冷えた右手で頬にふれて、

アイラブマイブラザー!!と同じ設定
なのでちょっと近親注意です。

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馬鹿は風邪引かない。そんなことを言ったのは一体誰なのだろうか。けほけほと咳き込む春は、共同スペースのソファで倒れていた。


「春ちゃん風邪?大丈夫?」
「…焦凍くんが足りない…」
「うん、大丈夫だね」


具合悪そうにしていても通常運転な春に麗日は頷いた。


「馬鹿は風邪引かないっていうのは迷信だったんだな」
「あれー?でも夏風邪って馬鹿が引くんじゃなかったっけ?」
「そこの最下位2人組…私の中には焦凍くんと同じ血が流れてるんだから最高に頭も良いんですけど…」
「いやだって、おまえ兄馬鹿じゃん?」
「なるほど確かに」


考える間もなく静かに納得した春は再びけほけほと咳き込んだ。ぐったりとソファに身体を沈める姿からはいつもの騒がしさが想像も出来ないほどだ。


「春ちゃん、部屋で休んだら?悪化したら大変よ」
「周りに菌ばら撒いてんじゃねぇぞブラコン女。さっさと部屋戻って寝とけ」
「……けど今日はまだ、焦凍くんに会ってないから…」


1日1回合わなければ余計に体調を崩すと断言した春に、何故か周りは納得してしまう。気持ちの問題だろうが、春の場合は本当に体調に関わってきそうなほど、双子の兄である轟焦凍に心酔している。恐らくこのまま1人で部屋に戻れば風邪は悪化してしまうだろう。


「んじゃ轟に会ったらすぐに部屋戻って休めよ?」
「…焦凍くんに会ったら風邪なんか治る」
「はいはい。誰か轟くん呼んできてー」
「お、言ってるそばから轟来たぜ?」
「!」


その言葉を聞き、春はがばりと起き上がった。そして先ほどまで力なく倒れていたのが嘘のように素早く起き上がり、轟に向かって走って行く。


「焦凍くーーーん!!」
「お」


突進するように飛び付いてきた春を難なく受け止めた轟はすぐに異変に気付き、春の額に額をくっつけた。


「…!!」
「春、身体あちぃな」
「しょ、焦凍くんに会って興奮しちゃって…」
「風邪か?」
「凄い!愛の力!?」
「ちゃんと部屋で休め」
「焦凍くんが心配してくれて心が休めてる…」


噛み合っていない会話をスムーズに進める2人に周りはついていけず、呆れた視線を向けている。


「結構熱高ぇな」


そう言って轟は右手で春の頬に触れた。冷気を纏い、ひんやりとしたその手が心地良くて、春は頬にある手に手を重ねながら擦り寄る。


「…冷たくて、気持ち良い…」


目を瞑る春を、轟は愛しげに見つめていた。何とも言えない雰囲気が流れ、誰も声を発せなくなる。けれど、その良い雰囲気も春の大袈裟な咳で崩れ去った。


「げほっ、うぇ、げほげほっ!…あーーー、焦凍くんの供給過多でむせた…」
「いやちげーだろ!普通に風邪だろ!」


やっとツッコミを入れても、ほぼ抱き合っている轟兄妹に周りの声は聞こえていないようで至近距離で会話をし続ける。


「治るまで看病してやるから、行くぞ」
「焦凍くんが一緒に汗かいて治してくれるの…?やだどうしよう心の準備が…!やだとか言っちゃった!嫌じゃないよ!ウェルカムだよ焦凍くん!!」
「……轟、熱で普段以上に相当頭やられてるっぽいから頼むわ」
「おう」
「焦凍くん!心の準備とか関係ないから大丈夫だよ!いつでも何でもどこでも大丈夫だから無理矢理だって私は全然…」
「春」


いつも以上にノンストップで喋り続ける春の名を呼び、ちゅっと、額に口付けた。途端に春も周りも時間が止まったようにぴたりと動かなくなる。固まった春を見つめ、轟はふと表情を和らげて微笑んだ。


