青春エンジョイ!(烏丸視点)

元は青春エンジョイ!(10万hit企画)の話です。なので名前は出ないけど太刀川夢主チラッと出ます。

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学校でのクラスも、ボーダーでの所属も階級も違うが、存在は知っていた。興味があったわけじゃなく、ただ、あいつのきょうだいだから知っていただけだ。ただそれだけしか知らなかったのに、千佳がいつの間にかに仲良くなっていたらしく、玉狛で話題に上がったことがあった。今の俺の恋人である、速見白の話題が。

◇◆◇

「そうか、狙撃手に良い人がいて良かったな」
「うん。速見白先輩って言って凄く優しい人だよ。自分に余裕があるわけじゃないのにいつもわたしや周りを気遣ってくれるの」
「なるほど。チカみたいだな」
「え、そ、そんなことないよ!白先輩の方がずっと優しいから…」
「それはまた随分とお人好しなんだな」
「おい空閑…」
「でも出穂ちゃんにもユズルくんにも同じこと言われてたかも…」
「……」


千佳たちがそんな会話をしていたのを思い出した。何故って、今の目の前の光景を見て。


「あれ、前見えてないだろ」


次の授業で使うのか、大きな資料を抱えてフラフラと歩く1人の女子生徒。他の女子生徒が白と呼んでいたから、千佳が話していた速見白で間違いないだろう。まあ、元々知ってたしな。
見てしまった以上スルーすることも出来ずに俺は彼女に近付いた。


「大丈夫か」
「へ!?あ、は、はい!大丈夫です!」
「大丈夫じゃないだろ。貸せ」
「わっ」


持っている資料を半分以上奪い取った。お人好し相手にはこれくらいしないと無駄だろう。そこでようやく見えた顔にやはり速見白だったと認識する。やっぱりきょうだいだな、似てる。そう思って見つめていると、ふと視線が交わった。途端に彼女が固まる。それはもう誰が見ても分かるくらいピシリと。


「教室どこだ?始まる前に急ぐぞ」
「あ、ぁ、…あ…っ」


ここまでの反応は初めてだがすぐに分かった。間違いなくこいつは、俺のことが好きだ。そういった好意の視線をいろんなところから向けられているせいで身に付いた感覚だ。


「行くぞ」
「…っ、……、っ!」


固まったまま動かない彼女を促すように声をかけると、びっくりするぐらいガタガタした動きでついてきた。返事すらまともに出来ないのか、壊れた玩具のように首をガクガクと上下に振っている。余程緊張しているらしい。まあ話すのは初めてだしな。

そのまま無事に資料を届けてすぐに立ち去ろうとした所で、か細い声が俺を引き止めた。


「…ぁ、…ら、すまく…ん…っ」
「どうした?」


視線を向けたときには深く深く頭を下げていた。そこまで下げるか、というくらい。


「ぁ、ぁ、…あぃ、りり、が…う、ござ、ました…!」


お礼を言うだけで声が震えている。そこまで緊張するものかと、それが少し面白くて思わず口角が上がった。


「ああ」


初めて速見白と話した日は、これだけで終わった。あいつは死にそうなくらい緊張していたしもうこれ以上関わることはないだろうと思っていたのに、千佳たちの言う通りお人好しすぎたんだ。


「か、っ、す、まくん…!」


他人から預かった手紙(ラブレター)を俺に届けにきたり。


「かかか、ら、しゅ、ま、く…!」


屋上への呼び出しの伝言を頼まれて伝えにきたり。


「くぁら、ら…!…っ、かぁっすまく…ん…!」


あいつは物凄い挙動不審に吃って死にそうになりながらも他人のお願いを聞いて俺の所に来ていた。断ればいいものを…このままじゃ本当に死にそうだな。そう思っても仕方がないくらい息も絶え絶えな状態だった。

自分をアピールするためにわざわざそんな役回りを引き受けているのかとも思ったが、同じクラスにいる俺の親友によると、ただ単に押しに弱いだけのようだ。まあそうだろうな。自分を良く見せようとする余裕なんてまるでないことは簡単に分かる。


