あの夜の先に-after story-




「はー、お腹いっぱいー」

「満足したか?」

「うん、ありがとう。ごちそうさまでした」



お礼の気持ちを込めて軽く頭を下げれば頭上から「いいよ」といわれる。夜景も美味しい食事も堪能できて、満足どころじゃないくらい満たされていた。

少し暗い気持ちになりかけていたので、ありがたい。



「不思議とこういう時に一番に声かけてくれるのって涼介なんだよね」

「何がだ?」

「私が落ち込んでたり悩んでたりすると不思議とこうやって気分転換に連れだしてくれるのって昔から涼介だなーって」

「・・・・確かにそうかもな」




思い当たるふしがあったのか否定せずに微笑を浮かべる。

特にプロジェクトD時代には、ほんとに涼介に助けられた記憶しかない。

・・・からかわれた記憶も多いけど。




「いつもありがとね」

「啓介のことだから連絡も絶え絶えで寂しい思いしてるんじゃないかと思ってな」

「涼介にはお見通しだね。・・・邪魔したくないけど、やっぱさすがに寂しくなってくるよねぇ・・・会いたいな・・・」


「ならその気持ち、素直に今にも俺を目線で殺しそうなそいつに伝えることだな」


「え?」




私の背後を指さしたかと思うと急にぐっと腕を後ろに引っ張られ、後ろに倒れると思ったところで誰かに抱き止められた。

ふわっと、懐かしい香水に香りに包まれる。



「俺がいない間に兄貴と何してるのかは知りたいな」

「け・・・!」

「何って、ただ一緒にご飯に行っただけさ。な、名前」

「あ、うん。・・・じゃなくて!え、啓介!?え、なんでここに!?」

「あ?いちゃダメな理由があんのかよ」


「いや、そうじゃなくていつ日本に・・・・!?」

「続きは二人でゆっくり話せばいいさ。じゃあな名前、また行こうぜ」

「あ、ちょ、涼介!」




急展開に頭がついていかない中、涼介は踵を返しひらひらと手を振って去って行ってしまった。ぽかんとしていたら急に手首を掴まれ、ぐいっと引っ張られる。




「ちょっと、どこ行くの・・・!」

「うるせえ、いいから乗れ」




そういって私の手を引き彼、高橋啓介は自分の愛車であるFDの助手席のドアを開けた。
言われるがままに乗り込み、彼も運転席へと乗り込む。


久し振りにみる彼の横顔に現実なのか実感がわかず、思わずじっと見つめていた。



「ほんとに・・・啓介なの?え、夢?」

「はぁ?夢なわけねぇだろ。本物だ本物」

「え?なんで?帰ってくるなんて一言も言ってなかったじゃん」

「連絡するよりも早く会いたくて帰ってきたんだよ。そしたら兄貴を二人っきりで、おしゃれしてホテルから出てきやがって・・・・」


「えっと、それはすっごい誤解を生んでしまっているようなので弁明させてください。ここのホテルのレストランでご飯食べてただけで・・・」


「疑ってるわけじゃねぇけど・・・さすがにイラついた」

「う・・・ごめん・・・」





眉間に皺を寄せこちらを向くことなく言い放つ啓介にうっと言葉を詰めた。

なんか過去にもこういったことあった気がすると思ったが、今はそれどころじゃない。

この誤解を払拭しないと、せっかく彼と過ごせる時間が気まずいままで終わってしまう。




「啓介・・・」

「なんだ」


「・・・誤解を招くことしてしまってごめんなさい・・・」

「・・・怒ってねぇよ」

「・・・嘘だ」

「嘘じゃねぇ」

「顔が怒ってる」

「通常モードだ」


「・・・・・ごめんなさい・・・」




そう私が謝ったところで啓介がはぁ、と大きなため息をついた。するとくるっとこちらを向いたかと思えば左手でぎゅっと顔を下から掴まれる。



「むぐ」

「いいから謝るな。食うぞ」

「・・・・!!//」

「可愛い顔してんじゃねぇぞ、ほんとにここで食うぞ」


「ん――!!」

「・・・嘘だよ、今はしない」




なんて言葉を軽々と吐くんだこいつは、と顔が真っ赤になってるのが自分でもわかる。顔を掴んでいた顔が離れそのまま恥ずかしくて俯いてしまった。



「今からは俺との時間だ。行きたいところとかあるか?」

「行きたいところ・・・」

「なければ俺の行きたいところに連れて行くが、いいか?」

「うん、いいよ。啓介となら、どこにでも行きたい」


「・・・・帰ったら覚えてろよ」

「え、なんて?」


「いや。ほら、ベルトしろ。ちょっと走るから眠たければ寝ていいぞ」

「どこまで行くの?」


「・・・内緒」




それだけいうと独特のロータリー音をながらしながら、ゆっくりとFDが動き始めた。一体どこに連れて行かれるのだろうと疑問に思うが、それ以上彼が答えてくれるわけもなく、それ以上追及しないことにする。

ただ彼の横にいられること、彼の運転するFDの横に乗れることがたまらなく嬉しかった。

チラリと彼の方を見れば端正な横顔が街灯に照らされ、いつもと違う雰囲気にドキッとする。




「(あぁ・・・カッコいいなぁ・・・)」




そう心の中で思い、シフトノブを掴む彼の手に自分の手を重ねた。




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