澄晴くんに義理チョコ

〜澄晴くんに義理チョコ〜


ぞわっと背筋に走った悪寒に、今すぐここから離れろと頭の中に響く警鐘。


しかし、もう遅かった。


「澄晴くーーん!」
「い゛っだ」


背中からタックルのごとく飛び付かれ、トリオン体ではなかった犬飼は低く呻いた。


「あれ?ごめんね澄晴くん!」
「君さ…ほんっと誰彼構わずタックルするのやめなよ」
「誰彼構わずじゃないしタックルじゃないよ!」
「タックルじゃなきゃあの攻撃なんなの?毎回これを普通に受け止めてる二宮さんも謎すぎるんだけど」
「私の愛情だよ!匡貴さんはどんな愛情も受け止めてくれるから!」
「じゃあそれ二宮さんだけにして俺にはやめて」
「あー!そんなこと言うとチョコあげないよ!」


市販のチョコを取り出し海は犬飼の前で見せびらかすように揺らす。それをじとっとした瞳で見つめた。


「そんな市販のチョコくれとか強請らなくても俺貰えるから」
「えぇ!?澄晴くんがモテるの?澄晴くんが!?」
「凄くムカつくんだけどこれは喧嘩買っていい?」
「だって澄晴くんだよ!みんな見た目に騙されてるんだね!」
「それ海には言われたくないんだけど。君ほど見た目と中身合わないのも珍しいよ」
「え!なになに?澄晴くん私のこと好きって?」
「耳腐ってるなー。一言も言ってないわ」


犬飼は笑顔で海の頭に手を乗せると、ギリギリと握り潰した。



「いだだだだだ!!澄晴くんばか痛い!」
「ばかは君でしょ」
「そ、そんなこと言ってると本当にこれあげないよ!」


犬飼は前に突き出されたチョコを、さっと取り上げた。海からは不満の声が上がる。


「欲しいなら素直に言えば良いのに!」
「貰ってあげるんだよ」
「素直じゃないなあ!」
「いつかその頭握り潰してや…」
「あ!それともう一つね!」


犬飼の言葉を遮り、海は小さな袋を差し出した。犬飼は首を傾げつつそれを受け取る。


「こっちはちゃんと手作りだよ!匡貴さんに気合い入れて作ったら作りすぎちゃったから、市販とは別にあげてるから!」
「なに?毒入り?」
「澄晴くんひどい!」
「海なら自分にチョコ塗りたくって私を受け取って下さいとか言うと思った」
「それ公平くんにも言われたよ!澄晴くんは私を何だと思ってるのかな!」
「はいはい、ごめんね。一応貰っといてあげるよ」


そう言いつつ、ぽんっと海の頭を叩いた。先ほどとは違い、優しく。その仕草に海は笑った。


「澄晴くんも可愛いとこあるね!」
「うるさい」
「うふふー!じゃあ私は他の人にも渡してくるから!じゃあねー!」


来た時と同じように騒がしく去っていく海に、犬飼は大きく溜息をついた。今日一日分の体力を使った気がする。

小さな袋を開け、小さなチョコを口へ放り込んだ。


「こんなんじゃ疲れも取れないな」


口の中へ広がる甘さに笑みを浮かべ、犬飼は海とは逆に歩き出した。


→新ちゃんに義理チョコ

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