穏やかな昼下がり



まだ残暑の厳しい9月の頭。

新学期も始まり、久しぶりに会うクラスメイト達にも懐かしさを覚える。
中にはこんがり焼けた肌にくっきり残る水着の跡が官能的な女子の姿。
健康な高校男児にとっては、女子の水着姿など本能を煽る興奮剤でしかない。

サンサンと照り付ける攻撃的な陽射しの元、潮水に濡れた髪が首に絡まり弾ける水しぶきに目を細め、どんな人間も開放的になる。

そんな光景に思いを馳せ、溜息をつく男子生徒が1人。


泉孝介、15歳。
現役高校球児。
持ち前の駿足と高い打率でトップバッターからクリンナップまでこなす西浦唯一のスイッチヒッター。

そして健康な高校男児でもある。




「海行きてー…」




まだ残暑厳しい9月の頭。
気持ちひんやりとする机に頬を寄せながら、ついついぼやいてしまった。

田島がすかさず食い付いてくる。




「オレも行きたい!!」




しまった。
遅かったか。

太陽の子供というキャッチコピーがピッタリな我等が4番のテンションは、場合によってはキツイ時もある。
クーラー絶不調の今の教室では、ただ静かに時を過ごしたい。
しかもあまり触れられたくない話題に発展する可能性もある。
田島は予想を裏切らない。
何とか話題を変えねば。

そんな泉の願いも虚しく、田島のテンションはさらにヒートアップする。


「海の家のラーメン全種類制覇してーなー!!」

「オレ…、味噌ラーメンがいいっ…!」

「オレとんこつー!!」





始まった。
三橋まで乗っかって。
しかもこのくそ暑いのにラーメンの話とかすんな。
邪道め。
ラーメンといえば醤油だ。





「お前らこの暑いのにラーメンのハナシすんなよー」





ナイス浜田。
海がテーマのこの話題をどーにか変えてくれ。





「海といやー水着の女の子だろー?」





………野っ郎ォ…





「ビキニとかエロいよなー!!」

「やーでもワンピースとかスタイル良くねーと着れねーらしーじゃん」

「そなの?」

「らしーよー。だからワンピース着てるコに目が行くなーオレ」





…それは知らなかった。
でもビキニのあの際どいラインが男心をくすぐるんだ。
イヤそーじゃなくて。





「三橋はー?」

「オレ…、オレ、は…何でも……」

「何でも!」

「三橋雑食ー!!」





水着が見れれば何でもいいと解釈したのか、田島はゲラゲラ笑っている。
三橋は真っ赤だ。
あながち間違ってもいないんだな。
なんか嬉しそうだ。

あぁ、オレに振るなよ。





「泉はビキニだよなー!」





……ちくしょう。





「だってビキニの方が水中エッチしやすいもんな!」

「だから中学ン時のだっつってんだろがぁ!!」





あぁ、一番触られたくなかった話題になってしまった。
オレは何で田島にこんな話をしてしまったんだろう。
どーでもいい所で発揮される田島の記憶力に、オレはこれからも翻弄され続けるんだろう。

もういい。
言っても聞かない子供にはお仕置きだ。





「言・う・な・っつったのによォ〜〜…」










大魔神も真っ青な漆黒のオーラを纏ってユラリと立ち上がる泉。
まがまがしい殺気を瞬間的に察知した田島はチーターの如き瞬発力で逃走を謀る。


「ギャーーー!!」

「待てコラァ!!!」










狩る者と狩られる者。
教室の一角でリアルに再現される弱肉強食の世界。


田島の断末魔が響くまで、あと数秒。



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