「にしたって、今まででまともに俺の名前を呼べたことがないのはどうなんだ」


会う度に緊張は和らぐどころか、あいつの吃り具合は悪化している気がする。それはもう面白いくらいに。今日はちゃんと呼べるか、目くらいは合うだろうか、毎回躓く段差を学習するだろうか。あいつから聞く他人の用件などどうでもよくて、あいつ自身の言動を毎日楽しみにしている自分がいた。


「じゃあ私は本部に行くから。またね、京介くん!」
「ああ、また明日な」


下校途中、親友と別れて1人で帰路につく。
家の近くの公園で元気に遊ぶ子供たちの声が聞こえてふと視線を向けた。


「…あ」


そこで、珍しいものを目にした。小さい子の面倒を見ている速見白の姿だ。今までのあいつからは想像も出来ない姿に思わずぽかんと見つめてしまう。
吃ることも、挙動不審になることもなく、彼女は1人の面倒見の良い女性として子供の相手をしていたから。

どうやら子供はあいつの兄弟ではなかったらしく、迎えに来た親に連れられて帰っていく子供に手を振って見送っていた。その後すぐにあいつも帰っていくのを見送り、小さく息を吐く。バレなくて良かったと思うのは、見てるのを気付かれたくなかっただろうな。見られるのには慣れているが、見ることには慣れていない。そこでふと、何かが落ちているのに気が付く。あいつがいた場所だ。その場に近付くと、落ちているのは少し汚れた猫のストラップだった。


「これは…確かあいつが付けてたな」


俺の所に来るたびにポケットから覗いていた独特なそれはとても見覚えがある。


「…届けてやるか」


そのストラップをポケットに入れ、小さく呟く。俺がこれを届けたとき、あいつはどんな反応をするんだろうか。今からそれが楽しみだ。
そう、思っていたのに。


「さて、どうしたもんか」


普通に声をかければいいのに何故かそれが出来ずに数日が経っていた。俺は一体何をしているんだ。緊張している…?まさかな。そもそもあいつが俺に声をかけてこなくなったのが原因だ。それを親友に聞けば、どうやらお願いというなのパシリを断り始めたらしい。流されるだけじゃないってことか。ちょっと見直したな。けど、今それをされると困るんだ。話すタイミングが見つからない。


「京介くんから声かければ良いだけなのに」
「?」
「白ちゃんに用があるんじゃないの?」
「…よく分かったな」
「だって京介くん白ちゃんのこと目で追ってるし」
「俺が?」
「あれ、自覚なかったの?」
「……ああ」


親友に言われるまで気が付かなかった。けど、こいつがそう言うなら間違いないんだろう。あいつが話しかけてこないせいか、あいつを見かけるたび、俺は目で追うようになっていたらしい。
……まあ、言われてみれば心当たりはあるな。ここ最近ずっと、今日は話しかけてくるか、そのタイミングでこのストラップを返そう。そう思っていたから。そんな機会は一向に訪れなかったが。

そして結局ストラップを渡せないまま1週間が経った。


「もうお前いらないって思われてるかもな」


ストラップに向けてそう声をかけるも、もちろん返事は返ってこない。何やってるんだ俺は。ストラップをポケットにしまい、本部の訓練室に向かう。
今日は俺の親友が久しぶりに狙撃訓練に顔を出すと聞いて様子を見に行くことにしたんだ。あいつのことだから、腕は落ちてないと思うけどな。
そう思いながら訓練室の扉を開けてすぐに気付く。親友のことはもちろん、あいつがいることにも。もちろん気付かない振りをして親友に声をかけた。


「?あ、京介くん!どうしたの?」
「珍しくこっちに参加してるって聞いてな」
「うん、たまには狙撃手もやっとかないと腕が鈍っちゃうからね」
「久しぶりのわりに全然鈍ってないみたいだな」
「…佐鳥に負けた」
「佐鳥に勝ってたらあいつ泣くぞ。順位一桁なら充分だろ」
「当真さん真面目にやってないからねー」


