アイラブマイブラザー!!

ちょっとした近親夢なので注意です

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ばたんっ!!と壊れそうなほど激しい音を立てて開いた扉に、全員の視線が向けられた。そして1人の人物を捉える。双子の兄である轟焦凍と左右反対の色をした髪を揺らして登場した春は、ばっと何かを前に掲げた。


「オールマイト先生に頼んで頼んで頼んで頼んで頼み込んで!戦闘訓練の焦凍くんのVTRダビングしてもらっちゃったーーー!!きゃーーー!!」


寮に帰ってきて早々にテンションMAXではしゃぐ春に、共同スペースにいた全員からの呆れた視線が突き刺さる。轟とはまるで似つかないころころ変わる表情と、感情の起伏。全てが忙しく変わる様は見ている方が疲れるほどだ。
しかしそんな視線にもめげず、むしろ気付かずに春は続けた。


「しかも今回のだけじゃないよ!個性把握テストのときから実は映像撮ってたみたいでね!?そこから全部の焦凍くんを抜粋して編集したのがこのDVDなの!」


じゃじゃーんと自身の声で効果音をつけて更にそれを見せびらかすように掲げた。


「世界に1つしかない焦凍くんの戦闘シーン詰め詰めだよ!先生たちの策略で私と焦凍くんが離れ離れのチームなったときのもこれで抜かりなく確認出来る!もう授業後に全部チェックしてるけど!でもこれでいつでも見返せるんだよ!焦凍くんの勇姿が!!きゃーー!!もう素敵!!」


頬に手を当てて1人騒ぐ春。このテンションでオールマイトは頼み込まれたのかと思うと少し同情してしまうほどにうざい。誰しもがそう思った。そして更に、


(轟妹…めっちゃ喋る…)


A組が以心伝心した瞬間だった。入学当初の喋る前は雰囲気が似ていると思っていたが、春が口を開いた瞬間、それは一瞬にして崩れ去った。個性と髪しか似ている所がない。
当人の轟がいるにも関わらず、誰も反応しない中で春は1人嬉々と騒いでいる。毎度の光景だ。しかしそこでもやはり我が道を行く者が更に1人。だんっと行儀悪くテーブルに足を乗せた。


「さっきから1人でぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうるせぇんだよ。半分野郎劣化版が」
「れ、劣化版…!?」


満面の笑みで轟と轟オンリーの映像について語っていた春はぴくりと眉を動かし、鋭い視線で爆豪を睨んだ。そして爆豪の元へずかずかと進んで行き、ばんっとテーブルを叩く。


「劣化版とか!人間性欠落した人に言われたくないんですけど!」
「てめェに人間性どうこう言われたかねぇわブラコン女」
「ブラコンを悪いみたいに言わないでくれる?真実の愛を前に兄妹なんて概念は関係ないんだよ!」
「気色悪りぃわ!!」
「愛を知らない戦闘バカはこれだから」
「てめェごときが愛を語れる玉かよ」
「少なくとも爆豪よりは語れるね!」
「ぬかせカス」


がるるとお互いに唸りながら睨み合う。とことん相性が合わないらしい。睨み合いながら暴言を吐きあっていたが、何を思ったのか春は突然ぱっと顔を上げた。


「ちょっと待って?よくよく考えると、私が劣化版ってことは焦凍くんが完全版ってことだよね?ならそれってむしろ褒め言葉…!?」
「とんだイカレ野郎だな」
「焦凍くんは誰よりも何よりも完全無欠に強くてかっこいいからね!」


きゃーっと再び頬に手を当ててはしゃぐ春に、爆豪含めた全員が冷たい視線を向ける。さすがに痛々しい。


「春」
「はい!!」


人の話を受け付けないような勢いで騒いでいたにも関わらず、ソファに座ったままの轟の小さな呼びかけに春はすぐさま反応して駆け寄った。まるで忠犬のように嬉しそうに轟の元へ行く春から、ぶんぶんと左右に激しく揺れる尻尾が見えるようだった。


「焦凍くん、どうしたの?」


近付いてきた春に手招きする。春は首を傾げながら更に近付いた。すると、轟は春の手を引いて自身の足の間に座らせ、そのまま春を腕の中に収めてしまう。それを目にした全員が固まった。


「しょ、しょしょしょ焦凍くん…!?」
「ねみぃから少し抱き枕な…」
「!!!よ、喜んで…!!」


後ろからぎゅっと抱きしめられ、肩に顎を乗せられる。まるでカップルだ。


「やっぱ柔らかくてあったけぇな…」
「〜〜〜!しょ、焦凍くんが甘えてきてる…!」
「おい春そこで照れんな!なんかガチっぽく見えるから照れんな!」
「いやもう手遅れじゃね…?」
「完全にガチじゃん」


焦る切島に、上鳴と耳郎の冷静なツッコミが入る。確かに今更であり、手遅れだ。


「…なあ、こいつら本当に兄妹かよ?実は兄妹の振りした恋人だってんならオイラもまだ納得出来るぜ…?」
「残念ですが、個性からしても見た目からしても、間違いなく双子の兄妹のはずですわ」
「…僕の知ってる兄妹と違う…」
「安心してデクくん。私も同じ気持ちやから…」


春の肩に顎を乗せて抱き寄せる轟に、春は嬉しそうに擦り寄る。同じ色の髪が混ざり合い、見てはいけないような光景な気がした。そーっと視線を逸らす。


「焦凍くんが甘えてくるの可愛くて幸せ…録画したい…!」
「目ェ腐ってんだろ。こいつのどこが可愛いんだ」
「全部。全部可愛い。可愛すぎて焦凍くんのことなら抱ける」
「真顔やめろや」


真顔で告げた春に爆豪がすかさず突っ込む。その顔は明らかな嫌悪を表していた。しかし轟はきょとんとしたまま口を挟む。


「普通に抱けるだろ?」
「!?」
「今だって抱いてんだから」
「…轟、意味ちげーよ…つかこんなとこで天然発揮すんな…」
「純粋ぶってんじゃねぇぞ轟ぃ!抱くっていうのはなぁ!?そんな生温いハグのことじゃなくてセッ…」


峰田が全てを言い切る前に蛙吹の舌がその顔を叩いた。


「しょ、焦凍くん…わ、わわわ私のこと、だ、抱ける…?」
「…?おう」


よく分かっていないように返事をしながら、轟は春を抱き締める腕に力を込めた。強くなった抱擁と轟の言葉に、春は言葉もなく悶える。色々と末期だ。


「焦凍くん大好き!愛してる!」
「おう、俺も」
「〜〜〜!どーだ聞いたか爆豪!これが愛だ!」
「うぜぇわ殺すぞ!!」


高らかに宣言して満足したのか、春と轟は戯れ始める。これが恋人同士ならばまだ微笑ましく見守れるが、2人は兄妹だ。周りが居た堪れない気持ちになる。
そんな反応など全く気にせず、轟兄妹は今日も過ぎたスキンシップで周りを困惑させ、仲を深めるのであった。


end
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お兄ちゃん大好き!!な子を書きたいのは確かだったんだけどもっと普通にお兄ちゃん大好き!な子を書きたかったはずだった(?)でもちゅーさせたいのは我慢した。

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