▽主に無自覚一目惚れした堀川くんと堀川くん溺愛審神者♂

人の身を得て初めて見たものは同じ刀派の刀である山姥切国広と、僕を呼び出したであろう審神者の青年だった。僕を顕現させたその青年は山姥切国広に寄り添ってとても美しい笑みで、兄弟の頭を撫でていた。それを見た途端、左胸がじくりと傷んだ。刀として打たれた年数は目の前の青年よりもずっと長いのだけれど、人として生まれたのは今この瞬間。2人を見るたびに起こるじわりとした左胸の痛みとか、どうしようもなく泣きたくなる気持ちとか…まだ僕には理解できないんだ。


そんなことを僕より先に来ていた相棒や、かつての同僚の刀たちに聞いてみるとなんとまぁ…微妙な顔をされた。

「なんで、そんな顔するの?僕変なこと言ったかな?」
「え、いや…ねぇ」
「堀川って鈍感だったっけ?歳さん、結構女性関係激しかったと思うんだけど…」
「……ん、どういうことだ?」


和泉守もかよ!という清光くんと安定くんの叫びを聞きながらさらに訳が分からなくなる。なんで主さんのことを聞いたら元主、歳さんの話になるのか理解できない。僕が言ってるのは主さんを見るたびに左胸が痛んで、それは主さんが兄弟や他の刀と二人っきりで笑っている時にもっと痛むって言っただけだよ。さらに詳しくいうなら、主さんと二人でいる時は戦場にいる時みたいに気分が高揚するってだけなんだけど。


「堀川的にその感情、どんなものか分かってるの?僕たちだって人の身になってそれほど時間が経ってるわけじゃないから、人の感情全てを知ってるわけじゃないんだ」
「そーそー。でも、俺らだって堀川に世話になってるから少しでも役に立ちたいんだよ!もっと、堀川の気持ち聞かせてよ。話すだけでもスッキリすることあるでしょ?」

なんとなく楽しそうに話す二人はこの本丸の古参に入るからなのか、僕よりうんと人らしい。ねぇねぇ、と楽しそうに聞いてくるもんだから僕も胸の中のモヤモヤした気持ちを思わず吐露してしまう。清光くんの言った通り、胸の中の痛みが話すことで溶けていくような気がした。

でも、話してる途中できゃーと女の子みたいに叫んで頬を赤く染めたり、甘酸っぱい!と顔を覆う行動は全く理解できなかったけど。


「ふぅ、二人ともありがとう。話したおかげでだいぶスッキリしたよ」
「どーいたしまして。またいつでも話に来てよ。話くらいなら僕にでも聞けるからさ」


話し終わると安定くんは笑顔で答えてくれたけど、清光くんは俯いてなにやら考え込んでいる。さっきまでキャーキャー言ってたのになんでだろう?

「清光くん、どうかした?」
「…、ない」
「え、なんて?」
「清光、余計なことしないでよね。こんなの、自分で気がつかなきゃ意味ないじゃん」
「だって!こんな天然無自覚一目惚れで
主にベタ惚れのくせに主にめっちゃ冷たいとか…!なに、聞いてるこっちが恥ずかしくなるほど主に執着して、自分が隣にいたいって思ってるのになんで自覚しないわけ?あーもう、焦れったいなぁ!」


立ち上がって清光くんは叫ぶ。その発言を聞いて安定くんはあー言っちゃった、とため息を吐いてるけど…僕はそんなことより清光くんの発言に意識を奪われていた。

天然無自覚一目惚れ…意味はまぁ分かるけどなんで僕にそれを言うんだろう。主さんに執着?そんなものした覚えはないんだけど。うちの清光くんは主さんから借りた少女漫画とやらのせいで少々恋愛話に持って行きやすいのかもしれない。


きょとん、とする僕に対して清光くんはまた叫ぶ。いや、だって僕は主さんを見るとイライラして、誰かといると切り刻んでしまいたくなるんだよ?そんな汚い、醜い感情が恋なわけないでしょ。恋はもっと綺麗で、優しくて…幸せなものなんだから、僕のこれは恋じゃない。


「それは堀川が考えてることでしょ!恋なんてねぇ、漫画みたいにキラキラしてて泣いて怒って…でも最後には幸せになれるそれだけじゃないんだよ。惨めになったり、相手を恨んだりするような汚い部分も全部混ぜ込んで恋なの!」
「だって、兄弟に対してだって汚い感情になっちゃうんだよ。そんなの、いやだ…主さんを好きになればそれが付きまとうんなら、僕は…っ」
「気づいてるんでしょ、だから逃げてるだけだよ堀川は。あのね、僕らだって主のこと好きだよ。そりゃぁ僕らを使役して、神として家族として扱ってくれるんだもん。でも、僕らの好きと堀川の好きはきっと違う。僕はね、主が幸せになるのなら誰と番になっても文句はないよ。…堀川は違うよね?主が堀川以外を選んだならきっと生きていけない。そうなりたくないなら自分の気持ちを自分で認めて、素直にならなきゃいけないんだよ」
「うじうじ嫉妬するくらいなら、さっさと自分のものにしちゃえばいい。あーんなに堀川のこと好き好き言ってるのに、当の堀川には冷たくされて主かわいそー。ま、堀川がいらないっていうなら俺がもらっちゃってもーー」


