東雲×菅原(ねこねこ)

 水圧がのしかかっているかのように、身体が重い。
 菅原は短く息を吐いて、三宮邸廊下の壁にぐったりと寄りかかった。荒い息には明らかに欲情の気配が混ざっていて、嫌気のさした菅原は忌々しく舌打ちをする。

「くそ……」

 ――なにがSexual-CatVirusだ。
 自分の頭頂部に現れたふかふかの猫耳と、尾てい骨あたりから生えた長毛種の尻尾にうんざりとする。
 否応なしに発情して他人の熱を求める身体を、菅原は持て余していた。
 他の感染者は三宮か、あるいは気の向くままに誰かと交わっているようだけれど、それは冗談ではない。菅原は男に抱かれるなんて、まっぴらごめんだった。
 ――ただ、一人だけ仕方なくそれを許す相手はいる。彼はいまどこにいるだろうか。

「――菅原さん?」

 背後から声をかけられて、菅原の猫耳がぴんと立った。いままさに居所を考えていた男の声だ。
 菅原は気だるい身体に鞭打って、背後を振り向いた。声をかけてきた男は、目を丸くしている。

「……東雲さん」
「大丈夫っすか?」

 さも心配そうに近寄ってきた東雲も感染者だったが、既に猫の要素は消えている。
 菅原の猫耳と尻尾をしげしげ眺めている東雲を、菅原はぎっと睨みつけた。

「絶対ェ、あんたからうつされた……」

 唸るように言うと、東雲は苦笑いして頭をかいた。
 菅原は数日前、発症した東雲に精根枯れ果てるまで犯された。行為自体は同意のうえなのだが、翌日は丸一日ベッドから動けなかったほどだ。

「はは……すんません。でも菅原さん、それ似合いますね」
「反省してねえだろテメエ。――似合うわけないでしょう」

 今度は呆れのため息をついて、菅原は東雲を追い払うように手を振った。
 どこかの部屋にこもって、どうしても耐えられなければ、自分でなんとかすればいい。東雲の熱を頼る必要などない。身体の負担が大きいから、菅原は東雲相手でも受け身のセックスは好きでなかった。
 そういえばいつだったか、そのうち逆の立場もいいと東雲は言っていたけれど、いまのところ約束が果たされる気配はない。

「……大丈夫なんすか? 結構、ツラいっすよ、それ」
「ッ、にゃ……――?!」

 無遠慮に猫耳を触られて出た声に、菅原は耳を疑った。慌てて口を押さえるが、東雲が猫耳をいじり続けるせいでまるで意味がない。

「ッン、ちょ、東雲さ……っ、さわんな……!」
「触り心地いいっすね、菅原さんの猫耳」
「てめ、ふざけんにゃっ……! は、っぁ……うぁっ!」

 撫でるだけならまだしも、東雲はぎゅっと猫耳を握り込んできた。途端爪先まで走り抜ける快感に、菅原の身体から力が抜けていく。
 しなだれかかる菅原の身体を、東雲はやんわり抱きとめた。

「ほら」
「ほら、じゃ、ねえっ……このクソジジイ!」
「じっ……、そんなに歳変わらないじゃないっすか」
「俺はまだ二十代だ黙れ三十路。――っひ」

 むきになって言い返すと、尻尾の根元から先端まで握ったまま撫でられる。ぞわぞわと性感が東雲の手を追いかけて、菅原は短く悲鳴を上げた。

「俺は自分でおっさんって言いますけどね。まだそこそこ若いんすよ、菅原さん」
「っん、ん……! ッくそ、それ、やめっ……くっ、ん……」
「ジジイとか言われるほど枯れてねーって、証明させてもらいますから」

 耳元で声を低めてされた宣言に、菅原は身体が火照っているにも関わらず、血の気が引いていくのがわかった。
 ――口は災いの元、とはよく言ったものである。

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