山野井くんを大事にしたい菅原の話
自らの下で快楽に身を捩る白い肢体はれっきとした男の身体だ。けれど、菅原から見れば山野井の身体は華奢な部類に入った。
「あ、うンっ……あ、あ……菅原、さんっ……」
突き上げるたびに切なく声を零す山野井の目尻に、菅原は唇を落とす。山野井の腕が、甘えるように菅原の首に巻き付いた。山野井は細身だけれど、職業柄か腕には意外と筋肉がついている。
「……っ山野井……」
「菅原さっ……あ、んんっ……」
「気持ちいいか?」
ひそと耳朶に囁けば、それさえ強い快感に変わるのか、山野井はあまやかに喘ぐ。
「い……んっ、きもち、い……っ。菅原さん、は……っ?」
涙で潤む眸で山野井は見上げてきて、おそらく意図的に菅原を締めつけた。
「――俺も。気持ちいい」
「んっ……うれ、し……」
幸せそうに微笑んだ山野井に、菅原の眉が寄った。
「そういうこと、あまり言うな」
「あっ、ん……ど、して……っ」
「大事にしたいから」
他者との間に壁を作りがちな菅原に、山野井は心地良い距離感で付き合ってくれた。必要以上に踏み込んでこないくせ、その時の気分に合ったコーヒーを出してくる。山野井はちょっとした仕草や表情から菅原を読み取ってしまう。
何も言わないでも気分を察知して、それを適切に慰めてくれる山野井のコーヒーを菅原は気に入っていた。
気に入っていたのはコーヒーだけでなく、山野井そのものでもあるというのを菅原に気付かせたのは、他ならぬ山野井自身だった。
三宮のいる部屋から色事の残り香を纏って出てきた山野井に、菅原は胃の辺りでとても不愉快なものがぐらぐらと煮立つ感覚を覚えた。三宮が執事に気紛れに手を出すのはいまに始まったことではないし、菅原も稀に出を出されるのに。山野井を追って何をされていたのか詰問しても、山野井は気まずそうにするだけで答えなかった。
山野井にまとわりつく三宮の香りが許せなくて強引に抱いたのは数ヶ月前だ。山野井をないがしろにして泣かせたことをひどく後悔して、しばらく山野井に近寄らなかったけれど、山野井のほうから近づいてきた。
以前と変わらずコーヒーを淹れてくれて、安堵と後悔がないまぜになって、それで菅原は山野井を好いている自分に気付いたのだった。
切欠が切欠なので、菅原は山野井を大事にしたい。セックスだって、本当はもっと深く愛したいけれど、山野井に負担がかかるから一度で我慢している。
それを山野井がああやって嬉しいことを言って煽るものだから、菅原の忍耐力というのは本人の自覚する以上に鍛えられていた。
少しだけ不満げな色を見せた山野井に顔を引き寄せられた。求められるままにキスをして、息が切れるまで絡み合う。
「は、あっ……菅原さん……っ」
「ん……?」
山野井は菅原の頭を抱きかかえて縋り付く。
耳のすぐ側で発された言葉に、菅原は自分の聴覚を疑って動きを止めた。
「もっと、して……」
「――……な、」
菅原は驚いて顔を上げようとしたが、山野井が離してくれなかった。
「もっといっぱい、菅原さん、ちょうだい」
「ば、か……お前、人がせっかく」
「いいから、ちょうだい」
甘えるような声でねだられて、菅原の理性は焼き切れてしまいそうだった。
それだけはだめだ、と菅原は拳に力を込める。暴走する欲望のまま抱いてしまうなんてことは、してはいけない。
「俺、そんなにヤワじゃない……から……。大切にしてくれてるのはわかってるけど、その俺がもっと欲しいんだよ――亮次さんのこと」
「ッ……馬鹿が」
菅原は思わず唸る。山野井が腕を緩めるや、菅原は食らいつくようにして山野井と唇を重ねた。
愛情が暴れるままに山野井の口内を貪れば、応えるようにして山野井の内壁が菅原の熱に絡み付いた。
「……あとで文句言うなよ、そら」
「っ……ん、んっ……言わな、からっ……。もっと……亮、次さ、んっ……」
攻め立てれば、山野井の甘い嬌声が引っ切り無しにあがる。それに煽られて、菅原はさらに深く山野井を味わった。