▽審神者♂とまんばちゃんの甘味巡り

審神者と名乗る青年に初めて連れられた娯楽施設は甘味所だった。青年の霊力を使い降りてきた俺も青年と同じように甘味が好きだと考えての選択だったらしい。人の身を得てたった数日しか経っておらず、また政府の手違いでまともな食事すらままならなかったため、正直この時は甘味より食事を食べろと言いたくなった。

俺らの本体は刀であるからして、本来食事の必要はない。しかしこの青年は俺を人間と同様に扱うため、切羽詰まった資材と資金のやりくりが厳しくなっていく。数日は俺以外を鍛刀せず、野山に生える野草や、貯蓄してあった食料を細々と食いつないできた。その甲斐あってか、共倒れになる前に政府からの支給が開始されるまで生き延びることができた。お詫びの代わりに多量の資材と食材、後は口封じのためだろう当分困らなさそうな金額の金も渡されあのジリ貧生活は幕を閉じた。

こんのすけという狐に従い、鍛刀を行い仲間を増やす。同時期に審神者になった奴らはトラブルもなく進軍できているのでこちらもいち早く戦力を確保しなければいけなかった。

できた刀は厚藤四郎、乱藤四郎、五虎退、小夜左文字、鯰藤四郎、大和守安定、加州清光、大倶利伽羅、山伏国広、鶴丸国永、石切丸だった。資材は他の審神者よりも多く与えられているため、できるだけ戦力を確保できたのは助かる。序盤で大太刀がいるのといないのではかなり差が出るからな。

いきなり大人数を鍛刀したためか主は霊力不足でフラついていたが、それでも俺の兄弟が来てくれて嬉しいと笑っていた。この主はひどく優しい。トラブルが直るまで進軍できず、落ちこぼれだと指を指されて辛いはずなのに。


だから俺はこの優しい主を守ろうと決めた。多分これは後に兄弟が知る恋慕の気持ちだったのだろうけど、この時は気づいていなかった。

進軍も落ち着いてきた時、主は俺を呼び出し甘味所に連れてきた。そして、今に至る訳だが…。


「まんばちゃん、なに食べる?お金も余裕でてきたし、ちょっとだけ贅沢しちゃおうぜ」
「…なんで、俺なんだ。あんたの側にいたい奴らはたくさんいるだろう?」
「だって、俺が今ここにいて審神者できてるのまんばちゃんのお陰だから。俺一人だけだとこんのすけと一緒に死んでたし。だから、お礼も兼ねてるんだよ」

守りたかったから、勝手にやっただけだ…とは笑顔の主をみて言えなかった。俺と話しながら品の絵をみて幸せそうに笑う主は本当に柔らかい雰囲気だと思う。こんな優しい主を本丸の奴らはどれだけ知っているんだろう。あわよくばこの笑顔を独り占めしていたいけれど、そうはいかないから。


「俺は、顕現されてからあんたの作るものしか食べたことがない。だからどれがいいと、言われても選べない」
「えっ、ぁ…そっか!だったら味を教えるから美味しそうって思ったやつ注文する?でも、食べきれないか…」
「あんたの好みのものを数点頼め。見た目や情報だけで選ぶより、そちらの方が断然いいだろう」

そう言うと主はふにゃりと笑って、団子やらあんみつなどの和菓子や聞いたこともない南蛮の菓子を数点注文した。楽しみです、という雰囲気を醸し出している彼は本当に甘味が好きなんだろうと思う。


注文してから数分すると、どんどんと菓子が運ばれてくる。見慣れた和菓子とは違い、南蛮の菓子はまるで宝石のように輝いてみえた。それをキラキラした目で見る主と、そんな主を見て思わず笑う俺。

いただきます、と言って食べ始める主に続いて俺も団子を手に取る。注文を受けてから焼き上げるみたらし団子はほどよい甘みともっちり感があるが、女子どもでも食べやすいように一口の大きさになっているためすぐに食べ終える。主の言うように甘党らしい俺は団子、餅、あんみつなど和菓子を中心に食べ進めていく。主は本丸では滅多に食べることのない洋菓子をゆっくりと味わいながら幸せそうに食べている。