「駄目だよ」


あぁ、自分でも思ったより低い声が出た。冗談交じりに言った清光くんの言葉でさえも、この感情を認めてしまえば笑って受け流せなくなる。そんな自分が許せないから気付かないように、目を逸らしてたのに。


「駄目だよ。安定くんが言ったことは違うけど、きっと僕は主さんが好きなんだろうね。でもね、僕はきっと主さんが僕以外を選んだのなら、主さんの相手も殺して主さんも殺して僕も死んでしまうよ。それほどまでに思い感情なんだ。人間の主さんにこの醜くて思い感情なんて受け入れられないよね。…でも、駄目だよ。自覚したら欲しくて欲しくて堪らないんだもの。僕だけを見て欲しい、隣にいて欲しい、僕を愛して欲しい…なんて思っちゃうんだもん。駄目だなぁ、冷静にならなきゃ…あは」


部屋の空気が一気に冷える。なんでだろうね、主さんと短刀の好みで今は夏の景観なのに。


あはははっと笑う僕と涙目になって抱き合って震えている清光くんと安定くん。あれ、なんで怯えてるのかな?僕を嗾けたの二人でしょ?開けちゃいけないものを開けたんだから、それ相応の覚悟はしてなくちゃ。


「ほ、りかわ…?」
「欲しいなぁ、欲しいなぁ。今すぐ伝えれば僕のものになるのかな。なら、行かなくちゃ…」
「えっ、待って待って堀川!今の状態で行ったら多分近侍のやつに敵に間違えられて切られるから!落ち着いて、深呼吸だよ!」
「ほら、ひっひっふーだよ!」
「それラマーズ法でしょ、バカ定!今ボケてる場合じゃないんだって!あーもう、なんでこんなに力強いわけーっ!脇差なのに打刀二人がかりで止められないとかあり得ないんだけど!」


和泉守どこいった!と二人が叫ぶのも気にせずただ、主さんがいる執務室へ向かって歩く。きっと今日も書類にまみれて汚いあの部屋で必死に仕事をしてるんだろう。そして僕が部屋に入ると太陽みたいな笑顔で笑って、どんな罵詈雑言でも幸せそうに受け入れてくれるんだろう。素直に好きと伝えれば、もっとあの太陽みたいな笑顔で笑ってくれるのだろうか。


素直に、伝えれば。


「うわぁぁあんっ、主逃げてぇぇぇえええっ!」
「堀川機動はやっ!ちょ、和泉守ぃぃぃぃいいいっ!」


すぱんっ、と勢いよくふすまを開けて二人の絶叫を聞きながら僕は口を開く。



「…相変わらずきったない部屋ですね。こんな汚らしい部屋で仕事するあなたの気がしれません。今日の近侍は僕の兄弟ですよね。悪影響なんで、さっさと片付けてくれません?」


素直になろう、と考えていた伝えたかった言葉と全く違う言葉。いつも通りの冷たい声で、全く動かない表情で、冷ややかな言葉を吐く。それだけで頭の中が大混乱なのに、主さんの側に兄弟…山姥切国広が控えていたのだからするすると傷付けるための言葉が出てくる。


こんな僕が素直になれるのはきっと、まだ先の話なんだろうな。



その後…。

「きょ、兄弟はなぜ用事もないのに執務室へ来たのだろうな」
「で、罵詈雑言吐いて清光に引きづられて帰って行ったけど」
「あんたは、兄弟のあの発言嫌じゃないのか?俺が言うのもなんだか、割と理不尽じゃないか」
「照れ隠しだと思えば無問題!訳分かんない行動する堀川も可愛いっ!」
「(この審神者のせいで兄弟も訳が分からない性格になったのか…。自業自得だな)悶えてないで書類を終わらせるぞ。期限までにやれば現世への期間許可が貰えるんだろう。俺は早くぱんけーきとやらを食べてみたい」
「へいへい、まんばちゃんは本当甘党だよな。んじゃ可愛い初期刀のためにいっちょ頑張りますかな」
「(兄弟には悪いが、主の初期刀として、近侍としてまだ隣にいることは許してもらいたい。俺だって主のことは憎からず思ってるのだから)」







2016/01/28 21:46(0)


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