そう言いながら親友はジト目で当真さんを見据える。同じ方向を向けば、見えるのはもちろん隣にいるあいつの姿で。あまりジロジロ見ているのも変かとすぐに当真さんに視線を向けた…が、今…目が合ったな。滅多にないことのせいかそれだけで少し浮かれている自分がいた。中学生か。

それにしても…随分と当真さんと仲が良いらしい。あんなに活き活き話してるのなんか初めて見たな。…少しだけモヤっとした気持ちを誤魔化すように再び親友に視線を向けた。


「さてと、荒船さんにも自慢したし、木崎さんに報告しようかな!」
「また荒船さん挑発したのか?」
「挑発なんかしてないよ!…あんまり完璧万能手が増えたら貴重じゃなくなっちゃうから……だから量産考えてる荒船さんに意地悪しちゃうだけ!」
「どれだけ完璧万能手が増えたって、太刀川さんはお前しか見てないから安心しろ」


ぽんっと頭を撫でてやると、親友は嬉しそうに笑った。太刀川さんの話をするとすぐにこれだ。あまりに幸せそうでこっちまで幸せが移ったように頬が緩む。


「そうだ、今日の夕食当番はレイジさんだぞ」
「え!今日は木崎さんの手料理?」
「ああ、食べに来るか?」
「うん!行く行く!」
「けど晩飯までにまだ時間あるな。それまで模擬戦でもするか?」
「うーん、今日はいいや。それより、あそこの雑貨屋行こ?気になってたのにずっと行けてなかったし!」
「そうだな」
「やった!京介くん大好き!」


がばりと烏丸に飛び付いてきた親友を難なく受け止める。過剰なスキンシップは今に始まったことじゃないせいか慣れてしまった。
だから周りから俺たちが付き合ってるって勘違いされることが多いんだけどな。

2人で訓練室を出ようとすれば、当真さんが親友の名を呼んだ。その声に2人で振り向けば、にやにや笑う当真さんと、あわあわと慌てるあいつの姿。うん、あれでこそあいつらしいな。そんな姿に少しだけ安心した。


「この中坊3人がお前に指導してもらいたいんだとよー」
「中坊3人……雨取ちゃんたちが?」
「おー、だから狙撃手がなんたるかを指導してやってくれよ」
「それは当真さんが………いや、奈良坂先輩の方が良いと思いますよ!」
「良いから教えてやれよ」


俺と約束したから少しだけ思案したものの、俺が了承すると親友は謝罪し、去り際に小さく呟いて行った。「訓練室の外で少しだけ待っていて」と。聞き返す間も無く千佳たちの方へ駆けて行ったのを見送り、とりあえず外で待つことにする。一体なんだ?
壁に背を預けて少し待っていると、俺が出てきた所からあいつが出てきた。俺の姿を捉えた瞬間にピシリと固まる。うん、久しぶりだな、これ。


「か、かかか…!」
「今から帰るのか?」
「は、はい…!」
「じゃあ途中まで一緒に行くか」
「へ!?」
「嫌なら構わないぞ」
「い、嫌じゃない!嫌じゃないです!い、一緒に帰りたいです!」


思わず誘ってしまったが、了承されて心の中でガッツポーズをする。よし、これでちゃんと話せるな。というか、ここまで会話するのも初めてかもしれない。


「同い年だろ。何で敬語なんだ」
「あ、つ、つい…」


そういえば今までも敬語だったな。会話というより単語だったせいで気にしていなかったが。照れているのか顔を上げられないあいつに背を向けて声をかけた。


「行くぞ」
「は、はい……じゃなくて、うん!」


歩き出した俺の少し後ろついてきてるのは良いが……本部を出てから一切会話がない。別にこの空気が嫌ってわけじゃないが、隣に来ないと話題も振りづらいな。話題…?


