秋から冬へ(7) 「という訳で今日は酷い目に遭った」 バーナビー宅でバーナビーのリクライニングチェアを占領し、虎徹は焼酎を煽りながらぐちぐちと文句を言っている。 バーナビーの方はいつものグラビアの仕事とインタビューでOBCに居っぱなしだったこともあり、大して疲れていなかったのでキッチンに立っていた。 とはいえ作れるつまみは簡単なもので、ホワイトアスパラガスの缶詰を開け、アスパラを半分に切ったものに生ハムを巻いただけ。 キャンディーチーズを一掴み皿に盛ってそれをサイドテーブルの上に出してやった。 「お前は食わないの?」 そう聞かれたので一緒に持ってきた瓶を掲げる。 それがオリーブだという事に気づいて虎徹は頷いた。 「後でそれも頂戴」 「仕方ないなあ」 それからなんでそんなに疲れてるのかというバーナビーの問いに、虎徹は「日本のファンが作ったっていうファンブックがとんでもないものだった」と更に愚痴るのだ。 話を聞いていたバーナビーは「ああ」と頷く。 「日本は漫画や小説がこっちより過激ですよね」 「お前知ってたの?」 「はい」 バーナビーは頷きながら、なんで虎徹さんが知らないのかそっちの方が気になると言った。 「僕がデビューしてからはトップが僕になることが多いみたいですけど、以前は女性相手のノーマルなものを除くと虎徹さんがトップで相手はステルスソルジャーさんが多かったみたいですよ」 「嘘だろなんでお前そんなこと知ってるの」 「ええ……そんなの自分の事をサーチしたら嫌でも引っかかってきますし。そもそも一番多いのって今はスカイハイさんとブルーローズもので次点が僕とブルーローズですけど。というかブルーローズ18歳になってからはブルーローズが最多です。ドラゴンキッドはまだ未成年なので規制が入ってますね」 「そんなもの調べるなよ」 「調べた訳じゃないんですけどね。ネットで自分を検索すると大抵引っかかって来ちゃうんですよ。目に入るというか。後ファンサイトに来たファンメールの返信を僕は自分でやってるんですけどどうしてもその時に目にしちゃうんですよ。虎徹さんはスタッフに委託してるから目にしてないだけだと思います」 手紙で来るファンレター以外のものにも目を通したら如何です? そう言われて少し逡巡したようだが、虎徹は首を横に振った。 「生身の俺とワイルドタイガーは別物だからな。俺はそういうスタンスなんで。そういや折紙はブログやってるんだもんな。てことはお前と一緒で自分で管理して自分で来たコメントやメールには本人が対応してるって訳か。会社通さないで直でヒーローと話せるなら今どきの若い奴らはその方が親しみがあるんだろうな。でもありゃないぜ、アレは。あんなん楓には絶対見せられねぇし」 「見せなきゃいいでしょうに」 バーナビーは笑った。 「ブルーローズも会社が間に入ってるとは言え、相当酷い事になってますからね。でも彼女は見ない訳にはいかないと思いますよ防衛の為にも。まあ会社がしっかりしてるから大丈夫でしょう。会社が守ってくれない僕と折紙先輩はかなり際どい活動してる方になるのかな」 「お前気を付けろよー」 虎徹が茶化そうとそう言ってきたが、「虎徹さんの方が危ない気がしますけどね。むしろちゃんとある程度は知っておいた方がいいんじゃないかと。僕はトップの方が多いですがなんでか今虎徹さんはボトムにされる事が多いんですよね。誰相手にでもですよ。スカイハイさん相手でもですよ?」と逆に言われて飛び上がった。 「嘘だろ、日本だけの事だと思ってた」 「むしろなんで日本だけが過激だと思ってたんです。漫画や小説では日本のアダルト物が凄い事になってますけど、シュテルンビルトでは動画ですよ」 「動画」 思わず復唱してしまい、「まさかブルーフィルムで?!」と再び飛び上がる。 「か、考えない様にしてきたけど、そいつは――」 「一番酷い事になってるのは何度も言いますけどブルーローズで、次が僕と――えー、ではなくワイルドタイガー、かな?」 「なんでそこを疑問符にした?」 虎徹がそう聞くのでバーナビーは虎徹さんがボトムになってるものが多いんですよねと素直に答える。 「――なにそれ、ばれてるってことな訳? 俺がお前とそういう関係って事が?」 「ばれてるのではなく、単純にそういう組み合わせが人気あるってだけみたいですよ。僕の前はバイソンさんとスカイハイさんが一緒ぐらい? だったみたいですし」 「俺バイソンに喧嘩で負けた事ねえんだけど?」 「単純に見た目の問題じゃないですかね」 「なんかムカつくな」 とは言え多少納得したのか安心したような顔になるのをバーナビーは見逃さない。 「気になるようならどんなものか見せましょうか?」 すると虎徹は目を剥いた。 「待て、お前知ってるだけじゃなくて態々手に入れてるの? それを? 折紙みたく?」 「折紙先輩のは日本のファンから送り付けられたものであって本人が手に入れようとしたものじゃないでしょう」 現物があったんでしょうと聞くとちゃんとした冊子になっていたと聞いて頷く。 「動画はネットから拾ってこれるじゃないですか」 「拾い物なのかよ」 二重の意味で最低じゃないかというと、バーナビーはちゃんとお金を払ってダウンロードしたものもあると言い訳して更に虎徹に軽蔑されていた。 「金払ってまでなんで手に入れるんだよそんなもん」 「学びの為に必要だったんですよ」 「なんの」 「そこ聞きます? 貴方とのセックスの為ですよ。男性相手のやり方なんか知る訳ないじゃないですか」 「因みに聞くけど最初の時ってそいつ見てたの? 既に見て参考にしてやったんですかね」 「どっちでしょう?」 バーナビーの返事に虎徹はむくれた。 「勉強しといてあれって酷くない?」 「そうですね」 バーナビーは神妙に頷いた。 「正直役に立ったのはネット掲示板でのテキスト指南の方でした」 [mokuji] [しおりを挟む] |