伊丹家のナナセとカズ〔4〕
2022/01/07 20:02


伊丹家のナナセとカズ〔3〕の続きです。

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【伊丹家の食事会編】

「か、カズ...、学校、一緒にいこ..?」
「.....。」
「あッうしろっ、勝手に、ついてくね、っ」

「ッ、朝ごはん、カズも、みんなと...、」
「ナナセー?パン焼き上がってるよー!!」
「えとじゃあっ、来たいときはいつでも来て..っ」
「......。」

「今日土曜だし、どこか、出かけ、ッ」
「......。」
「って、い、いきたくない.....やんなぁ....」


父の言葉を胸に、積極的にカズの部屋へ訪れ、話しかけるナナセ。
しかしどんな誘いにも、うんともすんとも反応しないカズは無視を決め込みます。
当然、出かけの誘いにも興味を示さず、ナナセの言葉を最後まで聞くこともなく、スタスタと通り過ぎていくのでした。


カズのことで頭を悩ますナナセ。
そんな、ある日。
伊丹家の夕食にはいつにも増して豪勢な食事が並び、洋食中心のテーブルには、焼かれたばかりの大量のパンが輝かしく積まれています。

「今日なんでこんな洋食ばっかなん?
パンも、多すぎやろ...?
ななこんなに食われへんねんけど、」

「もう...何言ってるの?
今日は、サクラたちが“屋敷に入る”日でしょ?」

「あ。そう、やったっけ、」

すっかり忘れていたナナセ。
マイの一言で、大量のパンが豊富に並んでいるのも、双子のイクとマツが不機嫌そうな顔をしているのも、理由はすぐに判明しました。


屋敷の門をくぐり入ってくる白いリムジン。
そこから降りてくるサクラ、ワカ、アスカの三姉妹。

本日は、従姉妹の二卵性双生児・サクラとワカ(十二歳)、その妹のアスカ(十歳)の三人が、この伊丹家の屋敷に迎えられる日でした。


「ふふ久しぶりやな?サクラ、ワカ!」

「みんな久しぶりぃー!ナナセの関西弁は
相変わらずだねぇ、なんか安心するぅー」

「へへ、そう言ってくれるのサクラだけやで?」

「私も同意見、関西弁直さないほうがいいよ。
まぁ、マイはもう手遅れみたいだけどな。」

「ちょっとサクラ、ワカ?あんまりナナセを甘やかさないで。関西弁なんて田舎者が使う言葉じゃないっ」

「くく、マイお姉様は相変わらずだね」


マイとナナセに案内されリビングへ通されると、
大量のパンに舞い上がるサクラとワカ。
夕食が始まり、全員が着席すると、
ナナセが予想した通りバチバチとした空気感が漂ってきます。


「今日はお米が食べられなくて、残念だなぁ。
ね?マツ?」
「お米が一番!おこめっ!おこめっ!」

「パンのこの輝きといい、香ばしさといい、やっぱりパンは最高!ね?ワカ?」
「当然だよ。ふわふわとした食感はお米なんかじゃ味わえない。
サクラの言う通り、パンが一番だね。」

「「いや!お米が一番!」」

「「いや!パンが一番!」」


「「「「ハァぁぁあああ?!」」」」


和を志す伊丹家次男の娘・イクとマツに、
洋に心酔する伊丹家三男の娘・サクラとワカ。
この従姉妹四人の争いは、小さい頃から変わりません。

『お米派vsパン派』という争い以外にも、
『剣道・薙刀派vsフェンシング派』『花札派vsトランプ派』『緑茶派vs紅茶派』などなど、
全く合わない趣味趣向で、度々ケンカをしていたのでした。


「な、なんか、この光景、久々やな...、
マイは入らなくてええの...?」
「私は、朝ごはんが米派ってだけだから。
ナナセは?入らなくていいの?」
「ななも、朝がパン派ってだけやし....、
争うのも、面倒やし。」
「確かに。あの中に入っていくのはちょっとねぇ、」


