てっちゃんに義理チョコ

〜てっちゃんに義理チョコ〜


「頭固いてっちゃんに甘いもの恵んであげるよー!」
「ぐっ」


タックルのごとく突撃し、抱き着いてきた海に、荒船は低く呻いた。そしてやれやれといった様に溜息をつく。


「その呼び方やめろって言ってんだろ。てかお前、本当に学校とボーダーだとキャラ違うな」
「そんなことないよ!」
「そんなことあんだよ。喋らなきゃ美人のくせにもったいねえ」
「え!美人!なになにてっちゃんってば私のこと好きだったの!?やだー!」
「やだじゃねぇよ俺が嫌だっつの」


げしげしと引き剥がそうと頭を押すもなかなか離れない。しかし海は自らぱっと離れた。


「そうそう!それでこれね!」


ずいっと目の前に差し出された市販のチョコのパッケージに眉を顰めた。ラッピングも何もされていないことにも不満だが、それよりも何よりも、パッケージが透明で中が見えるそのチョコの形に不満だ。

にこにこと差し出す本人はどういうつもりなのか。いつも読めない。



「…おい」
「なにー?」
「お前どういうつもりだ」
「もちろん義理だよ!何言ってるのてっちゃん!本命は匡貴さんしかいないからね!」
「そういうこと言ってんじゃねぇよ!何で中身が犬の形したチョコなんだよ!」


見事なまでのリアルな犬のチョコ。まだ可愛らしいデフォルメされたものなら許せるが、完全に悪意しか感じないそれにぴくぴくと眉を動かす。


「これ探すの苦労したんだよ!てっちゃんのために探してあげたんだからね!」
「嫌がらせのために無駄な労力使ってんじゃねぇよ!」
「嫌がらせじゃないよ!私の友愛だよ!」
「なんだそれ友愛捻じ曲がってんだろ!俺は犬が嫌いなんだよ!」
「准兄は好きだよ!」
「だから何だ今関係ねぇだろ!」


本部の廊下で進学校の成績上位組が低レベルな口論をする。学校では見られないレアな光景だが、本部では日常茶飯事で。

こいつに何言っても無駄だと、荒船はガシガシ頭をかいた。そしてばっとチョコを奪い取る。


「てっちゃんってば照れ屋なんだから!」
「お前と変な噂が立つの嫌なだ…」
「照れ屋で可愛いけど匡貴さんには及ばないね!私から本命を貰いたくば匡貴さんより素敵にならないと!」
「……なんか色々ムカつくな。いつもお前の相手してる犬飼たちが疲れてる理由が良く分かるぜ」
「なに!てっちゃんも私の作戦チームに入りたいの?」
「一言も言ってねぇよ!」


少し相手をしただけで疲れる相手に大きな溜息をついた。しかしとりあえずチョコを貰ったことに変わりはないので。ガシガシと頭をかいていた手をそのまま下ろし、海の頭にぽんっと乗せた。


「…まあ、とりあえず、ありがとうな」
「てっちゃんがデレた!」
「お前一々うるせぇな!」
「いたっ!」


ばしんっと大きな音が鳴るほどのデコピンをくらい、海は額を抑えて飛び退いた。


「いったい!今のデコピンの威力じゃなかったよ!?DVだDV!」
「お前と付き合った覚えなんかねぇよ」


そろそろ本当に疲れてきた。
荒船は大きく溜息をつくと、原因である海は首を傾げた。


「どーしたのてっちゃん?」
「はぁ、何でもねぇよ。それより、まだ渡すんだろ?本命にも」
「うん!もちろん!悲しまないでねてっちゃん!」
「誰が悲しむんだよ。いいからさっさと行け」


頭をぱしんっと軽く叩き、行くように促すと、海は笑顔で廊下をスキップして行った。

またねー!っと大声で大きく両手を振って。

どっと疲れた心と身体に、大きく溜息をつきながらも呆れたように笑みを浮かべた。


→桐絵ちゃんに友チョコ

[ 14/29 ]

[*prev] [next#]