加古さんに友チョコ

〜加古さんに友チョコ〜


殺人現場に遭遇してしまった。
春はごくりと唾を飲み込む。

凶器を持ち、にこりと口元に綺麗な弧を描く、目の前の人物に。


「あら、どうしたの春?」
「あ、い、いや…そ、の…」
「なにかしら?」
「そ、そこに死んで……じゃなかった。た、倒れているのは…」
「堤くんのこと?バレンタインだから炒飯作ってあげたんだけど、あまりの美味しさに気絶しちゃった見たいね」


絶対違う。

しかしそんなこと口が裂けても言えなかった。
その原因である炒飯が加古の手にあり、思わずそちらに視線を向けてしまう。やはりあれが凶器か、と。


「まだ試作品だけど、春にもあげるつもりだったから食べて良いわよ?」
「え゛」


普段出ない声が出てしまい、加古は綺麗に笑った。


「そんなに喜ぶなんて、堤くんと同じ反応よ?」


つまり自分も殺されるのではないかと嫌な汗が出た。

「ば、バレンタインなのにチョコじゃなくて炒飯なんて…ざ、斬新ですね!」
「ええ。みんな甘い物じゃ飽きちゃうでしょう?だから敢えて変えてみようと思って」
「あ、あはは…そうですね…」


引きつった笑顔と乾いた笑いに気づくことなく、加古はまた綺麗に微笑んだ。その笑みに背筋が凍った。このままではやばい。殺される。

逃げろ、と、死体から声が聞こえた気がした。


「だから春にもこれを友チョコの代わりに…」
「か、加古さん!私いつも加古さんにお世話になっているので、友チョコです!」


半ば強引にチョコを押し付けるように渡した。その可愛らしい袋に加古は優しく微笑む。


「うふふ、嬉しいわ。ありがとう、春」
「いえ!」
「それじゃこれはお返しに…」
「わ、私!他にも渡さなきゃいけない人いっぱいいるので!そ、それでは!」
「あ、春?私の炒飯…」


春は聞こえないフリをして飛び出した。加古には悪いと思いつつ、転がったままだった死体に心の中で手を合わせて。


→出水先輩に義理チョコ

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