「んーっ、やっぱここのはさいこーだな!まんばちゃん、これ美味いよー」
「もらう。こちらも美味い、可能なら本丸の連中にも土産にしてやればいいかもな」
「そうだな!和菓子は食べる機会も多いし、今回は日持ちしやすいクッキーとかにしようかなぁ。まんばちゃんどれが好きとかあった?」
「…酒に漬けた果実が入ったものと、木の実が入っているもの…が美味かった。あと、日持ちはしないと思うがしゅーくりーむとやらは短刀たちが好きだと思う」
「ふふっ、短刀たち頑張ってくれてるもんなぁ。でも贔屓はできないからプチシュー買ってみんなで分けようか。それならみんな文句は言わないだろ」
「これは、贔屓じゃないのか…」

本丸で待機する彼らには甘味を選ぶ権利も見目麗しい菓子を見る権利もなく、土産のみを与えられる。それに比べ俺は彼らの土産になるものより高価で美しい甘味を主と共に食べられる機会を与えられた。贔屓されている、というなら俺はその一番だろう。

「まんばちゃんは、隊長で近侍で初期刀でいっぱい迷惑かけてるし。それに、まんばちゃんはあんまり甘えてこないでしょ、だから俺から甘やかしてやりたくって。そりゃぁくりちゃんも、小夜ちゃんも不器用で甘えるの苦手だけどさ甘えさせる人がいるでしょ。でもまんばちゃんはそんな人がいなくて、痛いとか辛いとか苦しいとか…なぁんにも言わなくて抱えこんじゃう。俺は単純バカだから甘いもん食べれば笑えるから、そんなバカの霊力使って鍛刀されたまんばちゃんも少しくらい単純な息抜きできたらなぁって思うわけです!」

にかっと、笑う主。優しい優しい、主。どうか俺のこの汚い欲望なんて知らずに笑っていてくれ。あんたが笑ってくれるのなら、俺は何だってできるから。


「あんたの、命令だからな」
「命令じゃなくてお願い!ま、今はそんな深いこと気にせずたくさん美味しいもの食べて頑張ろ!ここ以外にもいーっぱいまんばちゃんと行きたいとこあるんだから」


主、あんたにまだ伝えられていないことがあるんだ。でもそれはまだ伝えられない。あんたが俺をそばに置いて恥ずかしくないくらい自分に自信を持てたら絶対に伝えるから。


ーーあの時、迷わず俺を選んでくれてありがとう。あんたの初期刀になれてよかった、と。


「へへっ、まんばちゃん大好き!」
「…あんたなぁ。…まぁ俺も嫌いじゃない」


幸せを形にしたらきっとあんたになるんだ。だからそれは俺が絶対に守るから。


あんたはそこで笑っていろ。


***
「兄弟、とやかく言うつもりはないけど主さんにベタベタしすぎじゃない?あの人は優しいからなにも言わないけど迷惑をかけちゃダメだからね」
「…嫉妬か、兄弟。あいつは仕事に根を詰めすぎる。時折“近侍で初期刀”で、あいつのことをよく分かっている俺が、休ませてやるんだ」
「そーやって近侍とか初期刀とかの立場利用するのどうかと思うよ?主さんも常にそばに他人がいればいい迷惑じゃないのかな。あっ、そっかぁ。あの人優しいから嫌でも文句とか言えないもんねー」
「あいつが疲れる原因を作るのは、兄弟だろう。毎回毎回冷たい言葉を言って、仕事を急かして。主に悪影響だから、しばらく執務室に寄らないでもらえるか」

「……闇討ち、暗殺、お手の物!」
「切るっ!」


主関連の話題ではめちゃくちゃ仲が悪い二人。審神者は練度カンストしてもまんばちゃんを近侍から外さないし、暇ができたら二人でお茶をする。堀川氏それが羨ましくてしゃーない。主さんが好きなのは僕だよ、少しは遠慮してよ兄弟!の堀川くんと、まだ主を独占していたいまんばちゃんの戦いはまだまだ続く!




2016/01/28 21:46(0)


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