▽私だけが楽しい小噺 前

side詩織
ブラック本丸の現場でわたしが一番に喚ばれるときは重傷放置の刀剣が多いとき。少なからず手入れができるよう政府にプログラムされているから、早く直してしまおう。そのためにはまず、クズ審神者の端末情報を弄らなくちゃ話にならない。

「あるじさまの使われている機械、それって私たちの身体や刀の状態を見れるんですよね?あるじさまを守るために身体の状態を万全にしておきたいんです。どうかわたしに使わせてくれませんか?」

気持ち悪いクズ審神者に凭れかかって、精一杯の甘い声で強請る。これが成功しなくてもこっそり弄ればいいんだけど、できるだけ早く手入れをしてあげたい。痛みに耐える彼らを放って置けない。

「ん、そうかそうか。お前は頑張り屋さんだなぁ!貸してあげるから好きに使いなさい。でも、壊してはいけないよ?」
「はい、ありがとうございます!やっぱりあるじさまはお優しいですっ」

気持ち悪い手が身体を弄る気持ち悪さに耐えながら笑う。だめ、ここで抵抗すればどうなるかなんて分かってる。迫り来る吐き気を耐えながら、端末を弄る。わたしの身体を触ることに夢中になっている審神者は画面に視線が向いていない隙に一気に情報を書き換える。これでどれだけわたしが手入れをしてもこいつには気付かれない。

「…っ、あるじさま、ありがとうございました!あ、もうこんな時間。わたしあるじさまのご飯を作りたいので少し厨に行きますね。腕によりをかけて作るのでぜーんぶ食べてくださいね!」
「あぁ、お前の食事は美味しいからね。そうだ、お前の分と俺の分を作って2人で食べよう。何度も言ったと思うが、他の奴らに作る必要はないからね」
「…分かりました!では、失礼しますね」

生暖かい手から抜け出して笑顔を保ちながら執務室からでる。そのままへたり込みそうになりながらも必死で厨まで歩く。


気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…っ!


「だいじょうぶ、だいじょうぶ…」


厨に行くとわたしが顕現されるまで厨番だった燭台切さんがいた。わたしを見て傷だらけの顔がくしゃりと歪んだ。

「……」
「あるじさまに食事を作るよう言われました。少し場所をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「あの人のお気に入りなら、僕なんかに許可を取らなくてもいいんじゃない。…あぁ、でも僕がここでしていたこと言わないでくれるとありがたいな」
「食事の用意ですか?あるじさまからあなたたちの分は用意しなくていいと言われておりますので、ご自由に」
「はぁ…?」
「わたしは、わたしがあなたたちの食事を用意するなと言われただけです。あなたが作る分には止めろとも報告しろとも言われておりませんので」

でも作るならおじやとか、消化の良いものをお勧めします。急に量を取ると吐いてしまう可能性が高いので。というと彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、口をあんぐりと開けた。イケメンが台無しだなぁ。

話しながらも手は止めず、料理を作る。味のごまかしがしやすいから今日はビーフシチュー。下準備として煮込んでいた鍋に政府支給の合法の睡眠薬をひと瓶丸々ぶち込む。え、恨みとかないよ?ただ眠ってくれる方が都合いいだけ。

「ちょ…っ、君何してるの!?」
「あるじさまが夜起きていると色々不都合があるので、薬を盛らせていただきます。ただの睡眠薬なので、死なないですよ…たぶん」
「ちっさい声で多分っていうの止めてよ!」
「嘘ですよ、過剰摂取は死に至りますけどそこを計算して入れてるので大丈夫です。今殺して仕舞えば色々面倒臭いんですよね。わたしが怒られちゃいます」
「え、それどいうこと?」
「…口が滑りました。今の発言は忘れてください。その代わりあなたの今の行為を見なかったことにしますので」

危ない危ない、危うく口を滑らせるところだった。ま、計画もほとんど終わるしバレたところで支障はないけど。

睡眠薬が溶け込んだビーフシチューを器に盛って、付け合せのサラダも丁寧に盛る。うん、見た目はすごく美味しそう。流石わたしだよね、睡眠薬さえ入っていても美味しいんだから。

「では、失礼します」
「…何を企んでるかは知らないけど、これ以上本丸を引っ掻き回さないでよ」
「大丈夫です、きっと明日にはみんな笑えますよ」

きっと、わたしがこの悪夢を終わらせるから。


***
「う、ぇ…っ」

夕食後、わたしはクズ審神者にベタベタ触られ服の中に手を突っ込まれ口吸いまでやられた後ギリギリのところで逃げてきた。それから厠に直行して胃の中のものを全て吐き出す作業に移る。吐いても夕食の分が出てしまえばあとは出るのは胃液ばかり。なんとも言えない味が口いっぱいに広がる。


「こんなところで…っ、体力使えないのに…っ!うぇ、」

吐き切ってから口をゆすいで、クソ審神者の最終確認。うん、ぐっすり眠ってる。確認が終われば、わたし専用の端末を操作。政府に逐一報告しなきゃなんないのが面倒だよね、これ。

「No.192××××本丸、只今より刀剣男士の手入れに入ります。物品の転送をお願いします」

連絡をすれば一瞬で届く資材や、打ち粉。時間短縮のための大量の手伝い札。わたしは打ち粉と手伝い札を掴み、重傷放置されている彼らの部屋へと足を進めた。


部屋の前に行くと、痛みに呻く声。あまりの痛みに十分な睡眠すら取れていないらしい。その声のほとんどは声変わりのしていない幼い声。

「ほんっと、胸糞悪いよね」

すぱーんっ、と襖を開けて驚く彼らの声を無視して端末で調べた重傷者から手入れしていく。資材はなぜか勝手に使われるため、わたしが行うのは打ち粉でぽんぽんして手伝い札に霊力を込めて使うだけ。見る見るうちに今にも折れそうな刀は、鋭い輝きを放つ素晴らしい刀に戻った。何か言ってるけど、無視。夜の間しか時間ないんだから話している暇はないの。

素早く10振りを超える重傷者を手入れしてから、次の部屋に向かう。次は中傷者。ほどんどの刀がこれに当たって、本丸を機能させている。

同じように襖をすぱんと開けて、驚く声を無視して問答無用で手入れしていく。途中視界が真っ白になったり、倒れかけたりしたけど無事全員の手入れを終えた。

「…お守り、これ持ってたらあの審神者には中傷、重傷状態に見える。また、怪我をしたらすぐに言って、わたしが直すから」

フラフラと不安定な足元だけど、心配させたくなくて必死に立つ。うん、これでもう大丈夫。多分センパイたちにすごく怒られるんだろうけど…やりきったよ。

自分に与えられた部屋に着くと、布団を用意する体力もなく気絶するように倒れた。




2016/01/28 21:53(0)


prev | next





メッセージありがとう!!



prev | next




コメントしますか?

名前:
内容:
最大1000文字まで
pass:
下記の画像に表示されている数字を、上記フォームに入力





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -