迅さんに義理チョコ

〜迅さんに義理チョコ〜

「「あ」」


本部の廊下で顔を合わせてお互いに固まった。


「いや何で迅さんが固まるんですか」
「いやいや、なんで春は固まって当然の発言なの」


迅は呆れたように笑った。春はすっと視線をそらす。珍しいその行動に迅は首を傾げた。

そして見えた未来に思わず顔がにやけそうになる。


「…み、みえた…?」
「んー?何がー?」
「見えてるじゃん!…未来覆す」
「やめなさいって。素直に渡してくれれば良いだろ?」
「素直に渡したくならない」
「どうしておれ限定でツンデレなのかね、春ちゃんはさ」
「ツンデレとかじゃなくて、なんか、迅さんは特別だから…」
「お、可愛い発言だな」
「……言葉間違えたかな。迅さんは男として見れないから?」
「それは酷くない?」


眉を下げて笑った迅に、春は眉を寄せて渋々といったようにラッピングされた袋を差し出した。


「そこは笑顔で渡すべきじゃない?」
「………いらないなら良いです」
「いらないわけないでしょ。春からのバレンタインチョコなんだから」


差し出された袋を受け取り、迅は優しく微笑んだ。そして春の頭に手を伸ばし、ぽんっと撫でる。いつものように振り払わず、春は大人しく俯いていた。

それも見えていた。恥ずかしさに頬が赤く染まっていることも、分かっている。


「ありがとな、春」
「…いえ。…だって、迅さんには凄くお世話になってるし、渡さないわけにはいかないから…」
「そういうとこ律儀だなー。流石は風間さんの幼馴染み」
「そこは関係ないです。…日頃感謝してるけど、こういうときじゃないとお礼、出来ない…から」
「…ちゃんと気持ちは伝わってるよ。じゃなきゃずっと春のこと面倒見てないって」
「…うん。なんだかんだ、C級の頃から…むしろ入隊前からお世話になってるよね。…色々、迅さんのお陰で私はここまで来れてる」


入隊前も、C級のときも、B級のときも、太刀川隊に入るときも。いつもいつも迅は傍で助言や協力をしてくれた。
太刀川隊へ入っても、それは変わらずに。太刀川と気持ちが通じるまでも通じてからも。

ずっと、世話になっている。


「…迅さん、いつも、ありがとう」
「どういたしまして」


ぽんぽんと撫で続ける手は振り払われない。
振り払われる未来はどうやっても見えない。だから今日はいつも撫でられない分、たくさん撫で回そうと、迅は照れる春の頭を撫で続けた。


→二宮さんに義理!チョコ

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