「あんま喋ると熱上がるぞ」
「…しょ…しょーとく……」
「寝るまで頭撫でててやるから」
「……うん」


しおらしくなってしまった春は小さく頷くと、轟にぴったりと寄り添って部屋へと向かって行った。そんな轟兄妹の後姿を、A組は何も言えずに見送るのだった。


◇◆◇


「え!?焦凍くんも風邪?私の風邪移っちゃった!?え、どうしよう!」


共同スペースでは、すっかり元気になった春がいつも通りのテンションで騒いでいた。近くのソファには轟がぐったりと身体を沈めている。


「私が着替えてる間にいなくなったと思ったらこんなところで弱ってるなんて…!私に弱い所を見せたくないなんて焦凍くん可愛い…!」
「…今度は轟くんが風邪引いちゃったんだね…」
「春くんの看病を1人でしていたなら移ってしまってもおかしくはないな。轟くん、大丈夫か?」
「……おー」
「焦凍くんが辛そう…!頬が赤い…目がとろんってしてる…弱々しい姿…どうしよう興奮しちゃう…!!」


自分のせいでと嘆くかと思えば、春はすっと頬を赤く染めた。昨日見た大人しい一瞬の春はやはり幻だったのかと考え直す。


「は!!ちょっと待って!?私の風邪が移ったってことは……しょ、焦凍くんの中に私が…いる…!?」
「気持ち悪りぃこと言ってんじゃねぇぞ」
「ま、まままままさか…!私が眠ってるときに焦凍くんは私に…き、ききき、キスを…!?」
「妄想も大概にしろや」
「焦凍くん!私が全身全霊で看病してあげるからね!まずはキスしようか!」
「…おう」
「待て待て待て待て!流石に待て!」
「春は落ち着け!轟はしっかりしろ!」
「全力で落ち着いてるけど!?」
「全力の時点で落ち着いてねぇよ!!」


騒ぐ声が頭に響き、その痛みに轟は頭を押さえた。


「…!焦凍くんごめんね…!もううるさくしないから、ゆっくり休もう?」
「……ああ」
「焦凍くんがしてくれたみたいに、私も治るまでずーっと側にいるから、安心して眠ってね」
「…わりィ、春」
「役得だから気にしないで」


昨日轟がやっていたように、春は左手を轟の頬に添えた。轟と左右反対の個性を持つ春の左手は冷気を纏い、その心地良さに轟は目を瞑って擦り寄る。その仕草も表情も昨日の春と全く同じで、逆に春は昨日の轟と全く同じように愛しげに目を細めていた。
合間に挟まれるのは通常運転の言葉だったけれど、2人の間に流れる空気は確かに甘い。またもA組は何も言えなくなってしまう中、春は轟に肩を貸しながらソファから立ち上がった。


「それじゃ私たちは部屋に戻るから、邪魔しないでね。邪魔しないでね」
「え…何で今2回言ったの…?」
「逆に心配やわ…」
「これでこそ春さんですわ」
「轟ちゃんのことよろしくね、春ちゃん」
「任せて!責任は取るから!」
「…やっぱ、いちいちおかしいんだよな…」
「轟くん関連だもん。仕方ないよ…」
「そうそう、焦凍くん相手だからね!」
「自覚ありかよ。タチ悪ィな」
「自分の性格が悪いって自覚ない人より遥かに良いんじゃない?」
「てめ喧嘩売ってんのかァ!?」
「そんな暇あったら焦凍くんの看病するから!」
「……春」


轟が春の腕を弱々しく掴み、抱き寄せるように引き寄せた。まるでこっちを見ろとでも言うように。その甘えたような行動に春は目を見開く。


「…!?」
「……部屋、戻る」
「う、うん!!」
「…一緒に来い」
「お、おおおおお誘い!!」
「…寝るまで、一緒にいてくれ」
「はい喜んで!!むしろ焦凍くんが寝てもずっとずっとずーっと一緒にいるから!!というか最初からそのつもりだったよ!さっきも言ったのに!また言わせるなんて焦凍くんったら!!恥ずかしい!」


恥ずかしいという言葉を辞書で調べ直せ。その言葉を飲み込む。必要以上にくっついて轟の部屋に向かっていく2人の兄妹を、A組は深く突っ込まないようにして見送った。これ以上この2人の会話を聞いてはいけない気がして。

翌日、すっかり元気になった轟ととても機嫌の良い春のイチャつく姿が、共同スペースにて目撃されたのだった。


end
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アンケより夏風邪ネタ!
兄妹の好きって言ってもらえて嬉しかったからこれで…!そのうちがっつり近親相姦ネタも書きたいけどこのくらいの距離感も大好き。お互いの看病の仕方とか部屋で何があったかはご想像にお任せで!
個性反対ってのが個人的に好きな設定だったり。

title:きみのとなりで

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