主菅が書きたかっただけ

 内奥を蹂躙していた熱が、ずるりと引き抜かれる。直後、高く上げさせられた腰に迸りが散らされた。
 菅原は三宮に頭を横向きに押さえつけられたまま、深く息をついた。

「……物好き」
「ふん?」

 菅原がぼそりと零した悪態を、三宮はきちんと拾ったらしい。
 三宮の片手が菅原の腰を撫でる。あまやかではなく、いたわりでもなく、自ら吐き出したものを塗り込むような手つきだった。

「いい加減、手ぇ離してくれませんかね、ご主人様」

 菅原は呆れ混じりの声で言う。だが、頭をベッドに押し付ける三宮の手が引かれることはなかった。
 三宮はたまに菅原にも手を出すけれど、常にこうして腰を上げさせて背後から貫く。似たような気質の菅原に、誰が上位者かを理解させるように。
 別にこんな体位で致さなくても、菅原は三宮が上位者であることを認めている。罠にはめられて三宮に降ったようなものだ、自分を負かした相手を上位者と認めることは、菅原にはほとんど当然のことだった。

「なんだ、つれないな。もう少し俺を楽しませたっていいだろう」
「アンタ、ほんとに楽しんでんですか」

 菅原は上体を捻って三宮を見上げる。愚問だな、というような三宮の目と視線が交わった。

「楽しいから、同じような体格のお前も抱いてんだろ?」
「物好き」
「ふん、どうとでも言え、ご同類」

 三宮は馬鹿にするような笑みを浮かべる。菅原は眉を顰めた。
 確かに菅原も、似たような体格の男を制圧することは楽しいと思う。男として強い人間を支配できる、ということは、彼ら以上に強い人間だということだ。
 強者であることは心地良い。ある程度他者を好きなようにできるし、弱者のように媚びへつらって生きていかなくていいから。

「お前の身体は男慣れしてるからか、充分俺を楽しませてくれるぜ?」
「っ……おい」

 三宮の指が菅原の後孔をなぞる。三宮の熱を受け入れていたそこはまだ柔らかく、潤滑剤も乾ききっていない。三宮が少し力を加えただけで、指はたやすく菅原に入り込んだ。
 内部で蠢く異物によって、微かな快感がもたらされる。菅原は目を閉じて、軽く唇を噛んだ。三宮の意地悪い笑声が、菅原の鼓膜を震わせる。

「は……。お前はタチぶってるが、身体のほうはネコでいたいみたいだな?」
「っ……るせえ……」
「だいたい、こんな身体で、突っ込んで満足できるのか? 少し動かしてやっただけで締め付けてくるのに」

 三宮は更に深く指を埋め込む。通常他者に触られることのない壁を擦られて、菅原は短く声を上げた。

「う……っぁ」
「ほらな。自分で分かるだろう、菅原。お前のここが、俺の指を離すまいとしている」
「うるさ、い……っ! も、いい加減にしろよ……っ」

 菅原には、三宮の揶揄を否定できない。けれどそれを認めるのは情けなく思えて、菅原は口だけでも三宮に抗う。
 三宮の拘束を撥ね除けることは、菅原にとって無理なことではない。手足の自由を奪われてはいないので、その気になれば三宮を突き放して出て行くこともできるのだ。無駄に鍛えているわけではないのだから。
 なのに反抗が乱暴な口だけなのは、機嫌を損ねれば何をされるか分からないからだ。屋敷で終わる性的な折檻で済めばいいが、本業のほうにちょっかいを出されてはたまらない。
 
「あ、……っく、ぅ……」

 三宮の指が、菅原の内壁を強く擦った。すでに柔らかい場所をさらに押し広げるように動かされると、どうしようもない甘い痺れがじわりと菅原の腰を伝う。
 菅原はちらと三宮を窺った。三宮の実に楽しそうな顔からは、二回目に突入する気でいるのが見て取れる。
 菅原は半ば慌てて三宮に制止をかけた。

「ちょ、……っと、待て……っ! 俺、このあと、本業がっ……」
「だから?」

 そんなことは知ったことじゃない、とばかりに三宮は笑っている。

「アンタな……っく、」
「本業があるから、何だ?」
「だから……っ! アンタの遊びに、付き合ってる時間は、ねえんだよっ……!」

 起き上がれなくなっても困る、と三宮を睨みつける。三宮は人を見下した顔のままで、少し考える素振りをした。

「さて……どうしようかな」
「あのな……!」

 言い募ろうとした菅原を、寝室のドアをノックする音が阻んだ。三宮がドアを振り向く。

「――三宮、いるか?」
「何、朝比奈さん」

 菅原は内心で、げ、と顔を顰める。
 扉一枚隔てた向こうにいる朝比奈は、現職の警察官だ。菅原は職業柄、警察官を疎んじている。
 基本的に朝比奈と菅原は生活パターンが異なっている。ゆえに出勤が重なることなど滅多にないと菅原は思っていたのだが、今日は運悪く重なってしまったようだ。

「お前、今夜は会食があるとか言っていなかったか。橘に呼んでくるよう言われたんだが」
「ああ……」

 三宮がつまらなさそうに眉を顰めた。

「残念、時間切れだ」
「っ……」

 三宮は舌打ちをひとつしたあと、指を無遠慮に引き抜いた。菅原の頭からも手を離す。
 解放された菅原は、すぐに三宮に身体を向けて座る。脱がされた服がベッド脇に落ちていたけれど、シャワーを浴びなければ服を着られそうにない。

「朝比奈さん。シャワー浴びたらすぐに行くって伝えといてよ」
「……了解した」

 頷いた朝比奈の気配が遠ざかる。三宮はにやりと笑って菅原に向き直った。

「じゃあ、背中を流してもらおうか」
「はあ?」
「お前もシャワー浴びなきゃ着替えられないだろ。使わせてやるから、俺の身体を洗え」

 でなければ湯を使わせてもらえないのだろう。酷い絵面だろうな、と思いながらも、菅原は仕方なしに従うことにした。

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