あーんぱっくん
※フォロワーさんに主そらで「あーん」が見たいといわれて書いた140字の手直し。
「ほら」
橘から言付かったのでコーヒーを届けに三宮の書斎へ行くと、三宮は珍しくゼリーを食べていた。コーヒーをいれてくるよう山野井に橘を通して命じたのに、コーヒーゼリーをだ。
しかも丸山辺りに命じればいくらでもプロの腕を披露してもらえるだろうに、わざわざそこらのスーパーで売っているようなプラスチックの容器に入った市販品だった。
付属のクリームを垂らしたコーヒーゼリーをスプーンですくい、三宮はそれを山野井の眼前に差し出した。山野井は机にコーヒーを置いて首を傾ける。
「え?」
「早く食え。零れちまうだろ」
「え、あっ……」
零したらお仕置き、などと言われることが目に見えていたので、山野井は慌てて口元に運ばれたコーヒーゼリーをぱくりと食む。
「うまいか」
「……うん」
抜き取られたスプーンで三宮がゼリーを食べる。今の今までその銀色は自分の口が触れていたのだと思うと、自然山野井の鼓動は存在を増して、じわじわと頬が赤くなった。
(……間接、ちゅう……)
自分から三宮にやってやるのは全く気にならないのに、三宮からされると途端に意識してしまう。
指先で唇に触れていると、ふいに三宮と目が合った。彼は面白そうにニヤニヤしている。
「どうした、山野井?」
「べ……べつに! っていうかそのコーヒーゼリー、どうしたの? 今日丸山さん来てるでしょ。さっき会ったよ」
「五十嵐が買ってきた」
「へえ……」
「山野井」
「ん?」
今度はコーヒーゼリーとスプーンを手渡されて首を傾げる。
「食わせろ」
言って三宮は口を開けた。まるで餌を待つ雛鳥だ。三宮の外見には到底そぐわない表現だけれど。
山野井は、大人しく待っている三宮に微笑ましい気持ちでくすりと笑ってから、コーヒーゼリーにスプーンを差し込んだ。