流石にあの争いに飛び込んでいくのは嫌なのでしょう。
落ち着いた様子で夕食を食べ進めるマイとナナセの横で、四人の戦争はどんどん白熱していくのでした。



【アスカの怪我編】

一方、その頃。

「あんな食事会、絶対参加するかバーカ、」

お嬢様扱いされるのが嫌いなアスカ。

侍女の格好に変装した彼女は、そのすばしっこさで伊丹家の庭園に入り込み、
食事会をしている母屋からは最も遠い、離れ家の縁側に腰を下ろして小説を読んでいました。

と、そこへ。

「...カズ様、夕食は如何されますか?
本日は食事会ですし、母屋に行かれては?」

「......大丈夫です。
いつも通り、部屋にお願いします」

「....かしこまりました。」

声の聞こえる方に目を向ければ、着物を着た艶やかな黒髪の女性が三人の侍女を引き連れ、この離れ家に入って来ます。
もちろんその女性の正体は、数時間前に屋敷を抜け出していたカズでした。


「....?あれ、あの人、」

屋敷に到着する数分前の事を思い出すアスカ。
ぼーっと車窓から外を眺めていると、
とぼとぼと独りカズが歩いていく姿を見ていたのでした。

障子を開けたカズと、目が合い、

「......やっぱり。泣いてた人だ、」

「....?えっと...どちらさま、ですか...?」

吃驚して目を泳がせながら問うカズに対して、冷静沈着なアスカは小説を閉じます。

「アスカです。はじめまして。」

「は、はじめ、まして...。
新しい侍女さん...?な、わけないか...」

「くくっ、侍女“さん”って...、」

「....あっ、ゆび、」

侍女への“さん”付けが面白くて、口を隠しながら笑います。
しかし、小説を閉じる際に切れてしまったアスカの指に一瞬で気が付くカズ。
すぐに立ち上がると、引き出しから救急箱を取り出します。

「ケガ、してる....消毒しなきゃ、」

「あさいですし、別にほおっておいても」

「バイ菌入っちゃうよ...ゆび出してごらん?」

「...ッ」

大人しく人差し指を出して治療を受けるアスカ。
人との会話や誰かと居る時の沈黙した空気は、
彼女にとって最も苦手なものでしたが、
何故だかカズとでは、居心地が良くむしろ安心感のあるものでした。


「包帯、巻いたから、」

「くくっ、バンドエイドじゃないんだ、」

「...つぎからは、気をつけるんだよ...、」

「はいはーい」

「みんな、向こうにいると思うから、」


じゃあね、ちっちゃな侍女さん。


母屋の方向を教えた後、
微笑むこともなく、すーっと障子を閉めるカズ。


「....ッ!!
アスカ様!いつからそこに...?!」

「あ、見つかっちゃった、」

「サクラ様とワカ様が探しておられましたよっ
すぐにご案内しますね!」

「はぁ....、」

アスカを見た途端、
わたわたと分かりやすいほど慌てる侍女を見たアスカは、つまらなそうに立ち上がります。


ぐるぐる巻きにされた人差し指。

“この人の侍女になら、なってもいいかも...”

まだ一度も見たことのないカズの笑顔を想像しながら、
母屋へと足を向けるのでした。





とりあえず、ここで切ります。
サクラ・ワカ・アスカの登場。
アスカって、公式設定では『先輩の侍女』になってるんですが、なぜか苗字は《伊丹》なんですよね。
今回は、私が個人的にずっと引っかかってた部分を、勝手に妄想してみました。

また、イクとマツ、サクラとワカが、バチバチと睨み合うMVのワンシーンも、こういう経緯があったら面白いなぁという思いで書き起こしてみましたw

イクとマツは、実際お米もパンもどちらも好き...って感じですが、サクラとワカが来るとライバル心があるが故に
争っちゃう、とかそういう裏設定も忍ばせてます。

皆様はどうお考えでしょうか?




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