、どこの家庭もそう変わらないだろう。
地道に貯めた少ない小遣いを、せがまれて仕方なくとは言え、結局使い果たしてまでプレゼントを用意する阿部は、やはり弟思いだと巣山は思った。


「じゃー小遣い貯まったらだな。そん時もオレが選んでやろうじゃないか」

「それいーな。よろしく」






部活漬けの毎日に何ら不満はないが、こうしてたまの休みに買い物に出掛けるのも悪くない。

前より少しだけ、ミーティングだけの日が楽しみになった。


そんな野郎2人の初デート。







阿部君に対して栄口君が酷いのは、何を言っても笑い合える関係だからです。
たぶん。
シュンちゃんの誕生日いつなんだろーなぁ。




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