▽小噺2

・たぬたぬと!(七瀬陽の場合)
「…っ、てやぁっ!」
「甘ぇっ、もっと本気で来やがれ!」
「これでも、っ…本気だよ!君こそ、手加減しないでよね…っ!」


「っ、んは…ぁ、体力馬鹿と…、手合わせはきついね」
「普通だろうがこれくらい。俺らは刀なんだぜ?戦場で斬り合うのが普通だろうが」
「ほんっと、君はそれしか頭にないね。せっかく人の形を取れたんだしやりたいこととかないわけ?」
「あぁ?んんなもん、戦場に出て戦いてぇぐらいしかねーよ。今まで碌に動けなかった分、暴れまわりたくてたまんねぇ!」
「お安いことで。君が望むなら叶えてあげないこともないけど、今はまだゆっくりするべき時期だよ。もう少ししたらある程度僕らのお仕事も終わって、新しい審神者が来るから思う存分力を振るえると思うよ」
「新しい、審神者…か。次のやつは俺らを上手く使えるやつだったらいいのによぉ」
「僕らが選ぶんだからいい人に決まってるでしょ。人間のことだから絶対とは言えないけどさ。それでも、君たちが幸せになるために力を尽くすからさ、信じて待っててくれると嬉しいかな」
「…なら、信じれる実力を示しやがれ。俺らは刀だ。これでやりあう以外に俺はしらねぇ」
「結局そうなるんだね。ま、僕も同意見だけどさっ!」

「うわ、道場暑苦し…っ!」

→2人は良きライバル。なんやかんやで陽も脳筋なのを自覚したらもっと肉体言語でやりあうようになります。この小噺のさらに小噺として陽との初対面時にたぬたぬが乱と同じ女装男士だと勘違いした結果、お風呂場で大乱闘が開催されたことがある。どちらがが恋愛感情を持ったらベッタベタな少女漫画展開になること間違いなしの2人。


・たろじろと!(一ノ瀬柚葉の場合)
「いってー!」
「あんたまたぶつけたのかいwww兄貴もだけどよくぶつけるねぇ」
「大丈夫ですか?」
「んー、だってここ全体的にちっさいじゃん。じろちゃんでギリギリじゃぁ、あたしなんか意識しなかったらすぐにぶつかっちまうよ!」
「まぁ、あんたあたしより大きいもんねぇ。ほら、手入れ部屋に行くほどじゃないし手当てしてあげる」
「私もよくぶつけるので次郎に手当てしてもらうんですよ。あぁ、赤くなってますね」
「絶対この本丸改築してやる。政府に申請すればたろちゃんサイズで作れるからさー。あいてっ」
「はいはい、我慢しなよー。あ、酒飲むかい?酔っちまえば痛みなんて分かんないよ?」
「あたし酒ダメなんだよなー。気持ちだけもらっとくわ。さんきゅー、じろちゃん」
「そういえば、燭台切がおやつをつくっておりましたね…」
「ちょ、急な話題変換wwwたろちゃん甘いもん好きだよなぁ」
「アタシは酒に合う味の濃いもんが好きだねぇ。柚葉は歌仙の作る料理が好きだよね」
「雅だなんだは分かんねーけど、味が濃すぎなくて旨いんだよな。んじゃ、広間に行っておやつ食おうぜ」

「いだぁっ!」
「…っ!」
「学習能力www」

→おっきい組で仲良し。特によく頭をぶつけるたろちゃんと一緒にじろちゃんに手当てを受けに行く。3人で飲み会するときは柚葉は素面でおつまみ作成係り。素面でも酔っ払いと大して変わらないテンションなので、他の人たちからは絶対酒飲んでるだろ…と思われている。


・最後に!(お別れの場合)
「本丸の刀剣男士のメンタルケア完了しましたー!夜うなされる子も、人間に敵視する子もいなくなったよ!」
「けど、新しい審神者に全員ある程度の恐怖を抱いてるのを忘れないで。僕らがいなくなって、不安になることも配慮に入れて気長にコミュニケーションを取ればいいと思うよ」
「本丸内の設備の改築、増築も全部終わってる。この本丸には太郎太刀がいるからな、あいつに合わせて部屋を作ってやれ、くらいかな?」
「私の意見としては刀剣だけが知る、隠し部屋があってもいいと思いますね。もしもの時のために資材を少し置いておいてくだされば、私たちが再び喚ばれたときにスムーズに行動に移せます。まぁ、もしもがないほうが断然良いのですが」
「荒れっぱなしだった畑も私たちの霊力で四季折々の野菜や果物を作れるようになってます。私たちがいなくなった後、少しの時間なら同じように育つのでせめて1週間以内には霊力の調整お願いします…と伝えておいてください」

ぽんぽんとやってきた政府の役員に必要事項を伝える刀剣女士たち。本日は出陣もなく、内番もなく、全員が広間に集まっていた。彼らは彼女たちの言葉に、終わりが来たことを悟る。そのために今日1日全ての業務を免除されたのだと。


「…最後に、前任者が悪足掻きでかけた呪いは解除しておきました。わたしたちが刀解されたあと、不調がありましたら本職の方に連絡を。以上でNo.159×××本丸のケアを終わります。速やかに刀解の準備を」

