プレゼントの定番は…


「クリスマスプレゼント…どうしよう…」


狙撃訓練中にぼそりと呟かれた言葉に、驚いた夏目の弾があらぬ方向へと飛んでいく。


「ちょ、夏目どこ撃ってるの。危ない」
「まあ出穂の反応も分かるけどな」
「あ、はは…」


絵馬、当真、千佳といつものメンバーが集まり、一旦銃を置いた。そして夏目は掴みかかる勢いで春に迫る。


「クリスマスプレゼントまだ決まってないんすか!?1ヶ月も前からあんなに悩んでたのに!?」
「悩みすぎて結局決まってないんだよ…」
「もうクリスマス当日なのに何言ってんすか!」
「うぅ…出穂…それを言わないで…」
「夏目が言わなくてもクリスマスが今日って事実は変わらないよ」
「ユズル酷い…」
「春先輩、元気だして下さい。まだクリスマスは始まったばかりですし、時間はありますよ」
「千佳ちゃん…!ありがとう…!」
「ま、手っ取り早くプレゼントは…わ・た・し、が妥当じゃねーの?」
「…プレゼントは…私………!?!?だ、だだだだだだ妥当じゃありません!!」


想像だけで顔を真っ赤にした春は猛抗議する。ケラケラと笑う当真が真面目に考える気がないのは一目瞭然だ。


「でもアタシもそれ良いと思ったんすよね」
「い、いいい出穂まで、な、な、な何言ってるの…!」
「だってイケメン先輩の好きなものなんて分かんないし。チカ子は知ってんの?」
「烏丸先輩の……うーん…知らないかな」
「基本表情変わらない人だし、好きなものとか判断するのは難しいんじゃない」
「お前みたいに分かりやすかったらなー?」
「……当真さんうるさいよ」


にやりと笑った当真を絵馬がじとっと睨むも、まるで悪びれた様子は見せなかった。


「京介くんの、好きなもの…クリスマス…プレゼント……うぅぅぅぅ…どうしよう…」
「だから烏丸の好きなものなんてお前くらいなんだからプレゼントは私作戦しかないだろ?」
「なな、何ですかその恥ずかしい作戦…!ぜ、絶対嫌です!というかそんなこと………ぜぜぜぜ絶っっっっ対無理です!!」


顔を真っ赤にして涙目になる春。想像だけでこんな風になってしまうのだから実行など到底無理だろう。


「じゃあプレゼントどうするんすか?」
「…だから悩んでるんだよ…」
「いや悩んで狙撃訓練とかしてないでプレゼント買いに行ってきなよ」
「だから…!悩んで決まらないから気分転換してたの…!」
「気分転換は出来ましたか?」
「……」


何も答えずにどよんっと落ち込んでしまった春に千佳は慌ててフォローする。他が冷たいだけに、千佳の春を想う気持ちは暖かかった。春は千佳をぎゅーっと抱き締める。


「うぅ…っ、千佳ちゃんありがとう…!みんなと違って優しい…!」
「チカ子は春先輩を甘やかしすぎだって」
「でも、何かお手伝いが出来ればいいなって思って…」
「春先輩と烏丸先輩の問題なんだから、雨取さんはそこまで気にしなくていいと思うよ。春先輩の自業自得なんだし」
「う…今日のユズルはいつもより意地悪…」
「雨取さんと当真さんが甘やかす分、俺と夏目が厳しくしないといけないから」
「なんで保護者目線なの!?私の方が年上なのに…!」


照れて落ち込んで、むーっと頬を膨らませる。ころころと表情を変えていた春だが、訓練室の扉が開いたと共にぴしりと固まった。その反応だけでどういうことか分かってしまう。


「どうしてこんなに慣れないのかな」
「そりゃ春先輩だからなー」


春だからという一言で全て納得出来てしまう。これは最早病気なのではと小さく溜息をついた。
扉を開けた人物が近付いてきて、春はやっとのことで口を開いた。


「か、から…っ、京介、くん…っ、ど、どうしてここに…?」


現れたのは話題に出ていた烏丸だ。突然の登場に春の頭は情報を処理しきれていない。烏丸のこととなるとすぐにオーバーヒートしてしまうのは重症だ。


「ここにいるって聞いたから迎えに来た」
「む、迎えに…!?え、あ、でも、待ち合わせの、時間、まだまだ先で…」
「俺が早くお前に会いたかっただけだ」
「……っ!!」


ふわりと微笑んだ烏丸に、春の顔からは湯気が出そうなほどになっている。ただでさえ直視することもまともに会話することも出来ないのに、言葉と表情の破壊力にガチガチに固まってしまった。


「都合悪かったか?」
「!!い、いえ!いいえ!!全然!!」
「そうか。なら良かった」
「あ、で、でも、その、少し時間が欲しいと言いますか…その…」
「時間?」


俯いてしまった春の顔を覗き込むように見つめる。春が照れるのを分かってやっているのだから相変わらず意地が悪いと、絵馬は溜息をついた。


「…っ、く、あ、えと、…く、クリスマス、プレゼント…が、その、ずっと悩んでたんだけど、結局…決まらなくて…まだ、じゅ、準備…出来てなく、て…」


どんどん語尾が小さくなる春を穏やかに見つめる。そんな姿を見ているともっと虐めたくなる気持ちを抑えきれない。


「そうか。ならリボン買いに行くか」
「え、リボン…?」


やっと顔を上げた春に微笑み、優しく手を引いた。


「春を装飾出来るくらい長いやつ、買いにいかないとな」
「…………へ!?」


自分を装飾。つまりそれはそういうことで。先ほどの当真との会話が蘇り、ボンっと音が聞こえてきそうな勢いで顔を真っ赤に染める。ぱくぱくと開閉するだけの口からは何も言葉を発せられない。


「な、え、ま…っ!ちょ…!へ!?」
「生憎と、欲しいものは春以外にないんだ」
「〜〜〜っ!!」
「それじゃ俺たち行くんで、失礼します」
「っ!〜〜っ!…!!」


優しく、けれど抵抗出来ない力加減で春を連れて行った烏丸は、当真たちから見てもご機嫌な様子がよく分かるほどだった。そして2人の姿が見えなくなり、周りの銃を撃つ音だけが響く。


「……春先輩、最後全然言葉に出来てなかったね」
「何か必死に言おうとしてたのは分かるけど…」
「口だけ動いて何も音になってなかったからなー」
「ま、よろしくやってんだろ?恋人たちのクリスマスに外野が口出すことじゃねーって」
「プレゼントは私とか言い出したのリーゼント先輩じゃないすかー!」
「まさか本当に実行させようとする強者がいるとは思わなかったけどな」
「…あの人、本当に何考えてるのか分かんなくて怖いんだけど」
「でも、烏丸先輩は絶対に春先輩に酷いことはしないから大丈夫だよ」


それはそうだ、と納得する。そう言われてしまえば何も言うことは出来ず、春の心臓の無事だけを祈り、狙撃訓練へと戻るのだった。

後日。狙撃訓練へと現れた春に「あ、生きてたんだ」と呟いた絵馬の一言が、顔を赤く染めた春を泣かせたのだった。

end
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突発書き上げ!
展開早いしあまりイチャイチャはしてないけど狙撃手たちとの会話が書きたかったから満足!実際やったかやってないかはご想像にお任せ……します!
メリークリスマス!

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