太刀川さんに本命チョコ

〜太刀川さんに本命チョコ〜


今まで渡してきた人たちとは違う。
ドキドキと高鳴る胸に手を当て深呼吸をし、春はまだ慣れないインターホンを鳴らした。


「……はい」
「あ、た、太刀川さん!春です!」
「春!?」


バタンっと勢いよく扉が開けられた。現れたのは寝起きのような太刀川で。その普段見れない無防備な姿にどくりとまた胸が高鳴った。


「なんだよ春…来るなら連絡してくれりゃ良かったのに…」
「…連絡…したんですけど…」
「マジか」
「電話繋がらなかったので、一応メールを…」
「………悪い」
「い、いえ!私こそいきなり訪ねてきちゃってすみません!」
「何でお前が謝んだよ。春に会えて嬉しいに決まってんだろ?」


カーッと身体が熱くなった。何でもないように、当然のようにそんなことを言われて嬉しくないわけがない。
しかし太刀川は分かっていないかのように首を傾げた。


「あー…とりあえず入れ」
「あ、いえ、あの…わ、渡すものがあるだけなので…」
「寒いんだから中入れ。風邪引くぞ」
「きゃ…!」


ぐいっと腕を引かれて胸に抱き込められる。外が寒かったせいか、太刀川の温度がとても温かく感じる。薄着の太刀川から直に感じるその体温に、春は顔を赤く染めて黙り込んだ。


「?どうした?」
「…い、え…」
「つーか春冷てぇなー」


そう言ってぎゅっと抱き締められる。寒かったはずが、どんどん体温が上がっていく気がした。


「あ、あの…!た、太刀川さん…!」
「んー?」
「わ、渡したいものが、あるんです…!」


このまま太刀川のペースに流されてはずっと渡せない気がした。それは困る。どうしても渡したいものなのだから。


「渡したいもの?」
「今日は…その、ば、バレンタイン…なので…!」
「チョコか!」



春の両肩を掴んで太刀川は真っ直ぐに春を見つめた。その瞳はキラキラと期待に満ちている。

先ほどまでと違い、途端に子供のようになってしまった太刀川に思わず笑みが溢れた。


「春?」
「ふふ、太刀川さん可愛いです」
「は?可愛い?俺が?」
「はい!」
「いや意味分かんねぇぞ」
「チョコに目を輝かせるなんて可愛いですよ?」
「…別に、チョコが欲しいわけじゃねぇよ」
「え?」


真っ直ぐに春を見つめいた太刀川は、ふいっと顔をそらして頬をかいた。


「…バレンタインで春から貰えるってことが重要なんだっつの」
「私…から…?」
「当たり前だろ。…恋人として初めて貰えるチョコだぞ。重要に決まってんだろ」
「…太刀川さん…」


胸が温かくなった。初めてのバレンタインを大切にしていたのは春だけではなくて。どこか恥ずかしそうにする太刀川に微笑んだ。


「…太刀川さん、大好きです」


そう言って春が差し出した袋を、太刀川は頬を染めて受けとる。


「……ありがとな」
「はい!」
「ホワイトデー楽しみにしてろよ?春がすっげー喜ぶもの用意するからな」
「私は太刀川さんが傍にいてくれるだけで、すっげー嬉しいですよ?」


太刀川の言葉を真似て返す春に、太刀川は頬を緩めた。愛しい恋人をまた抱きしめる。


「そんなの俺も一緒だっての。けど、大切な恋人にもっともっと喜んでもらいたいって思うのは当然のことだろ?」
「……はい」


春はその言葉に頬を染めながら太刀川の胸にすり寄った。大切な、恋人に。


「…じゃあ、私はどうしたら太刀川さんはもっと喜んでくれますか…?」


赤い顔で見上げてくる春に、太刀川の心臓が跳ねた。やはり最初は余裕でいても、いつも調子を崩される。しかしそれがまた愛しい。


「……なら、今日は泊まってけ」
「……はい!」


ぱぁっと顔を輝かせて笑う春に、太刀川はその頬に手を当てて口づけを落とした。目を閉じ、頬を染めて受け入れる春に、胸いっぱいの愛しさを感じて。


「好きだ、春」


そう囁いて、何度も、何度も。



太刀川連載夢主(完)

→拍手主、公平くんに義理チョコ!

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