主菅
いつも後ろから犯される。手を後ろ手に縛られ、腰を高く上げさせられて――中々に屈辱的な体勢を、菅原は三宮に強いられていた。
「ん……ンッ」
大きな熱の塊が引き抜かれ、また深く穿たれるたびに菅原は苦悶だけではない声を漏らす。唇を噛んで押し込めた声は、しかし三宮の大きなベッドがきしむ音に紛れてはくれなかった。
以前ならこの期に及んでも抵抗を諦めなかった。だがここの所、抵抗しようにもままならない。
人に犯されるなど冗談ではないと思っているにも関わらず、菅原の体は、三宮から与えられる屈辱を甘い疼きに置き換えてしまうようになっていた。
「あ、……っふ、ぅ……っ」
無遠慮に、まるで子供が玩具を乱暴に扱う体で抉られる。出そうになったとろけた嬌声を、菅原はとっさにシーツに噛み付くことで押さえ込んだ。
「は……っ。ずいぶん……浅ましい体になったじゃねえか、菅原」
「ん、ぐ……っ」
「最初は止めろと言うばかりだったのに、今じゃ、モノ扱いしてやりゃあ嬉しそうに締め付けてくる」
背中に覆い被さり、耳元ではっきり言ってくる三宮の声など聞きたくなかった。耳を塞ごうにも手は縛られていて動かせない。
拒絶する力さえ奪われて、今の菅原はただ三宮の残酷な言葉を、犯されながら聞かされるしかできない無力な獲物だった。
それでも残された矜持だけは守りたくて、菅原は熱に潤んだ目で三宮を睨みつけた。当の三宮は益々面白そうに、底意地の悪い顔を歪めるだけだったけれど。
「俺の言った通りだろう、菅原」
「うぁ、っ……ぁ……なに、が……っ」
「お前は本当は、……とんでもないマゾヒストだって」
「……っな、わけ……っくぅ……っ!」
そんなわけがない、という否定は、三宮の律動によってもたらされた甘い波に打ち消された。
自分がマゾヒストなどであるはずがない。菅原は喘ぎながら、心中で必死に三宮を否定した。
たとえ体が三宮の『調教』を悦びはじめているとしても――マゾのセフレと遊んだところで、体が満足できずに疼いてしまっても。確かに菅原はサディストとして色事に興奮を覚えるのだ。
だから、決してマゾヒストなどであるはずがない。
菅原の必死の否定を見透かしたのか、三宮は鼻で笑った。
「ま……、お前はマゾって言っても、サドマゾだが」
「……っ」
サドマゾヒズム。同一人物にサディズムとマゾヒズムが共存している性癖だ。
菅原はもちろんその存在を知っていたが、あえて可能性を見ない振りで誤魔化していた。自分にマゾヒズムが備わっているなんて思いたくも信じたくもなかったからだ。
三宮は――非道い。頑なな自己欺瞞さえ見抜いて、自らの内にあるものを無理やり理解させ自覚させ、そして落とそうとする。
菅原だとて似たようなものだが、サディストを無理やりマゾヒストに作り替えようとしたことはない。
「っ……この……外道……っ」
「同類が何言ってんだ」
「うあ、ぁっ……!」
口をついた悪態も、すぐに嬌声にかき消される。男に尻を蹂躙される悔しさは、もうほとんど快感に取って代わってしまっていた。
それでも――。思い、菅原は唇を噛みしめ目を閉じる。
それでも、三宮によって自分に潜んでいた性癖が目覚めさせられているのだとは、絶対に認めたくなかった。