犬飼先輩と辻に義理チョコ

〜犬飼先輩と辻に義理チョコ〜


「あ!紅葉ちゃんみーっけ」
「……犬飼先輩、なんですか」


本部の廊下でびしっと指差してきた犬飼に眉をひそめた。犬飼の後ろには辻もいる。どこか隠れているようにも見えるが、今は何やら楽しそうに近付いてきた犬飼の相手が先だ。


「なんですかじゃないでしょ?俺に渡すものあるんじゃないの?」
「………」
「ほら辻ちゃんも!」
「………」


犬飼に背中を押され、辻が前に出た。2人で紅葉をじっと見つめる。


「…まあ、用意してますけど…」
「さっすが紅葉ちゃん!」
「辻は甘いもの好きだったよね?」
「あ、ああ」
「なら良かった」


甘いものを食べそうな外見ではないが、前に隊室でシュークリームを食べているのを見かけた。だから甘いものを食べるのだとそのとき初めて知ったが、そのお陰で今日は辻の分も用意している。


「犬飼先輩、どうぞ」
「わーい。ありがとー紅葉ちゃん!」
「…なんか心こもってない気がします」
「そんなことないよ?」
「……はい、辻」
「…ありがとう」
「…辻、なんか今日変じゃない?」
「!」


いつもよりどこか、よそよそしいというか、口数が普段にも増して少ないというか。違和感を感じ問いかけると、犬飼が楽しそうに口を挟んできた。


「あ、分かっちゃった?実は辻ちゃんバレンタインが怖いんだよねー」
「ちょ、犬飼先輩…」
「バレンタインが怖い?女子が辻に渡そうと集まってくるから?」
「ビンゴ!」
「……あー」


にやにや笑う犬飼に、紅葉は苦笑する。辻が女子が苦手なことは知っている。自分も最初は会話どころか目を合わせることもしてもらえなかったのだから。


「確かにモテそうだもんね」
「俺も辻ちゃんもモッテモテだよ」
「…へー」
「あ、紅葉ちゃんは俺たちよりももう一人が気になるか」
「は、は!?そ、な、そんなこと言ってないです!」
「紅葉ちゃんも辻ちゃんも言わなくても態度で分かるからね」


2人は何とも言えない表情で犬飼を見つめる。多少の自覚はあるために反論出来ない。


「…犬飼先輩に作ってこなきゃ良かったです」
「俺色々助けてあげてるでしょ?」
「出水をネタに遊んでいるようにしか見えませんよ」
「辻ちゃんどっちの味方なの」
「少なくとも犬飼先輩の味方ではないんじゃないですか?」
「ひどいなー?2人で結託しないでよ」


そう言いながらもにやにやする犬飼に、辻と紅葉は顔を見合わせ、同時に溜息をついた。


「…辻、犬飼先輩の相手頑張ってね」
「俺はいつものことだから大丈夫」
「いつも大変だね」
「お互い様だな」
「うんうん、2人ともすっかり仲良くなったよね」


前は視線すら合わなかった辻だが、二宮隊の隊室に通い詰めるうちに慣れていき、今では普通に会話出来るようになった。けれど接触すると大袈裟に反応するため、あまり近付くことはまだ出来ない。
けれど、チョコは受け取ってくれたことに少し嬉しく思う。


「ちゃんと辻にも渡せて良かったよ。それじゃあわたしはまだ渡す人たちいるから」
「大本命がいるもんね」
「…っ、う、うるさいです」
「否定はしないんだ?」
「ち、違…!」
「出水、犬飼先輩の相手してたら渡しに行けないぞ」
「……うん、そうだね」


辻の言葉に溜息をつき、紅葉は踵を返した。


「それじゃ失礼します、犬飼先輩。辻も」
「ああ」
「もう少し遊びたかったなー。まあいいか、じゃあね、紅葉ちゃん」


軽く会釈して足を進めた。
二宮隊ではない自分が二宮隊を出入りしているのに、2人は何も言わずに受け入れてくれている。オペレーターの氷見も。
そんな二宮隊に居心地の良さを感じていた。

だからこれからもあの2人には世話になると思うと、思わず苦笑が漏れた。


→駿と双葉に義理チョコ友チョコ

[ 24/29 ]

[*prev] [next#]