日記SS | ナノ

さよならと言うな



さよならと言うけれどその後




居酒屋は外の寒い空気から隔絶された様に暖かくて、酔いの回った客の声が煩く響いている。
そんな中1番バカ騒ぎしているのが今おれがいるこの席‥で、今日は仕事場の飲み会。同僚が結婚するってんでの祝いの席、ただそれに理由付けて飲みたいだけなんだろうとは思うが。
店員におれ達の横の席に案内されたその関係の無いグループも今やおれ達と一緒に混じりあって(最初こそ気の毒にと思っていたが)、きっと何がなんて分かってないんだろうが「おめでとう!」なんて言いながらビールをコップに注ぎ入れている。
酔ってしまえば普段分別のある大人もガキみたいに煩く声を上げて、高笑いを繰り返すその表情も柔らかい。
そんな中おれは壁に凭れてビールを呷っていた。
そのおれの右半身が変に緊張していて肩が痛く重く感じる。懐かしい雰囲気と匂いが右側からしてくる。
未だ忘れてはいない、忘れられてない感覚。


「───な、んであの時“分かった”なんて言った?」


触れるか触れないかの肩の距離。触れてはいない。
それでも馬鹿みたいに熱いのはお酒の所為だ。
おれが今言わんとしている事も全て酒。


「ゾロが“別れたい”んなら俺が“別れたくな”くても そう言うしかねぇだろ?」


身体がぶるりと震える。
笑ったこいつの顔が隣にある。背中越しに理解したあの時とは違う。今、は…見える。
笑っているこいつの表情はとても笑っているなんて代物なんかでは無くて、泣いているの方が表現的に正しいと思った。


「いくら好きでも俺にはゾロを束縛する術がねぇから」


きっとあの時見えなかったこいつの笑ってる顔もこんなのだったのかも知れない。
もし振り向いていれば、なんて言わねェ、が。全ては今更、だ。


「オレンジ、髪の奴と歩いてるの見た時困った顔してた。新しい相手だったんだろ?」

「ナミさん、は違う。困った顔したのは…俺が居なくても嗚呼テメェは元気なんだ、と思ったからだ。俺はとてもじゃねぇけど無理だったからなぁ。後悔しまくって未練たらったらだったんだぜ」


今は?聞きかけた言葉は形になる前に姿を消した。


「オレンジ、の 笑ってた」

「相談してたからな〜ナミさんに ゾロの事見て俺の好きな相手だって分かったらしいぜ」

「おれ、は…」


“寄りを戻そう”そう言ってくれるのを待ってた、なんて本当に今更おれなんかが言っていい言葉じゃねェ
相変わらず泣きそうなその笑顔がおれを見ていた。声は努めて明るく発せられている所為で変な組み合わせだ。
ぽつりぽつりと降り注ぐこいつの声が気持ち良い、懐かしさに震える。
煩いこの空間の中おれ達2人だけが異質だ。それでも馬鹿騒ぎする中に入る事もお酒を飲む事も出来ない。



「酔っ払いの戯言だと思って聞いててくれ」


硬味を増した声。
息を吸い込む小さな音が聞こえた。


「俺は今でもゾロが好きだ、これから先もそれは揺るぎない気持ちだって言える。だから──…一生好きで居る事は許して欲しい」


鼓膜が震える。
今度はおれが息を吸い込んだ。


「心配、は‥いらねぇ。ゾロには迷惑掛けねぇしその内居ない事にも大丈夫になれるだろうから」


慣れるから好きでいる事は許して欲しいと、俯くでも無くそれでいておれを見る訳でも無い。ただ穏やかにそう紡ぐ。
白光に烟るその男の姿を逃がしたくないとそう思った。
今一時だけプライドや体裁なんか捨てて、買って欲しい玩具を強請る子供の様に投げ出した手足をばた付かせ、ちぐはぐな言い訳を繰り返す人間になる事が出来たなら…今更何言ってるんだと都合良過ぎだと罵られてもいいんじゃないかと。


「許すも何もねェ、そうじゃねェと…おれだって(好き、なのに)、……別にお前が大丈夫とか大丈夫じゃないとかおれには関係ねェ。おれ、が…大丈夫じゃねェんだ……好き、なら可愛がれよ ……あと、…言っとくがおれは酔っちゃいねェ!」


もっと可愛がれ、小さく呟く。これが今言える精一杯なのかと自嘲する。
おれを見ていない眼が、おれを見た。
見開かれた寒色系のその蒼眼は暖かい色をしておれを写している。


「そんな風に言われたら益々手放せなくなる」

「だったら手放してんじゃねェ」

「…──折角、お前を自由にしてやろうと思ったのに…こんな事なら格好付けんじゃなかったぜ。俺だって大丈夫な訳無いんだ」


おれの自由を勝手に決めんじゃねェよ
嗚呼、とことんおれは我儘だ。
それでも横にある双眸が優しく細められるからおれは何時までもてめェに甘える。何度でも。


「 ……今此処でキスしたら不味いよな?」

「お、れは気にしね、ェ…(けど、も)」


久々に触れたあいつはあの頃と何も変わっては無い、熱かった。
不安や焦りも恐怖さえも感じる隙間さえない位に、逃げる隙を作らせんな。甘やかして可愛がれ。
おれを好きだと言いやがれ。



「ゾロ、愛してる」



(嗚呼、甘ェ…)


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再アプするのに後大半加筆修正しました。それでも変わらないぐだぐだ感orz、何コレ何なんだろうコレ。ゾロの乙女全開。おかしい、もっと格好良く纏まる筈だったのに…(=_=;)
取り敢えずナミさんの笑顔は“サンジ君を宜しくね”って意味でした。
(20091018)




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