「あ」


そこでやっと思い出した。俺があいつと話したかった理由を。これを返すためだったなと振り返ると、あいつがあからさまに大きく肩を跳ねさせた。あ、また目が合ったな。


「ど、どどどどうしたの…?」
「また忘れるとこだった」


危ない危ない。何のために時間を作ったんだ。掌に例のストラップを乗せて差し出す。それを見て相手は目を見開いた。


「こ、これ!私がなくしたストラップ…!」
「やっぱりお前のだったか」
「ど、どうしてこれを…?」


公園でと言いかけて口を噤む。それじゃまるで追いかけて見てたみたいだ。すぐに頭を切り替えて少しだけ嘘を付いた。


「昨日学校で拾ったんだ。どこかで見たことあるなって考えたら、確かお前が付けてたような気がしてな」
「!!」


まあこのくらいの嘘ならいいだろう。返すことが出来て良かった。安心して微笑み、その言葉を伝えれば、相手はぶわっと顔を真っ赤にして大きく頭を下げた。


「あ、あああ、あり、がと…う…!」
「どういたしまして」


掌からストラップを取るときに、少しだけ指が触れて相手がびくりと震える。だいぶ話したつもりだが、まだ慣れないらしい。なら、もう少し距離を縮めるまでだな。


「時間あるから家まで送ってやるよ」
「へ!?」
「どこらへんだ?」
「い、いいよ!ここから遠いから烏丸くん遅くなっちゃうし!」


あ、今初めてちゃんと名前呼べたな。それだけでこんなに嬉しいなんて。


「遠いなら尚更だ。送ってく」
「だ、大丈夫!本当に大丈夫だから!」


両手と首を全力で振り、取れそうなほどに断られる。恥ずかしいからってのは分かってるが、さすがに傷付くぞ。


「けど…」
「き、気持ちだけで嬉しいから…!本当に…!か、烏丸くん、ありがとう!」
「…そこまで言うなら無理にとは言わないが…」
「じゃ、じゃあここで!本当にありがとうね!また学校で!」


早口で言い切った彼女はダッシュで離れていく。意外と早いな。姿が見えなくなる前にその後ろ姿に声をかける。


「白」


速見だときょうだいがいるから白と名前を呼ぶ。ぴたりと足を止めた白はゆっくりと振り返った。


「また明日な、白」
「〜〜〜っ、は、はい!」


再び敬語に戻っていたが、まあ仕方ないか。これから距離を縮めていけばいいことだ。逃げるように走っていった白を見送り、一息つく。


「知らない間に俺の方が気にしてたのか。……恋するのも、悪くはないかもな」


いつもは好かれる方だった。もちろん相手から好かれているのは分かっているが、ちゃんと白に俺が好きだと言わせたい。今のままでも、俺を好きだと言っているような反応は見ていて面白いけれど。…うん、やっぱりちゃんと言わせたいしな。


「楽しみだな」


◇◆◇


「烏丸くん…?何か嬉しいことでもあった?」
「ああ、ちょっと前のことを思い出してた」
「?」


あの日から少しずつ攻めていって、俺は自分の誕生日に白から好きだと言わせることに成功したんだ。そして今、白は俺の恋人だ。


「あまり変わってない気もするが」


未だに俺の一挙一動に慌てふためいて顔を真っ赤にする姿は変わらない。そこが良いと思う所なわけだが。


「か、烏丸くん…?」
「好きだ、白」
「ふぇ!?なななな、なん、…!」


たった一言で顔を真っ赤にする俺の恋人は、こんなにも愛しい。今はもう、俺の方が夢中になってるかもしれないな。

end
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これを太刀川連載の世界線だと知ってる人はどれくらいいるのだろうか。

烏丸夢主の烏丸視点……これで…いいのか…?よくない気がする…長すぎる上に烏丸くんの気持ちの変化が唐突すぎでは…?いきなり場面変換あったりで読みづらいと思います!すみません!
そして肝心の付き合う瞬間を烏丸視点で書いていないという……これは連載してたら書ける話だなと思いました!すみません!あとあとこの子の設定とか実は結構決まってるのできょうだい設定いれてます!そこもすみません!

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