そう、詩織が締めくくれば待機していた政府役員が刀解の用意を始める。彼女たちは報告を終え、先程までの真剣な表情を消し楽しそうに話している。昨日まで一緒に笑い合っていた彼女たちはいつかはいなくなる。知っていたはずなのに、どう声をかけていいか分からない。じわりと嫌な汗をかくのが分かる。


「き、急すぎじゃないの?せめて、後1日…1週間でもここにいられないの?」
「ごめんなさい、燭台切さん。私たち、仕事以外で本霊から出ていけないんです。お仕事が終わったら直ぐに本霊に帰る、それが私たちですから」
「それでも…っ、いきなりすぎるよ!」
「いなくなるんですか?僕たちが立ち直ったから?」
「いやです!あなたたちもぼくたちとおなじ刀剣じゃないですか!なんで…っ、いなくなるんですかぁっ」
「うわぁぁぁんっ」

正しく阿鼻叫喚だろう。短刀たちは泣き出し、彼ら以外の刀たちも泣き出す者もいれば刀解の用意を行っている政府の職員を叩っ斬るように睨みつける者もいる。そんな彼らの様子を見ながらも彼女たちの意思は変わらない。


「そもそもあたしらが生まれた理由がお前ら刀剣男士が円滑に歴史修正主義者と戦うためのサポートのためだ。お役目が終われば元に戻る、当たり前だろ?」
「私たちはそれに不満も不安も一切ありません。寧ろいまこの瞬間に刀解されなければ私たちの存在意義が根底から変わってしまいます」
「君たちがどれだけ僕らを望んでも、目印がすでに立ち直った本丸にいたらややこしいでしょ」
「私たちの存続を望むって言うことはさぁ、私たちに死ねって言ってることなんだよ。あなたたちは私たちを殺したいの?」
「すごく、楽しかったですよ!これでお別れっていうのはやっぱり少し寂しいけれど、みんなが笑えるようになったならわたしも同じくらい嬉しいですから!」
「そういうことだから泣き止んで、殺気を止めてくれる?…だから必要以上に馴れ合うなって言ったのに。お別れするときに悲しいのはあなたたちなんだから」

泣き声は止まない。立ち直りが済んだ本丸では恒例となった光景で、政府役員も慣れた顔だ。それくらい彼女たちは傷ついた刀剣男士の心の支えになっていたんだろう。人間が行えば少なからず犠牲がでる立て直しも、彼女たちが行うようになってから犠牲者もほぼいなくなったと言っていい。

「じろちゃん、たろちゃんじゃぁな!あたしたちはずっと見守ってるよ。げんきで」
「今度は堕ちないでくださいね?あなたたちに見えないだけでずっと見えてるんですから」
「そーそー、たぬきも…腑抜けた姿見せるんなら殴りに来るからね。ほら、僕に勝ったんだから、しゃんとしなよ」
「あのねぇ、乱ちゃんも加州くんもちゃんと可愛いよ。だから、次の審神者さんにちゃんと愛される、大事にされる。自信持って!」
「ご飯美味しかったですよ、燭台切さん。優しいお兄さんっていうのもいいですけど、少しくらい格好悪くたってみんながいます!仲間なんだからいーっぱい頼ってあげてくださいね!」
「詩織、あたしたちは先に還るからさあとよろしくな」
「はい」

最後に残るのは最初に呼び出された刀。政府役員によって詩織以外の5振りは呆気なく刀解され、本霊に帰っていく。それを見届けて詩織は口を開く。


「刀剣男士のみなさん、どうか人間を恨まないで。あなたたちに個性があるように、心があるように、人間だって同じものを持ってるよ。裏切られるかも、人間なんて信じたくないって気持ちは悪いものじゃない。でもね、それだけじゃないから。次の審神者はきっとあなたたちを愛してくれる、大事にしてくれる。わたしたちはずっと見てるから」

詩織はこの本丸の全員に初めて笑顔を見せる。詩織も刀剣男士たちと同じように涙を流しながら、なお笑う。

「お別れが寂しくないわけないんです。わたしたちだって出来ることならあなたたちと一緒に戦いたい。でも無理だから、せめて見守らせて」

そう言って詩織は本体である刀を、山姥切国広に渡す。詩織以外の刀剣女士はここにいた痕跡も残さずに還っていったのに。


「わたしの魂は本霊に帰る。だからせめてこれだけであなたたちの守りに。何があっても側にいるから、すぐに助けにくるから。だから、さみしくないでしょ?」

それだけ告げて詩織は、他の女士たちと同じように政府役員の元へ行く。神棚の上に乗り、飛びっきりの笑顔になる。

「どうか、二度と縁が結び付かないよう祈っています」


詩織が消えた後は政府役員が全て片付けてしまったので、山姥切国広の手の中にある彼女だった短刀以外に彼女たちがいた証拠はない。ただ、すべての刀剣が感じていた。もう二度あの暖かい魂を持つ彼女たちに会えないのだと。それがあるべき姿のだと。


***
刀剣女士。彼女たちを鍛刀するレシピは存在しない。ドロップもされない。ただ彼女たちは確かに存在する。

次に来るのはあなたの本丸かもしれないね。


「二宮詩織です。何度も再刃されて、小さくなりましたけどまだ刀としての力は失ってません。力の限りあなたをお守りします」




2016/01/28 23:11(0)


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